第120話・巨大女子戦隊シルバーリリンズの参戦!
粉々に崩れ落ちたナチス本部ビルを見ながらわたしは正美の手を取って扉を開けた。
「さあ、戻りますよ!」
と言って彼女を中に引っ張り上げた。
一瞬、街中を見渡すと無残な光景が広がっていた。
街中で大暴れした訳ではないが、それでも郊外から刻み付けられたどす黒いわたし達の靴跡と正美が破壊したドイツ軍車両と本部ビルの一帯は煙がモクモクと噴き上がり火がくすぶっていた。
「わたし達の事、悪く思わないでねェ~!」と地上に向かって叫ぶ正美だった。
次の扉を開けるとそこは元の世界だった。
わたし達が扉を閉めると一瞬で“フッ”と消えた。
「あれ?今までの事ってやっぱり夢だったんですかね?」
あらためて周りを見回しながら落ち着かない正美。
「いっけない!わたしすぐに戻らなきゃ。」と言って慌てる彼女にスマホの画面を見せるわたし。
「あれから時間経ってませんよ。」
「あっちの世界に行っている間は、こちらの世界の時間は経過してないんですよ。」
と説明してあげる。
「ホントに?そんな事ってあるんだ。」
と驚きながら自分の体を足先から手の先までマジマジと見つめる彼女。
そういえば本部ビルを馬乗りで破壊したから彼女のブルーの制服のパンツはかなり汚れていた。
「嫌だ、こんなに汚れちゃっている~!」
そういってパンパンと手でパンツの白っぽい汚れをはたき落とす彼女。
「やっぱりあれって、夢じゃなかったんですよね。」と実感する正美だった。
「これ、洗濯しなきゃダメみたいです。」
「それにブーツも結構汚れちゃったみたい。」
そういいながら手にツバを吐いてはブーツの汚れた部分になすり付けていく。
「ちょっと汚いけど、これってよくやるんですよ。」
と言いながらブーツの汚れを手袋に吐き掛けたツバで落とす彼女。
「わかった!それで律子さんはジーパンにブーツインなんですね。」
「だって、こんなに汚れるんだもん。」
とわたしが言わなくてもちゃんと理解してくれている。
「そうなの、わたし達って正義の巨大ヒロインだし、デニムにブーツインは基本なの。」
すると彼女が言った。
「わたし、もう一回あの世界に行ってみたいです。」
「今度はわたしもジーンズに履き替えます。」
「今度はここだと人目につくから別の場所でもいいですかね?」
と言うので次回は駅前の地下駐車場で落ち合うことにした。
「今度はわたしの後輩の2人も連れてきたいんですけどいいですか?」
と言うのでもちろんオーケーした。
何だか妙に嬉しそうな彼女。
余程普段の取り締まりでストレスを抱えているのだろう。
いつも❝女のくせに!❞ と心無い悪質ドライバーに悪態をつかれて嫌な思いをしている彼女達。
そんな正義感の強いストレスフルな彼女達にこそこのジーパンレディーは相応しい。
暴れるのが楽しくてトリップしていた自分が少し恥ずかしくなってきた。
少しホコリっぽいパンツに薄黒く汚れたロング手袋にロングブーツの彼女はバイクにまたがって颯爽と走り出した。
「じゃあ、今度は10日後ですね。」という言葉を残して。
次回、彼女はどういう風に説明して後輩達を連れてくるのだろうか。
わたしはこの間食事をした時の彼女達の雰囲気を思い出してみた。
奈美江は可愛らしいタイプの女の子なので優しさで小人を踏み殺したりはできなさそうな感じだ。
それに比べて長身の美由紀は正義感が人一倍強い分、暴れ出すと手が付けられない状態になる事は容易に想像できた。
美由紀のしゃべり方も正美の前だから敬語調ではあるが少しヤンキー風だ。
足元のウザいナチス部隊どもに攻撃されればどんな行動に出るかは自ずとわかるというものだ。
そんな事を想像している内に10日間が経った。
駅前の地下駐車場はかなり広い。
地下3階まであって、そこには普段車も停まっていなければ人も殆ど来ない。
無駄に広い市営の駅前駐車場である。
約束の時間に地下3階の奥でわたしが待っていると、3台の白バイがやって来た。
3人ともこの間正美が着ていたコスチュームである。
さすがに身長170cmの奈美江と175cmの美由紀が並ぶと壮観だ。
長い美脚を包み込むシルバーのロングブーツが眩しい。
「こんにちは!」とわたしが声を掛ける。
「こんにちは!なんか、正美先輩に面白い所に連れてってもらえるって聞いたんですけど。」と美由紀が言った。
なるほど、後輩達には詳しい事は全く伝えていないみたいだ。
いきなり小人の世界に行こう、なんて言っても信じてもらえるはずもないし。
「ちょっと汚れるかもしれないからパンツだけ履き替えて。」と2人に指示する正美。
「はい、わかりました!」と言って自前のジーパンを鞄から取り出す2人。
3人は早速トイレに行って制服のパンツからジーンズに履き替えてきた。
遠目には青い制服の下にネイビーブルーのジーンズを履いていても違和感なく見える。
3人ともほっそりとした紺系のスキニージーンズを履いていた。
皆、かなり履き込んでいるらしくそれなりに色落ちしていい感じに仕上がっている。
どのジーパンも膝の辺りに数本のヒゲがあってそれがシルバーブーツと微妙に合っていて美しい。
3人揃ったところでわたしは手鏡を取り出して呪文を唱えた。
巨大女子戦隊シルバーリリンズの前でグリーンの閃光と共に扉が出現した。