第133話・正義の闘いだったのかな?
4人の巨大女子の標的になった港町は完全に焼け野原と化していた。
まるでじゅうたん爆撃でも受けたような荒廃ぶりだった。
しかし、これが爆撃によるものでない事は一目瞭然だった。
破壊し尽された街は、25mサイズの巨大な無数の靴跡で埋め尽くされていたからだ。
跡形もなくメチャクチャになった町を見下ろしながら少し浮かない顔の正美。
「わたし達って正義の味方よね?」
「これって、正しい事だったのかしら?」
「こんなにメチャメチャにしちゃって・・。」
さすがに軍事施設だけでなく、市街地をも完全に破壊した罪悪感が湧き上がって来た正美だった。
彼女の沈んだ顔を見て、バツの悪そうな後輩2人は黙ったままだ。
「ちょっと、やり過ぎちゃったかな。」
とわたしが話しかけた瞬間にグリーンの閃光が走り扉が出現した。
「みんな、元の世界に戻るわよ!」
そう言いながら、扉を開けて中に入るわたし。
無言の3人も後に従った。
正美だけが破壊し尽された街をいつまでも見つめている。
駅前の地下駐車場に戻って来たわたし達。
急に現実の世界に引き戻されて正美も少し落ち着いた表情に戻った。
そんな彼女にホッとしたのか2人の後輩にも笑顔が戻った。
「すぐに着替えなきゃ!」
正美がそう言いながら2人を急き立ててトイレに向かう。
暫くして元の制服姿になって戻って来た。
「結構汚れちゃいましたよね。」
奈美江が美由紀のブーツや手袋を指さして言った。
そういえば、パンツは自前のジーンズから履き替えたので綺麗だが、ジャケットは白っぽく粉塵にまみれて、ブーツはアウトソールから筒の部分にかけてどす黒い汚れが付着し、シルバー手袋もそれなりに汚れていた。
「これじゃあ、帰って怒られますよ。」と美由紀がか細い声でつぶやいた。
「とりあえず、ここで少し綺麗にしましょ。」と言って正美がバイクのポケットから雑巾を取り出した。
普段人が来ない地下3階だからいいようなものの、白バイ女子3人が集まって自分のブーツや手袋を濡れ雑巾で拭いている姿はやっぱり異様だったかもしれない。
「最近は警察官がコンビニで買い物してても通報されるからイヤ~ね。」と奈美江。
「ホントよねェ、こんな姿見られたら絶対に通報されるかも。」と美由紀。
そんな話をしながら、一生懸命に汚れを落とす3人だった。
そして正美が重い口調で言った。
「これって白昼夢だったのよねェ?」
「だって、わたし達あんな事しちゃって・・。」
と再び沈んだ表情になる彼女。
そんな彼女から変な罪悪感を取り除いてあげたくなったわたし。
「わたしも随分殺してきたんですよ、実は・・。」
と言いながら最初のトリップでの戸惑いや、住民を犠牲にしてきた罪悪感などいろんな体験を話してみた。
「そうだったんですか。」
とうなずく正美。
「でも、これってリアルだけど、こっちの世界に戻ってくれば白昼夢みたいなものですしね。」
とリアルな街破壊と大量虐殺の証拠である着衣の汚れが落ちるにつれて、やっと笑顔が戻ってきた彼女だった。
「でも、わたしは正義の闘いだったと思います。」と美由紀が言い放った。
「あんなチッこい戦車でわたし達の事を撃ってくるなんてありえないし。」
「きっとわたし達、オンナだと思って舐められたんですよ。」と続ける彼女。
「そうよねェ。」
「取り締まりでオンナは引っ込んでろって言われても、わたし達いつも我慢だしね。」
と普段のうっぷんが正美を感情的にさせた。
「アイツらはチッこいけど、わたし達の敵なのよ!」とわたしが諭すように言った。
「わたしはもっと正義の闘いをしたいです!」と奈美江が言った。
「わたしも!」と美由紀。
「律子さん、また今度もわたし達を連れてってくれますか?」と正美。
どうやら少し吹っ切れてきた彼女。
次回はナチの連中の非道な所を彼女達に見せつけた方が良さそうだと感じた。
そうすると、次回のトリップはナチの管理する強制収容所にでも行ってひと暴れすれば、正美の正義感に火をつけるはずだ。
「わかったわ!」
「次回はナチの奴らがどんな悪党かっていう本性を、タップリ見せてあげる。」
「この次は街破壊じゃなくて、彼らと同じ位のサイズよ。」
「覚悟はいいかしら?」
「でも心配しないでね。」
「わたし達、サイズは同じでも不死身だしウルトラパワー付きだから。」
と前に通訳官を探しに行った時の事を思い出しながら提案するわたし。
「なんか、面白そうですね。」
「わたし一度男を投げ飛ばしてみたかったんですよ。」と長身の美由紀が言う。
「普段できない体験ができそうね。」と正美も興味を持ち始めていた。
それでも以前のように1週間前トリップだと、少し刺激が強すぎるかもしれない。
ナチの兵士達に対して自分達が優位に感じる大きさの方がよいと思った。
計算上は1年前トリップならわたしの身長で3.3倍の5m46cm。
6ヶ月前なら1.65倍の大きさだから、わたしの身長も2m70cmになるはずだ。
屈強で大柄なナチの兵士達もわたし達にとっては小学生の男の子位だから恐怖感もないだろう。
そんな事を想像しながらほくそ笑んでいたら、彼女達の制服もブーツもすっかり綺麗になっていた。
「次回も10日後にここに来ればいいですか?」と正美。
「そうよ!今度も期待以上の冒険になるわよ!」と約束したわたし。
3人の白バイ女子達が、何事も無かったかのようにエンジン音を轟かせながら走り去っていった。