第136話・収容所を解放するはずだったわたし達
サイレンが鳴り響き、騒然とする収容所内。
すると正面ゲートの方からもけたたましい銃声が聞こえてきた。
❝ドドドドドドドドッ!❞
❝ドドドドッ!❞
振り返ると、奈美江が重機関銃にしがみついて撃ちまくっている。
どうやらゲートに向かってやって来るドイツ軍部隊に発砲しているようだった。
サイドカーに小型ジープに兵員輸送トラックが2台。
どうやら収容所の警備部隊が訓練から戻って来たみたいだ。
❝ヴォッカーン!❞
先頭のサイドカーが奈美江の銃弾をもろに浴びて爆発し、2名の兵士が投げ出された。
❝ドドドドドッ!❞
❝ヴォヴォーン!❞
更にその後ろを走行していた4人乗りのジープにも弾丸が命中して爆発炎上した。
その後方にいた2台のトラックは急停車して、乗っていた兵士達がバラバラと降りて突撃しようとしている。
「奈美江さん、大丈夫かなあ?」と心配するわたし。
「大丈夫よ、彼女ガッツがあるから。」
「美由紀!奈美江の援護に行って!」とすかさず指示を出す正美。
「了解です!」と言って美由紀がゲートに向かって走り出した。
機銃陣地に飛び込んだ美由紀もマシンガンで撃ちまくる。
❝ドドドドドドッ!❞
❝ババババババッ!❞
突撃を開始した30名の兵士達はリリンズ女子2人の放つ銃弾に次々と撃ち抜かれて倒れていく。
「なんか、射的でもやってるみたい!」と奈美江が容赦なく撃ちまくる。
「わたし達を舐めんなよ!・・みたいな!」と美由紀。
その時だった、森の中を迂回してきた3名の敵兵が側面から彼女達を狙い撃ちし始めた。
❝ババババババババッ!❞
土のうに片足を乗せて撃ちまくっていた美由紀を奴らの銃弾が襲う。
❝プシュプシュプシュプシュ!❞
美由紀の体に弾が当たった瞬間、小さな火花が飛び散り銃弾が弾けた。
「ナニこれ?全然感じない!」
巨大化している時と同じように、この世界の武器はわたし達には全く通用しなかった。
❝こんな経験初めてだけど、やっぱり思った通りだわ。❞
と妙に納得してホッとするわたし。
「だから言ったでしょ、アイツらの武器は効かないのよ!」
わたしの言葉を聞いて安心したのか、自分に銃撃を加えてきた連中に向かって大股で歩き出す美由紀。
怒りで手が震えている。
❝パパパパパパパパッ!❞
❝シュン、シュン、シュン、シュン!❞
「エ~イ、ウルサイッ!」
「ワタシに歯向かうんじゃねェ!」
「オラッ!」
❝ドスッ!ヴァコッ!ボコッ!❞
何度銃弾を撃ち込んでもビクともしないひと回り大きなサイズの美由紀。
そんな彼女の前で放心状態の3人を次々と蹴り倒す彼女。
「ムカつくんだよ!ホラッ!」
❝ヴォス!ドス!ドス!❞
巨大な美脚で蹴り倒された彼らに容赦なく踏みを打ち込む彼女。
憎しみを込めた強烈な一撃が哀れな兵士の頭や腹を一発で陥没させていく。
そんな彼女に向かって10人のドイツ兵どもが襲い掛かって来た。
振り向きざまに2人まとめてはたき倒す彼女。
「ウゼェ~!」
❝バチーン!ドスッ!ヴォコッ!❞
ヘルメットが吹っ飛び、次々と張り倒され蹴り倒される兵士達。
奈美江も機銃陣地から彼らの方に向かってやって来た。
「もっとやっちゃえ!」
そう言いながら、足元に転がったドイツ兵に足蹴りを加える彼女。
「死ね!死ね!コノッ!」
❝ヴァス!ヴァス!ヴァス!❞
2m70cmの巨大な白バイお姉さん達を怒らせた彼らは地獄に突き落とされた。
仰向けに、うつ伏せに倒れた兵士達に執拗に蹴りと踏みを浴びせ続ける彼女達。
もはや息のある者はいなかった。
「あっちの方は大丈夫そうね。」
わたしの言葉にうなずきながら、収容棟に乱入する正美。
❝ババババババッ!❞
廊下にいた2人の兵士を撃ち殺し、更に中へと進む彼女。
わたしはその後に従った。
❝ヴァコーン!❞
収容部屋の扉を蹴破って中に入ると、50人位の人達が不安そうな顔をして中にいた。
ひと回り大きなサイズのわたし達を見て更に恐怖心に包まれる彼ら。
白人にアジア系に中東系などいろんな人種の人達が混在していた。
「安心して下さい!わたし達は味方です。」
「さあ皆さん、逃げて下さい!」と正美が叫ぶ。
「待ってください!」
収容者の中から日本語が聞こえてきた。
驚いて声の主を探すわたし達。
すると収容者の一団から中学生くらいの男の子が歩み出てきた。
「僕たちは日本に行くんです。」
「だから逃げる必要はないんです。」
意外な言葉が彼の口から飛び出した。
そして白人の中年女性が彼の傍らに立っている。
「僕の母です。」
「僕の母はドイツ人で父は日本人なんです。」
ハキハキとした感じのしゃべり方はちゃんとした日本語だったが彼の顔は白人風だった。
「あなた達って捕まってるんじゃないの?」
と正美が尋ねる。
「ここに収容されているのは、西側への亡命希望者と国外退去になった人達なんです。」
「僕と母は父のいる日本に行くんです。」
「あなた達は誰なんですか?」
「それに、どうしてそんなに大きいんですか?」
と質問されたが、事情も知らず適当にトリップしてきたわたし達としては答えに詰まってしまう。
少し間を置いてから正美が応えた。
「わたし達は未来の日本からやって来たシルバーリリンズって言います。」
「時空トリップすると、こんな風に大きくなっちゃうんです。」
「でも、一時収容施設なのにどうして軍隊が警備しているの?」
と質問する彼女。
「僕達は一時滞在だから、すぐに迎えが来るんですけど・・。」
「実はこの奥に、スパイ容疑で捕まった人達が50人位収容されているんです。」
「あなた達のような一時滞在の人ってどのくらいいるの?」
とわたしが尋ねると
「200人位だと思います。」と応える彼。
予想外の展開に戸惑うわたし達だった。
そうこうしている内に奈美江と美由紀が戻って来た。
「さあ、みんなで逃げましょう!」
まだ事情を知らない2人は正義感のオーラで包まれていた。