第102話・わたし達のキャットファイト
悪魔のような形相の幸恵の口元は黄色い粘液と唾とでベチョベチョの状態になっていた。
何かを叫ぼうと口を開ける度に何本ものネットリとした唾液が糸を引く。
凄まじい腕力に脚力、そして口から吐き出す液体はもの凄い酸の力によってあらゆるものを溶かしていく。
幸恵に連続ブーツ蹴りを喰らったわたしはわき腹を押さえながらやっとの思いで立ち上がった。
扉が現れるまでにはまだまだ時間がある。
このまま逃げ回っていても仕方がないのでわたしも彼女に反撃を開始した。
「悪く思わないでね、エ~~イ!!」
❝ビュイ~ン!❞
❝パコ~ン!❞
左足を軸足にして幸恵の顔面目掛けて強烈な右脚ブーツ回し蹴りお見舞いしてやった。
わたしの白いレインブーツのラウンドトゥが彼女の頬をもろに直撃した。
黄色い粘液を“プシュッ!”と吐き出しながらよろける彼女。
あれだけ凄い脚力で追いかけてきたとは思えないような千鳥足になった。
そして後方に建っていたビルに倒れこんだ。
❝ジュヴォ~ン!❞
フラフラになった幸恵の巨体がビルをメチャクチャに倒壊させた。
更に追い討ちを掛けようとわたしは足元に建っていた3階建てのビルに手を掛けた。
そして力任せに両腕で引っこ抜いた。
「ホ~ラ!こんなもの~!!」
❝ヴァギヴァギヴァギ!❞
ビルを強引に地面から引き剥がしたわたしは、頭の上まで持ち上げると倒れこんだ幸恵に向かって投げつけた。
「喰らえ~!」
❝ボボボヴァ~ン!❞
わたしの投げつけた建物は幸恵の胸元から顔面にかけて命中し粉々に砕け散った。
彼女の顔はビルの瓦礫や粉塵による汚れで泥々になっていた。
それでも真っ赤な目はカッと見開かれてわたしを睨みつけている。
❝ぺッ!❞と痰ツバを吐き出してゆっくりと立ち上がろうとする彼女だった。
わたしは間髪を入れずに足元の路上に乗り捨てられた車やトラックやバスを手当たり次第に蹴り飛ばし始めた。
「エ~イ!ソレソレ~!」
❝ズーン!ズーン!ズーン!❞
わたしの純白のゴム製ロングブーツが哀れな車両を次々とヒットする。
そして蹴り飛ばされてグシャグシャになった車両が立ち上がろうとした幸恵の体を襲った。
最初に打ち込んだ数台は彼女の顔面を直撃し、再び尻餅をついて倒れ込ませた。
❝グッシャ~ン!❞
しかし、その後に打ち込んだ車両はことごとくロング手袋をはめた彼女の手によって振り払われた。
わたしの波状攻撃によって防戦一方の彼女。
❝今だ!❞
そう感じ取ったわたしは座り込んだままの彼女に向かって走り出していた。
すぐさま彼女のところまで駆け寄ると両足で彼女の胸の辺りに飛び乗ってやった。
「死ね~!ヤァ~!!」
❝ゲボッ!❞
わたしのブーツの靴底が幸恵の胸元を踏みつけた瞬間❝ゴリッ!❞という嫌な感触が、ブーツのソールを通してわたしの全身に伝わってきた。
それと同時に口から黄色い粘液と唾に混じって大量のどす黒い血を吐き出す彼女。
❝ゴボゴボゴボゴボッ!ゲホッ!ゲボッ!❞
❝もうどうなっても構わない!❞と感じたわたしは彼女の胸を踏みつけたまま全体重を掛けながらグリグリと両足で踏みにじり続けた。
苦しげな表情でのた打ち回る彼女。
それでもわたしは容赦なく今度は小刻みにジャンプを繰り返した。
わたしが飛び跳ねる度にブーツのソールが幸恵の胸をグシャグシャに踏み砕いていく。
先程の❝ゴリッ!❞という感触は彼女のあばら骨を踏み砕いたものだったに違いない。
こんな状態になった彼女だから、もはやお互いに生きるか死ぬかである。
わたしは尚も手を緩めずに今度は右足で思いっきり顔面を踏みつけてやった。
汚物で汚れまくった彼女の顔面にわたしのレインブーツの靴底の泥汚れがもろになすり付けられて真っ黒になった。
そしてヒールの部分で特に恐ろしい形相の根源である真っ赤な目をめった打ちにするわたし。
「え~い!これでもかァ!これでもかァ!」
❝グシュッ!グシュッ!グシュッ!❞
わたしのブーツの白いヒールがどす黒い幸恵の血で変色していく。
❝彼女ももうこれまでだわ。❞と思った瞬間だった。
突然天地がひっくり返ったような不思議な感覚に襲われた。
次の瞬間、全身に激しい痛みが襲ってきた。
それと同時にもの凄い土煙で辺りが見えなくなった。
一瞬何が起こったのか理解できなかったが、数棟のビルを粉々に粉砕しながら倒れこんでいる事に気付いたわたし。
調子に乗って幸恵の体の上でストンピングを繰り返していたわたしは、彼女のモンスターパワーによって投げ飛ばされていたのだ。
あばら骨が踏み砕かれて顔面もグチャグチャになっていたのに・・。
どこからそんな力が出てきたのか不思議だった。
でもわたしは見事に3メートル程飛ばされて空中で一回転しながらビル群に落下したようだった。
50m以上もあるわたしの巨体がたくさんの建物をメチャメチャに壊しながら地面にその姿をさらしている。
背中を強く打ったわたしは起き上がろうにも痛みで中々立ち上がれなかった。
僅かに手を伸ばして近くの建物の屋根を掴んだが余計な力をいれてしまい粉々に握りつぶしてしまうわたし。
そんな事をしている間に幸恵が立ち上がってわたしの方に向かって来るのが見えた。
ふと見ると、右前方に大きなターミナル駅があることに気付いたわたしだった。