第116話・わたし、大きすぎるの、壊しちゃってごめんなさ~い!
❝ズシーン、ズシーン、ズシーン!❞
やっとのことで自分たちが小人の世界にやって来た事を少しづつ認識し始めた正美だった。
わたし達は幅20cm位の道路をゆっくりと歩きながら町の方に向かって歩いている。
その間も正美は周りをキョロキョロと見まわしている。
余程興奮しているのだろうか、足元の道路をズブズブと陥没させながら歩いている事にさえ気が付いていない彼女。
道中歩きながら、わたしは彼女にナチス帝国が支配するこの世界の現実を話して聞かせた。
とは言っても、町で大暴れして大勢の人々を踏み殺してきた事や幸恵を死に追いやった事など言えるはずもなく、ただただこの世界の時代背景とトリップするメカニズムなどを話した。
「律子さんは、何度もこの世界に来てるんですかね?」
「小人達とも遭遇した事あるんですよね?」
「その時の彼らの反応はどうでした?」
「律子さんはどういう風に対処したんですか?」
興味津々の彼女は矢継ぎ早に質問してくる。
その都度適当に答えるわたしだった。
どうせ町に着けば、大なり小なり街中を壊しながら進まなければならない訳で、恐らくすぐに駐屯しているドイツ軍部隊がやってくるだろう。
しかもよく見れば、この港町は軍港であることがわかった。
接岸されている船やドックに入っている船は殆どが駆逐艦や潜水艦、それに輸送船といった艦船ばかりである。
空母や戦艦のような大きな船が見えないからきっと水雷戦隊の基地か何かだろう。
ならば奴らもすぐにやってくるはずだ。
正美も戦車隊に包囲されて攻撃されれば否応なく反撃に出るしかないだろう。
正義の味方はイコール破壊の女神だという事を間もなく認識するだろうと、わたしは楽観していた。
町の入り口に到着した時だった。
正美が後ろを振り返って言った。
「嫌だっ!わたしったら道路をグチャグチャにしてきたみたい。」
そう言って改めて足元を見ると、彼女のシルバーブーツも見事なまでにくっきりと靴跡を刻みな付けていた。
「わたし達、こんな事しちゃって大丈夫ですかねェ?」
と少し不安そうな顔をする彼女。
「仕方ないですよ、わたし達こんなに大きいんだから。」
「これから街中に入りますけど、多少踏みつぶしてもあまり気にしない方がいいと思いますよ。」と半ば忠告するように諭すわたし。
そういえば今まで歩いてきた道路には1台の車も走っていなかった。
きっと巨大なわたし達を見てみんな逃げ出したんだろうと思った。
これは思ったより早く守備隊がやってくるかも。
「さあ、どうぞ!」といって彼女を促す。
街中には路面電車の架線が張り巡らされているし、道路の中央分離帯には街路灯もあり駐車している車もたくさんあったから、何も壊さないで街に入る事は不可能だった。
そんな足元の光景を見て少しだけ躊躇する彼女だったが、街中に行ってみたいという強烈な好奇心には勝てないようだった。
「ちょっとくらい仕方ないですよね・・。」
「ごめんなさ~い!」
「みんさ~ん、避難してくださ~い!」
と口に手を当てて呼びかける彼女。
❝ズシーン、ズシーン、ズシーン!❞
足元の細々とした物をなるべく踏み潰さないようにゆっくりと慎重に歩く彼女。
わたしは彼女の後ろをついていくだけだ。
❝ジュリッ!❞
「あっ!ごめんなさい!!」
乗り捨てられたのか、停めっぱなしのバスと乗用車を街路灯もろとも右脚のシルバーブーツで踏みにじってしまった彼女。
思わずうつむき加減に謝罪する。
そうはいってもすでに彼女がひと踏みするだけで、道路中央のグリーンベルトは無残に踏みにじられ、街路樹や街路灯はへし折られて、路面電車の架線は引き千切られてあちこちで垂れ下がっていた。
「小人達のみなさん、本当にごめんなさい!」
謝りながらも町の中心部に向かって進む正美と無言のわたし。
わたし達が歩いた後は25mの巨大な靴跡が無数に刻まれ無残な状態になっていた。
「律子さんはもうすっかり慣れてるんですよね。」
「でもわたし、まだ全然慣れません、この世界。」
「でもすっごく興味あります。」
と幾分にこやかな表情で話す彼女。
本当はこれも現実世界なのに❝白昼夢❞っていう言葉が少しは彼らに被害を与えても許されるという甘えに繋がっていたようだった。
やがて町の中心に着いたわたし達。
ちょうど中心街のロータリーの正面にはいつものようにナチスの旗を掲げた10階建てのビルが建っていた。
わたし達が真っ先に壊さなければいけないものが目の前にあるのだ。
これをいかにして正美に破壊させるかがわたしの腕の見せ所である。
「正美さん、あれって例のナチの司令部みたいですよ。」とわたしが指さすと彼女もそちらの方を凝視した。
「本当だ、あの中にナチスの人達がたくさんいるんですかね?」
という正美の警察官とは思えないくらいのんびりした質問にわたしは少し拍子抜けしてしまった。
「きっとあの中に悪党がいっぱいいますよ。」
といって彼女がビルを蹴り崩さないかと期待するわたし。
「あれっ、何だろう?」と彼女が目を凝らして見つめる先にドイツ軍部隊がやって来るのがハッキリと見えた。
いよいよ巨大白バイお姉さんによる大虐殺が始まるのだろうか。