第137話・わたし達が助けるべき人達
「ここの人達って捕まってるんじゃないみたい。」と正美がつぶやいた。
「どういう事なんですか?」と美由紀が不満げな顔で尋ねる。
「わたし達が救いだすべき人は、ここじゃないって事よ。」
とわたしがフォローする。
「皆さんは、特にナチの奴らにひどい目に遭ってないんですよね?」と正美が念を押す。
その問いかけに静かにうなずく少年だった。
「そういえば、スパイ収容棟に日本語のできるブロンドの女の子がいるんですよ。」
「あの子、大丈夫かなあ。」
と少年が話し始めた。
「確かリトアニア人って言ってました。」
「可愛い子だったから、フェンス越しに呼びかけたんです。」
「その子、スパイでテロリストってことなの?」と正美。
「分かりません、でも他の人達もそんなに悪い人には見えなかったけど・・。」
「政治犯とかその人質とか、きっと酷い目に遭ってるんだわ。」と正美。
「スパイの収容棟はここから100m位向こうにあります。」
「電流の流れているフェンスに囲まれていて警備が厳重なんです。」
「助けるのは無理だと思いますよ。」と続ける少年だった。
「わたし達は皆さんに危害を加えるつもりはありません。」
「なので、皆さんはここにいて下さい。」と毅然とした態度の正美。
「それじゃあ、スパイ収容棟に行くわよ!」と銃を構えながら歩き出す彼女だった。
突然のわたし達の襲来に、呆然と立ち尽くす国外退去の人達。
そんな彼らを置いてわたし達は外に出た。
外に出て辺りを見渡せば、比較的粗末な造りの一時収容棟が5つ有り、その向こうにはフェンスに囲まれたコンクリート製の収容棟が2つ確認できた。
フェンスは3m以上の高さがあってドクロに稲妻のマークが掲げてあるから、少年の言うように電流が流れているのだろう。
更にフェンス中央には頑丈そうなゲートがあり、その脇にはトーチカが設置され、銃眼からは機関銃が周囲を狙っていた。
フェンスの両脇には監視等が有って、サーチライトと機銃を構えた監視兵が2名づついた。
先程わたし達が起こした騒動で、この施設の警備部隊は戦闘態勢を整えて守備を固めていた。
「アイツらわたし達の事を待ち構えているんだわ。」と美由紀。
よく見ると一般棟を警備していた普通の兵士とは服装が違った。
遠目に見てもゲートや監視塔にいるのは黒いヘルメットに黒いジャケットを着た兵士達で、腕にはハーケンクロイツの腕章をしていた。
「アイツらって、たぶんナチスの親衛隊だわ。」
「捕虜や捕まえた人達に拷問を加える酷い奴らなの。」と続けるわたし。
「待ってなさい!」
「今、正義の味方、わたし達シルバーリリンズが助けに行くわ!」と言って表情を引き締める正美。
その言葉に全員が大きくうなずいた。
わたし達全員が肩に高性能マシンガンを2丁づつ掛けて、腰には奪い取ったマガジンケースをぶら下げている。
もはや銃など無くても、わたし達の腕力なら親衛隊員どもを殴り倒して血路を開く事はできた。
しかし、そこはサイズが1倍とちょっとだから、一応銃を携帯すると安心なわたし達。
それでもスパイ棟正面ゲートに向かって隠れることもなく堂々と歩いていく。
そんな大きなお姉さんの一団に恐れを成したのか守備隊員はまだ発砲してこない。
「アイツらビビってるんですかね?」と美由紀がニヤつきながら口走る。
「無理もないわ、さっきのあなた達の暴れっぷりを見てたのよ。」と正美。
そんなわたし達がゲートまで10m程の所まで来た瞬間に一斉射撃が始まった。
「ファイアッ!」
❝ババババババババッ!❞
❝ドドドドドドドッ!❞
指揮官の号令と共にサーチライトがわたし達を照らし出し、オレンジ色の閃光がこちらに向かって降り注いだ。
一瞬たじろいだわたし達だったが、先ほどと同様に火花を飛び散らせながら無数の銃弾が弾け散っていく。
❝プシュ、プシュ、プシュ、プシュ!❞
「ホント、ウザい奴ら!」
美由紀がそう吐き捨てると、トーチカに向かって走り出した。
「舐めんじゃね~ヨ!」
狂ったように撃ちまくる機銃の銃口を左手で掴むと、右手のマシンガンで銃眼から中の連中に目くら撃ちを喰らわす彼女。
❝ババババババババッ!❞
「イェ~い!イェイ、イェイ!」
❝ババババババババッ!❞
叫びながら中の守備隊員達をハチの巣にする。
そんな美由紀の勇敢な行動にわたし達も奮い立つ。
❝ババババババババッ!❞
奈美江と正美が左右それぞれの監視塔を狙い撃ちにする。
❝パキン!パラパラパラ!❞
サーチライトが割れ、警備兵が頭や胸を撃ち抜かれて監視塔から落下した。
スパイ棟の外周を固めていた奴らは難なく沈黙させられた。
かなり頑丈なゲートの扉だったが美由紀が強烈な蹴りを見舞った。
「オラッ!」
❝ズコーン!❞
❝バシュッ!ビリビリッ!❞
彼女が蹴った瞬間に流れていた電流がショートして火花が飛んだ。
左右開閉式のフェンスの引き戸は、中央のロックが吹っ飛び、衝撃でガラガラと開いた。
「美由紀凄いじゃん!」と奈美江が叫ぶ。
「任せといて!」と親指を突き立てる彼女。
開いた扉から中に侵入するわたし達。
ここから先はあらゆる所に親衛隊員が潜んでいる事だろう。
そんな連中を恐れる事もなく、コンクリート製の収容棟を目指すわたし達だった。
もはや怖いものなど何も無い。
早く親衛隊の奴らをいたぶり殺したいわたし達だった。