第115話・巨大な白バイお姉さん登場!
約束の時間をほんの少し過ぎた頃、バイクの音が聞こえてきた。
白バイにまたがった正美が颯爽とやってきたのだ。
「遅れちゃってごめんなさい!」と正美が申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいんですよ、それよりこの制服イケてますよね。」と正美のコスチュームに釘付けのわたし。
白いヘルメットに明るいブルーの上下の制服。
手には白っぽい感じのシルバーの革製ロング手袋、そして脚にはシルバーのロングブーツを履いていた。
「実は今日、取り締まりの代わりに交通安全教室のイベントがあったんです。」
「それでいつもとは違う正装なんですよ。」
「少し遅れちゃったのも、子供達との交流があったからなんです。」
どうやら白バイ警官の制服は取り締まりの時とイベントやマラソン先導での時とは変わるらしい。
「この手袋も普段は白い短めのものなんですけど、正装だと長めのテカテカ系シルバーなんです。」
といって綺麗なパールシルバーのロング手袋をはめた手をかざす正美。
「それにこのブーツ、わたし的にはかなり気に入ってるんですよねェ。」
といって今度は脚をピンと伸ばして銀色に輝くシルバーブーツを見せてくれる。
「長めの膝丈でほっそりした感じがいいですね。」とわたしが思わず見入ってしまう。
「そうなんですよ、普段の取り締まりでは丈の短いブカッとした黒いブーツなんです。」
「履いているのは楽なんですけど、なんか長靴みたいでわたし的には嫌なんですよね。」
といかにもスタイル重視の女の子らしい意見にわたしも大きくうなずく。
それにしても細身ですらりとした体形の正美にはブルーの制服にシルバーに輝くグローブとブーツがよく似合っている。
「実はこのシルバーブーツのデザインは、わたし達女子隊員の意見も取り入れられたみたいなんです。」
「正装の時くらいはスタイリッシュなデザインがいいっていう意見が多かったんですよ。」
そういいながらまた満足そうにシルバーブーツをマジマジと見る彼女。
筒丈が40cmほどで黒い4cmヒール、内側にはファスナーが付いていて脱着が楽そうだった。
正装時着用のブーツとはいえ1年以上使用しているからつま先からサイドにかけて若干黒ずんだ汚れが付着していた。
「じゃあ、早速写真撮ってもいいですか?」
と言って彼女にポーズをとらせてはスマホで写真を撮りまくる。
そして10分程が経った。
「わたし、そろそろ戻りますね。」と正美が言った瞬間だった。
わたしは素早く手鏡を取り出して呪文を唱える。
夕暮れ時の公園の一角が突然薄いグリーンの光に覆われた。
そしてうっすらと重厚な扉が空中に出現した。
あまりにも幻想的な光景に正美は言葉を失った。
「さあ、行きましょ!」
といってわたしは正美の手を掴んで扉を開けて中に入った。
彼女も半ば放心状態のまま吸い寄せられるように時空の扉に入ってきた。
その瞬間わたしはいつもの1980年代のドイツの港町をイメージして次の扉を開けた。
綺麗に晴れ渡った小人の世界に降り立ったわたし達。
「これって・・。」その先の言葉がすぐに出てこない正美。
「ようこそ、わたしのパラレルワールドへ。」と言ってにっこりと微笑みかけるわたし。
わたし達はちょうど小高い丘の上に立っていた。
わたし達の尺度で10mほど先に港町が見える。
わたし達の足元にはちっちゃな木が生い茂り3mほどの所に幹線道路が走っていた。
まだ身長165mの巨大女性になった事に気付いていない彼女。
「ここってどこなんですか?これって夢ですよね・・。」と自分に言い聞かせるように辺りを見回す正美。
「じゃあ、とりあえずあそこの町の方に行ってみませんか?」と言って彼女を促してみた。
わたしの言葉にゆっくりと歩き出す彼女。
足元の森を単なる雑草だとでも思っているらしく全く気にすることなく木々を踏み潰しながら進む彼女。
「何だか不思議な感触がする、この草。」と少しだけ足元を確認しながら再び歩きつづける。
幹線道路から2mほどの高さにあった丘の上からゆっくりと下りてきたわたし達。
道路の手前に来て彼女が足を止めた。
そして足元の道路をマジマジと観察し始めた。
しゃがみ込んで路肩の街路灯を指でつついてみる彼女。
「これって、すごくよくできたミニチュアですよね。」
「それにこれ・・。」と言いながら街路樹をつまんで引き抜き、わたしに向かって差し出した。
「実はわたし達、この世界では100倍の大きさなんです。」
「わたし達、同時に白昼夢を見ている状態に近いんですよ。」と真顔で説明してあげる。
「えェ~!じゃあわたし、165mの身長ってことになるんですか?」
この驚き方は尋常ではなかった。
りんり~ずのメンバーなら意外と冷静に受け止めたが、シルバーリリンズの正美はとにかく生真面目だからすぐに状況が吞み込めないでいた。
「とにかく、あの町に行けばいろいろと面白い体験ができますよ。」
といって目の前に広がる港町を指さすわたし。
「わたし、もっといろいろ知りたいし体験したいかも。」
といって目を凝らして街の様子をうかがう彼女。
正美には、まだ街で暴れるという発想など微塵も無いようだった。