第121話・破壊ならわたし達に任せて下さい!
「うわっ!ナニこれ?」と美由紀が叫んだ。
奈美江は驚きのあまり声も出ないあり様だ。
わたしと正美に促されるようにして2人は時空の扉の中に入ってきた。
緊張する2人の前でわたしは前回トリップした場所をイメージする。
そして反対側のドアを開けると見覚えのある光景が眼下に広がっていた。
破壊された町の中心部のナチス本部ビルとペシャンコに踏み潰されたドイツ軍車両の残骸である。
わたし達はちょうど市街地の入り口付近に降り立った。
「この間のままですね。」
「わたしが壊したビルもそのままだし・・。」
と正美が口を開いた。
何が何だか訳の分からない2人の後輩。
「ウワァ~!ちっちゃな町~!」
「わたし達って巨大化したって事ですか?」と奈美江が信じられない、というような表情で尋ねる。
さらに美由紀が呆然と立ち尽くしながらつぶやいた。
「正美先輩ここに来たんですか?」
「そうなの、10日前に律子さんにここに連れてきてもらったの。」
「それに、わたし達は巨大化したんじゃなくて小人の世界に来たのよ。」
そして前回のトリップに至ったいきさつと、ドイツ軍を蹴散らして本部ビルを破壊した事を2人に説明する正美だった。
「これって、一応現実なんですよね?」と奈美江がささやくように言った。
「現実だけど、わたし達の住んでいる世界とは全然別みたい。」と言いながら街中に向かって歩き出す正美。
❝ズシーン!ズシーン!ズシーン!❞
彼女の後に続いて歩き出すわたし達。
前回市内中心部に入っていったのとは別の道路から侵入し始めたわたし達。
道路上にある街路灯などの細かい建造物や車両などを全く気にしないで歩き続けるわたし達。
先頭を歩く正美の巨大なシルバーロングブーツが路面電車の架線を引き千切り、街路樹や街路灯をへし折り、駐車している車をペシャンコに踏み潰しながら進んでいく。
彼女が踏み損ねたものも、後に続く奈美江と美由紀のブーツがしっかりと踏み潰していく。
彼女達シルバーリリンズの後には無数の靴跡が残され、踏み潰されたあらゆるものが地面にめり込んでいた。
そして破壊されたナチスビルの跡地にやって来たわたし達。
「これって、正美先輩がぶっ壊したんですよね?」と美由紀が尋ねる。
「わたしが正義のチカラを見せつけてやったの。」
「いいこと、今日はわたし達リリンズの力で、この町の軍事施設を徹底的に破壊するのよ。」
と後輩達にナチス帝国軍と戦う使命を言い聞かせる正美。
「わたし、先輩と一緒に戦います!」と美由紀が力強く応えた。
「わたしも!」と奈美江もうなずく。
「さながら巨大女子戦隊シルバーリリンズですね。」とわたしが言うと
「わたし達3人揃えば無敵ですから!」と応える美由紀だった。
「それじゃあ、早速この町、ぶっ壊しちゃっていいんですよね。」と美由紀が言う。
「いいんですか?本当に暴れちゃって。」という奈美江。
すると正美が言った。
「ダメよ勝手に暴れちゃ。」
「わたしの言う通りにしてね。」
「とにかくこの世界でも犠牲者は出したくないの。」と前回と全く方針がブレていない彼女。
「まずは、わたし達で市内の人達を避難させます。」
「それからあの軍港と軍需工場を片付けるからね。」
と指示する正美。
「わかりました、むやみに暴れたりしちゃいけないんですね。」とちょっと出鼻をくじかれた美由紀だったがリーダーの正美には逆らえない。
わたしは彼女達の行動を見守るばかりだった。
「町の皆さ~ん!これからわたし達シルバーリリンズがこの町で暴れます!」
「危険ですから、避難してください!」
口に両手を当てて少し中腰になって叫ぶ正美。
それを見ていた後輩の2人もそれぞれの方向に向かって正美と同じように叫び始めた。
そんな光景が5分程続いた。
ところが道路上にも全く小人達の姿は見えず車も走っていなかった。
どうやらこの間正美が暴れた直後にやって来たから、一般市民は郊外に避難した後だったようだ。
「誰もいないみたいですね。」と言ってしゃがみ込んで5階建てのビルの中を覗き込む美由紀。
奈美江も足元のバスを掴み上げて中をマジマジと見つめている。
「ひと暴れしても大丈夫そうですね。」と言って美由紀が立ち上がった。
「それじゃあ、まずはあの軍港に行くわよ!」
「手分けして停泊している船とドックにあるやつと、それから港湾施設も全部壊さなくちゃ。」
そういいながら正美が軍港の方に向かって歩き出した。
❝ズシーン!ズシーン!ズシーン!❞
一旦市内中心部にやって来たわたし達は反対方向にある港湾施設に向かって進みだした。
もう市内の道路はわたし達4人の巨大女子のロングブーツに踏み荒らされてグチャグチャである。
そんな事に構うことなく軍港前の広場にやって来たわたし達。
足元には足の踏み場もないくらい多くの軍需物資が積み上げられている。
物資を運ぶトレーラーに多くの軍需車両が並べられ、わたし達に踏み潰されるのを待っているかのようだった。
港には6隻の駆逐艦と2隻の軽巡洋艦、それに水雷艇が10隻ほど接岸されていた。
更にドックには整備中の巡洋艦が2隻と潜水艦が2隻並んでいた。
その向こうには潜水艦を係留している防空用のブンカーがあった。
ブンカーの中には多数のUボートが係留されているようだった。
「奈美江隊員と美由紀隊員は港の船を破壊して!」
「わたしはドックの船とあのトンネルみたいな潜水艦基地を壊します!」
「律子さんは危険だからここで見てて下さいね!」
そういうと正美がドックに向かって歩き出した。
奈美江と美由紀も足元の軍需物資を踏み潰そうと一歩踏み出す所だった。