第113話・大暴れの後で新たな出会いが
「今日も大勢殺しちゃったな・・。」
とわたしは足元に散乱する無数のナチの遺体を見つめながらため息をつく。
銀座かねまつで買った白っぽいベージュ色のレインブーツもわたしの痰唾入り小便とナチの奴らの鮮血でどす黒く汚れていた。
「せっかくのレインブーツも台無しね。」
とまたため息をつくわたし。
「わたし、何やってんだろ。」
と激しく虚しい気持が湧き上がってくる。
怒りに任せて街や空港をぶっ壊し、ナチの奴らを大勢踏み殺している時は興奮状態で我を忘れていた。
でも、荒廃した町や殺された大勢の小人達の死体を見ていると自分のやったことが少し怖くなってきた。
❝今さら・・。❞
と思った瞬間、いつものようにグリーンの閃光と共に時空の扉が現れた。
わたしは黙ったままドアノブに手を掛けてそのまま元の世界に戻ってきた。
いつもの公園に戻ってきたが、手にはめた白いゴム手袋はどす黒く汚れ、レインブーツもソールの辺りから筒の部分にかけて薄茶色い飛沫魂が無数に付着していた。
ベンチに腰掛けてブーツを脱いで臭いを嗅いでみると“ツ~ン”としたオシッコ臭がする。
❝とりあえずこれ、洗わなきゃ。❞と思ってフラフラと歩き出すわたし。
何だかものすごく喉が渇いてきた。
公園の入り口を抜けて道路の反対側にある自販機に向かって歩き出す。
すると、❝キューン!ガッシャーン!!!❞という凄い音で我に返った。
不用意に道路に飛び出したわたしを避けようとしたバイクが転倒したのだ。
ひっくり返った250ccのバイクの傍らに若い女性が倒れている。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」と彼女を抱き起すわたし。
「大丈夫です。」といって起き上がった彼女は少し厳しい表情で言った。
「飛び出しは危ないですよ、大丈夫ですか?」
「本当にすみません。わたしは大丈夫です。」と応えると彼女はニッコリと微笑んだ。
立ち上がった彼女だったが、少し左足を引きずっている。
よく見ると転んだ拍子に膝の辺りのジーンズが擦れて赤黒くなっていた。
少し出血しているようだった。
「わたしの家、すぐそこなので手当させてください。」といって彼女の手を握るわたし。
「本当に?じゃあ、そうしようかな。」といって彼女は倒れたバイクを起こしにいった。
わたしも彼女を手助けしながらウチのマンションに向かった。
わたしの部屋に着くと、とりあえず救急箱を取りに洗面所に行く。
黒いライダーブーツを脱いでソファでくつろぐ彼女。
ジーンズを脱いで止血を始めるわたし達。
「ジーンズ弁償させて下さい。」と切り出すわたしに手を振りながら
「大丈夫です、破れてないし洗えば血の跡も落ちますから。」と彼女。更に
「このジーパン気に入ってるんです。だから多少こすれてもいい感じになるし。」
と言ってジーンズを履く。
「わたし藤森律子っていいます。」と自己紹介すると
「わたしは工藤正美です。」と応える彼女。
キリッとした表情にロングヘアーがよく似合っている美人系の子だ。
「わたしはフリーターやってるんですけど、正美さんは?」と尋ねると
「実はわたし、白バイに乗ってるんです。」と言った。
「へェ~!凄~い、わたし憧れちゃうなァ。」とマジマジと彼女の顔を見るわたし。
少し照れくさそうに苦笑する彼女だった。
「ところでさっきはちょっと危なかったかな。どうしたんですか?」
とあくまでも真面目な彼女である。
「何だか、ぼ~っとしちゃったみたいです。」
と応えてはみたものの、まさか警察官の彼女に小人の世界で大暴れしてきたなんて言えるはずもなく、少し気まずくなってしまった。
「本当に気を付けてくださいね。」という彼女。
「すみませんでした。今後気を付けます。」と再度深々と頭を下げるわたし。
そんな時に、またまたよからぬ妄想がわたしの脳内を駆け巡る。
❝彼女なら本物の正義の味方だから、きっとあちらの世界に行けば大活躍してくれそう。❞
そう思うととっさにLineのアカウントを教えてもらう事にした。
「もし、よかったら今度飲みに行きませんか?」と思い切って言ってみる。
「いいですよ、わたしの友達も誘っていいですか?」
「同じ白バイ乗りの後輩なんですけど。」と予想外に気さくな彼女だ。
「もちろん、大歓迎です!」
「白バイ勤務のお話とか、いろいろ知りたいな。」というと
「じゃあ、来週の水曜なんかどうですか?」
「わたし達、まだ経験が浅いから、そんなに面白い話もありませんけど。」
と応える彼女。
「本当に?わたし水曜空けておきますから。」と早速次回の約束をゲットである。
「あれって、ライダーブーツなんですか」とさりげなく質問すると
「あれ、大きな声では言えないんですけど、特攻ブーツなんです。」と彼女。
「レディースの人とかが履いてるやつですか?」
「そうなの、結構カッコいいんで気に入ってるんです。」
「後輩たちもみんな普段は履いてますよ。特攻ブーツ。」
「でもバイクに乗らない時はジョッキーブーツかな。」
とやっぱりバイク乗りの足元はブーツが基本のようだ。
「それじゃあ、水曜の夜7時に駅前のセブンイレブンの前で待ってますね。」といって彼女と別れたわたしだった。