第101話・幸恵を助けにいったけど・・
幸恵を置き去りにしたまま10日間が過ぎた。
そして、やっと待ちに待ったトリップデーがやって来た。
麻美は実家に帰ったままだし、りんり~ずのメンバーとも連絡がつかなかった。
なので今回はわたし1人で幸恵を助けに行く事になった。
ナチのやつらが持ち出してきた姑息な化学兵器にやられる訳にはいかない。
そこでわたしはいつものジーパンに白いレインブーツ、ブラウスの上に青いナイロンジャケットを着て手には白いゴム手袋をはめた。
更に厚手のピンク色のマスクにスノーゴーグルをして白いキャップを被った。
これで万全とは言えないかもしれないが、前回の無防備な格好よりは全然マシだ。
いつものように扉を呼び出して前回トリップした時代と場所を強くイメージするわたし。
次の扉を開くと眼下にはちょうど街中の大きな交差点があった。
とりあえずそこに降り立つわたし。
❝ズシ~ン!ズシ~ン!❞
「幸恵さ~ん!わたしですゥ~!律子です~!」
両手を口に当てて叫んでみる。
数十メートル先に噴煙が上がっているのが見えた。
❝あそこが現場かもしれないわ。❞と感じ取ったわたしは早速その場所を目指して走りだした。
❝ズーン!ズ-ン!ズ-ン!ズーン!❞
「わたし律子が今行きますからねェ~!」
わたしの膝丈ロングのレインブーツが道路を踏み抜きながら車や街路灯をメチャメチャに蹴散らしていく。
もう足元なんて気にしていられない。
「こうなったら、どんな事でもしてやるわァ!」
そうつぶやきながら黒い煙が立ち上っている現場にやってきてみると、そこはわたし達が大暴れした街の一角だった。
辺りを見渡すと幸恵が倒れていた。
❝よかった!グッドタイミングだわ。❞
すぐさま彼女のところに駆け寄るわたし。
彼女を抱き起こそうとした瞬間だった。
❝ゲボゲボッ!オエェ~!!❞
凄い勢いで口から大量の嘔吐物を吐き出す幸恵。
よく見ると悪臭に包まれた黄色い液体の中には、前回幸恵の口の中に入っていった防護服の特殊部隊の隊員がいた。
5人ともすでに死亡していて、防護服はドロドロに溶けて手足や顔までもが強力な幸恵の胃液によって判別できないほどボロボロになっていた。
「お可哀想に、でもいい気味!」
「あんな無謀な事するからよ!ホント自業自得って事よね。」と悲惨な彼らの姿を見て冷たく笑うわたしだった。
散々地面に嘔吐した幸恵がようやく立ち上がろうとしていた。
「幸恵さん、大丈夫ですか?」と言って彼女の肩に手を掛けたと同時にいきなり突き飛ばされたわたし。
「キャ~!!」
❝ズッヴォ~ン!❞
予想外の展開に思わず金切り声を上げてビルに倒れ込む。
5階建てのビルをメチャメチャに破壊しながら背中を強く打ちつけた。
わたしを跳ね飛ばした幸恵の腕力たるや凄まじかった。
何が起こったのかもわからずに立ち上がった幸恵の方を見ると凄い形相でわたしの事を睨みつけている。
「何するんですか、幸恵さん!」そう叫ぶわたしの声に全く反応しない彼女。
よく見ると彼女の目が真っ赤に染まっていた。
血走っているというよりはデモンズのように真っ赤なのだ。
髪を振り乱し半開きの口からは胃液や唾がベットリと流れ落ち、恐ろしい目つきでわたしの方に向かって来る幸恵。
さすがにわたしも怖くなって後ずさりし始めていた。
あの薬剤を大量に浴びた彼女。
完全に精神に異常をきたして、まるでゾンビのような状態になっていた。
「ウォ~!」
❝ジュボ~ン!ジュボ~ン!❞
何やら言葉にならない叫び声を上げると、足元に並んでいたドイツ軍のトラックやトレーラーをロングブーツで思いっきり蹴り上げる幸恵。
そのパワーはこれまでの彼女とは比べ物にならないほど凄まじかった。
尖ったブーツのつま先がトレーラーを直撃するや数十メートル上空へと粉々に吹き飛ばした。
わたしは立ち上がると反射的に逃げ出してしまった。
するとデモンズ幸恵が凄いスピードで追いかけてきた。
「ウォ~~!」
数メートル離れていても魚が腐ったような生臭い嫌な臭いが幸恵の口元から漂ってくる。
薬剤を浴びた彼女は腕力だけでなく走力もパワーアップしていた。
すぐに彼女に追いつかれて背中に強烈な蹴りを喰らった。
「イヤぁ~ん!」
❝ヴォッカ~ン!❞
再び林立する小ぶりな建物群に倒れこむわたし。
にわか防護服を着たわたしの巨体が低層階のビルをメチャクチャに粉砕する。
立ち上がろうと手を伸ばすと、たまたま建っていたビルを掴もうとして粉々に叩き潰していた。
❝ズヴォ~ン!❞
ビル街を破壊しながら倒れこんだわたしに向かって幸恵が近づいてきた。
そしてわたしのわき腹にブーツ蹴りを打ち込んできた。
❝ヴォスッ!ヴォスッ!❞
「ウッ!ウウウゥ~!」
一瞬息が出来なくなったわたし。
激痛が体中を走り生命の危険を感じた。
「や、やめてェ~!」
❝ドスッ!ドスッ!❞
それでもブーツ蹴りを一向にやめようとしない彼女。
その内口から再び黄色い粘液を吐き散らかし始めた。
強烈な臭いの液体がわたしのナイロンジャケットにも掛かった。
するとシワシワになって穴が開き始めた。
たまらず力を振り絞って再び立ち上がろうとするわたしだった。