第11話・わたしのした事って・・・
ビアロフカの中心街と西側の住宅街を徹底的に破壊した律子はグリーンの閃光と共に忽然と消えた。
あとには焼けただれた瓦礫だらけの街が広がっていた。
街中を律子が踏み荒らしたため巨大なロングブーツの靴跡が無数に残っている。
いたる所に2~3mは陥没した跡があるので重機が入るのもままならない状態だ。
武装親衛隊のアドラー大佐は残存兵力を集めて町の中心地にやって来ていた。
噴水広場には秘密警察の本部ビルに掲げられていたナチスの旗が無造作に広げられている。
どす黒く変色しドロドロに汚れた旗、幾何学模様のような律子のブーツの靴跡がこびり付いていた。
その旗を武装親衛隊の将校達が取り囲んでいる。
アドラー大佐
「随分手ひどくやられたものだ。我が軍の損害状況はどうなっている?」
副官シュタイナー中尉
「破壊された車両は戦車12両、その他の軍用車両は20台、死亡・行方不明は580名、負傷125名に上ります。」
「一般住民も400名以上が犠牲になったようです。」
大佐
「秘密警察の局員も含めると1000名以上が犠牲になった訳か・・。」
中尉
「後ほど増援部隊が到着しますので、復旧作業はそれからになります。」
大佐
「この旗を回収してベルリンに送るように手配してくれ。ジーパンレディーの恐ろしさを軍上層部に直訴するのだ!」
中尉
「了解しました!」
武装親衛隊の兵士達が無残なありさまになったハーケンクロイツ旗の回収を始めた。
律子の吐き掛けた唾がたっぷりと染み付きヌメってベトベトの状態だ。
しかも“ぷ~ん”と強烈な唾臭があたり一面に立ち込めている。
兵士達は仕方なく素手で旗をたたみ始めた。
彼らの手にはべっとりとした律子の唾液が付着し異臭を放っていた。
その頃、律子は時空の扉を抜けて自宅に戻っていた。
わたしは帰宅するとすぐにシャワーを浴びてベッドにもぐり込んだ。
さっき自分がしてきた事で頭が混乱してかなり動揺していた。
つい遊び半分で足を踏み入れた向こうの世界でわたしは随分ひどい事をしてしまった。
前回は初めて人を殺した事への罪悪感が少しはあったが、今回は罪も無い人々を大勢殺してしまったのだから無理もないか・・。
わたしは良心の呵責にさいなまれていた。
「わたし、何やってんだろう・・。」
ナチスを皆殺しにしたいという強い正義感と親子が射殺されるのを目の当たりにした怒りとで取り返しのつかない事をしてしまった。
やっぱりわたしは自分で感情をコントロールする事はできなかった。
「あんな事しなけりゃよかったかも・・。」
わたしは思い悩みながらへこむしかなかった。
しばらく一人で落ち込んでいたわたしだったが、やっと気持ちが落ち着いてきた。
もう向こうの世界に行くのはやめようと思ったが、そうするとナチの奴らの思う壺だと思った。
「あんなひどい事をする彼らをわたしは絶対に許さない!」
元はと言えばわたしが壊したくもない市街地を破壊してしまったのはナチスの連中がそう仕向けたからだ。そう思うとまた感情的になってしまうわたし。
今度はもっと大きな町か軍事施設を襲えばいい。
「もう住宅地は襲わない、その代わりナチの奴らに思い知らせてやるわ。」
わたしはそう心に誓うと頭の中を整理し始めた。
そういえば今回も向こうの世界に居たのはきっかり60分だった。
それに前回から10日目にトリップできたから、これはきっと周期があるのかもしれない。
だとすると、わたしに与えられた時間は最大で1ヶ月に3時間しかない事になる。
「考えてみれば大した事はできないな・・。」
毎回ひと暴れして帰ってくるのがやっとだ。
でも、今回扉の間を抜ける時に“小さくてもいいからどこかの町に行けます様に・・”とイメージしたら本当に希望通りの場所にたどり着いた。
これはひょっとして扉を抜けるあの瞬間にイメージすればもっと自在にいろんな所に行けるのかもしれない。
なまじっかあんな小さな町を襲ったからこんな気持ちにさせられたのだ。
「よ~し、今度はもっと大きな町を襲おう!」
人が住んでいないような役所や商業ビルが林立している町の中心街なら心置きなく暴れられる。
あるいは軍事施設ならいくら暴れても大丈夫だ。
そう思ったわたしは次の襲撃に向けていろいろと思いを巡らせる。
気を取り直したわたしは今日暴れたコスチュームの手入れを始めた。
まずはジーパン、住宅地で大暴れしたから随分ホコリっぽくなっている。
このジーンズ、そういえば随分長い間洗濯していない。
なのでブラシと濡れタオルで汚れを落として部屋に干した。
その後はブーツと手袋だ。
今回使ったのは使い古しのダークブラウンのロングブーツ。
つま先から甲にかけて随分すり傷やら汚れがこびり付いている。
今日の破壊活動で更に汚れまくってしまった。
ブーツの筒の部分もすすけた様な汚れがついている。
「これって、わたしが闘った証みたいなものかな~?」
初めて使った皮製のロング手袋も手の平のあたりはかなり汚れて薄黒くなっている。
住宅をいくつも握りつぶしたり叩き潰したから当然だ。
「少し汚れてる方がカッコいいかも。」
わたしはブーツと手袋の汚れはあえて落とさずにそのままにした。
ピカピカのブーツや手袋で暴れるよりも汚れまくってた方が女の戦士っぽくてイイ感じだ。
「わたしは、破壊の女神律子って感じかな~。」
すっかり冷静さを取り戻したわたしだったが疲労による睡魔には勝てずうとうとする内に寝てしまった・・。