第126話・わたしの優しさも限界だわ!
❝ジュリジュリッ!❞
奈美江と美由紀が足元の軍需物資を踏みにじっている間に正美はドックの方に向かって歩き出した。
❝ズシーン!ズシーン!ズシーン!❞
モクモクと土煙を上げて一歩一歩道路を踏み抜きながら進む彼女。
「関係の無いものは壊さないようにしなきゃ。」
そういいながらも彼女の通った後にはズブズブになって使用不能になった道路が延々と続いていた。
道路の先には整備中の巡洋艦が2隻と潜水艦が2隻、ドック内に綺麗に並んでいた。
❝これを壊さなきゃ!❞
そう感じながらドックに足を踏み入れようとしたが、手前に工場があって正美の行くてを阻んでいた。
「これも軍需施設なら壊さなきゃ。」
それでもいきなり踏み潰す気にもなれず、少しだけ中を覗いてみたくなった彼女。
「ちょっと覗いてやれ、ごめんなさ~い!」
ゆっくりと右足を上げて工場の屋根につま先の部分を突き刺した。
❝ジュヴォッ!パラパラパラ。❞
中で働いていた労働者はさぞや驚いたことだろう。
地鳴りのような正美の足音が響いていたと思ったら、いきなり巨大な銀色のブーツのつま先が屋根を突き破って中にめり込んできたのだ。
❝バリバリバリバリ!❞
一旦垂直にめり込んだブーツのつま先がゆっくりと水平になり、屋根をすくい上げるようにしながら前方に動き始めた。
工場内は屋根から粉塵やら細かい破片が降り注ぎ騒然となった。
それでもお構いなしに巨大な正美のシルバーブーツが屋根を粉砕しながら彼らを完全に覆う尽くそうとしていた。
彼らに見えていたものは巨大なブーツのゴム製の靴底である。
互い違いに綺麗に並んだライン模様の黒いゴム製ソールはホコリや粉塵で真っ白に汚れていた。
「えいっ!」
❝ジュヴォーン!❞
彼らを覆っていた巨大なソールが凄まじい勢いで上空高く舞い上がった。
屋根は完全に吹き飛ばされて巨大な正美の姿が現れた。
一旦つま先を屋根に突き刺した後、ブーツをめり込ませて屋根をすくい上げるようにして蹴り上げた彼女。
屋根の破片が崩れ落ちて中の小人に被害が出ないように渾身の力を込めて蹴り上げたのだ。
天井が無くなってポッカリと開いた大きな穴に正美の巨大な顔が近づいてきた。
「皆さん、いきなりごめんなさい!」
「ここが軍需工場なら、わたし的には見逃す事はできません。」
「だから早くここから避難して下さい!」
中をマジマジと見回す彼女。
どうやら艦船の装甲版やら重火器を造る工場のようだった。
「早く逃げないとわたしに踏み潰されますよ!」
そういいながら更に顔を近づける彼女。
工場内には正美の声が響き渡り彼女の息が充満していた。
“ツーン”とした酸っぱい唾臭混じりの彼女の口臭に包まれた百名以上の小人達は恐怖で動けなくなっていた。
その内に10名の警備兵が中にやって来て正美の顔に向かって自動小銃を発砲し始めた。
❝ババババババッ!❞
「ナニすんのよォ!」
彼らの豆鉄砲など巨大な白バイお姉さんには全く通用しないのだが、正美を少しムッとさせた。
一旦中腰になった彼女、右手を工場内に突っ込んでマシンガンを撃ちまくっている小人を親指と人差し指で摘まんでは投げ捨てたり、人差し指で軽く弾き飛ばしたりしながら無力化させていった。
工場内を縦横無尽に襲い掛かるテカテカに光った正美のシルバーロング手袋。
それでも兵士達をひねり殺すような事はしなかった。
手にしていたマシンガンが吹っ飛んで地面に気絶している兵士達。
そんな中、工場労働者達は我先にと外に逃げ出していった。
すると彼女は右手で倒れている兵士達を摘まんでは左手の平に載せて回収し始めた。
巨大なシルバー手袋の手の平の上で折り重なる10名の兵士達。
「いつまで寝てるのよ、プッ!」
兵士達の目を覚まさせようと一瞬口元から唾を吐き掛ける彼女。
正美の吐き掛けた高速飛沫によって気が付いた彼ら。
それを確認するとゆっくりと足元に降ろして解放する彼女。
「いいこと!もうわたし達に逆らわないでね。」
そういと彼らは一目散に逃げ始めた。
これで工場内は完全に無人になった。
「これでやっと破壊できるわ。それっ!」
❝ズッシーン!❞
先ほど開けた巨大な風穴から足を踏み入れて中の施設や機械を踏みにじる彼女。
「え~い、面倒くさい!」
❝ズリズリズリ~!❞
一々細かい機械類を踏み潰すのが面倒になった彼女、ブーツのソールを滑らせながら工場内を右足でかき回し始めた。
シルバーブーツのアウトソールが整然と並んでいた機械や部品をメチャメチャに吹き飛ばしながら暴れ回る。
あらかた内部を破壊し終えたので一旦足を引き抜いから工場の壁面を思いっきり蹴りつけた。
❝ズッコーン!パラパラパラ!❞
あとはお構いなしに屋根を踏み抜きながら何度も踏みにじって跡形もなく破壊する彼女。
ドックの手前に建っていた工場は完全に更地になっていた。
「これで邪魔なものは無くなったわ。」
粉々になった瓦礫を足で右に左になぎ払いながらドックの前にやって来て仁王立ちになった彼女。
「ドックの皆さん!今からわたしがここを完全にぶっ壊します!」
「早くここから避難してください!」
ところがドック内の警備塔や機銃陣地から一斉に正美に向かって発砲が始まった。
それどころかブンカーの沖合からは奈美江達の破壊を逃れた10隻の水雷艇がブンカーを守ろうとこちらに向かってやってくるのが見えた。
「犠牲者を出さないなんて無理かな・・。」
そうつぶやきながら足元を見つめる彼女だった。