第119話・初めてのわたし流馬乗り体験!
ナチス本部ビルの前でしゃがみ込んで無数の小さな窓から中を覗き見る正美。
ビルの大きさはわたし達のサイズで高さ50cm位、幅1m50cm、奥行き40cm位だった。
10階建てで正面玄関には車寄せがありエントランス前には黒い高級そうな乗用車が10台ほど並んでいた。
「ビルの中にまだ人が結構いそうですよ。」
と正美がつぶやく。
「わたし達が来たから逃げ出すんじゃないかなあ。」と言いながらわたしも中を覗き見る。
すると前のめりで見ていた正美が言った。
「もう少し近寄って見てみますね。」
❝ジュリジュリジュリジュリッ!❞
「邪魔よ!」
足元に並んでいた黒塗りの高級車を右足で乱暴に脇に寄せる彼女。
彼女の巨大なシルバーブーツのアウトソールが高級車をグシャグシャに押し潰しながら一瞬で鉄屑の山に変えた。
そして小さな窓に片目をつけて中を凝視する。
「まだまだいますね。」
「どうしようかなァ。」
と一瞬考え込む彼女。
そこでわたしが言った。
「こうすればいいんじゃないかしら。」
❝ズブッ!ズブッ!ジュヴッ!❞
わたしはレインブーツのつま先を軽くビルの窓目掛けて何度も突き刺した。
アイボリーホワイトのブーツのラウンドトゥが外壁に突き刺さるたびに窓ガラスが粉々に砕けて窓枠ごと中にめり込んだ。
ビルの中には凄まじい轟音が響いていることだろう。
「わたしにもやらせて下さい!」
と今度は正美がシルバーブーツのつま先をビルに突き刺し始めた。
❝ジュブ!ジュブ!ジュヴッ!❞
「えい!えい!それっ!」
「ホラホラ、出てきなさい!」
一瞬、突き刺すのを止めた彼女。
今度はビルの正面の天井に右足を掛けた。
そこには巨大なナチスの3本の旗を吊るすワイヤーウインチが設置されていた。
「こんなものっ!」
「やァ!」
❝シュバシュバシュバッ!❞
彼女がつま先を右方向に滑らせるとウインチが吹っ飛んで3本の旗が地面にヒラヒラと舞い落ちた。
「何よ、こんなもの。」
そう舌打ちしながらブーツのつま先で落ちた旗を手繰り寄せる彼女。
「これでも喰らえ!ペッ!」と無造作に寄せ集められた旗目掛けてツバを吐き掛けるわたし。
すると正美もわたしの行動に共感したのか口をもごもごさせている。
「わたしも、ぷっ!」
と比較的大きな唾の塊を口から垂らす彼女。
「もう一発!」
「グスッグスッ、べッ!」
今度は鼻をひくひくさせながら口中の唾と喉にへばり付いた痰を絡めて吐き掛ける彼女。
少し黄色く濁った痰唾の塊が旗の上にポトリと落ちた。
「え~い!」
❝ズリッ!ズリッジュリッ!❞
わたし達のツバにまみれたナチスの旗を踏みにじる彼女。
何回かつま先を半回転させてにじり付けた後にゆっくりと足を上げた。
「いい感じですかね。」とつぶやく正美。
彼女が足を上げた後には、真っ黒な靴跡の付いた無残な旗が地面に半分めり込んでいた。
細いラインが互い違いに並んだ正美のブーツの靴底模様がくっきりとついている。
奴らのシンボルを散々もてあそんだわたし達、再びしゃがみ込んで中を覗き見る。
今度は壁中ブーツ蹴りによる穴だらけになっていたから、容易に中の様子を見ることができた。
小人達は反対側のエントランスからすでに逃げ出していたみたいで中はスカスカの状態だった。
「このビル、わたしが処分してもいいですか?」と彼女が尋ねてきたので
「どうぞ、ご自由に。」と獲物を譲るわたし。
「これって、やってみたかったんですよ。」
と言いながらビルを跨いでゆっくりと腰を下ろそうとする彼女。
「バイクに跨る感じですかね。」
「イェ~イ、白バイお姉さんのわたしィ~!」
と嬉しそうにピースサインをしながらおどける彼女。
ビルの中央部分に馬乗りになって両手を天井の端に掛けてバランスをとる。
だが本部ビルが巨大な彼女の体重を支えられたのもほんの僅かな時間だった。
❝メリメリメリメリッ!❞
「あれ~!イヤだもう!」
❝ズブズブズブズブッ!❞
彼女の跨っている中央部分が凄まじい粉塵を噴き上げながら粉々に崩れ落ちた。
それと同時にシルバーロングの手袋をはめた彼女の両手がビルの端を粉々に粉砕しながら押し潰していった。
最後に残っていた彼女の手前の部分も前のめりに倒れ込んだ正美の胸が押し潰した。
❝グッシャ~ン!❞
「うわァ~楽しい~!」
「これって病みつきになるかも~!」
そう言いながらメチャメチャに破壊したビルの上でホコリだらけになったうつ伏せ状態の彼女だった。
青いユニフォームが真っ白に汚れてしまったが嬉しそうな表情で立ち上がる彼女。
ホコリを払い落しながら立ち上がった彼女が振り返ると、ビルの中央部分より反対側がまだ残っていた。
「これでもかァ!」
❝ズヴォーン!❞
強烈な彼女のブーツ蹴りが半壊したビルの残った部分を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「正義の味方のわたしのチカラ、ちゃんと見たかよ!」
そういって勝ち誇ったように辺りを見渡す正美だった。
「わたしばっかり暴れちゃったみたいでごめんなさい!」
と申し訳なさそうに謝る彼女。
とはいえ今日は恐らく小人達を1人も犠牲にはしていない。
こんな戦い方もあるのかも、と思ってしまったわたし。
破壊の限りを尽くしたわたし達の前にグリーンの閃光が走り出していた。