第10話・わたしを怒らせないで!
住宅地に向かって歩き出したわたしはポケットから携帯を取り出して時間を確認した。
たしか前回は1時間経過して“扉”が出現した。
今回もそうなると仮定するなら今ちょうど40分程経っているからわたしに残された時間はあと20分ほどしかない。
夢中になって暴れているとあっと言う間に時間が経ってしまう。と思っているうちに住宅街の端に着いてしまった。
この住宅街、5m四方くらいの広さだ。
彼らの尺度で言えば500m四方にぎっしりと綺麗に区画された家が建ち並んでいる。
真っ白な壁にこげ茶色の三角屋根、窓には花が飾られていて庭の芝生がとても綺麗だ。
そんな木造の家々が数百軒連なっている。
そして、縦横に走っている道路には数十台のドイツ軍の軍用トラック、ジープ、オートバイがあっちこっちに停まっている。
道幅は見た感じ10cmもないからわたしのブーツの幅よりも狭そう。
だからわたしがここに踏み込めば歩くだけでメチャクチャにしてしまいそうだった。
「ナチスの兵士だけなら思いっきり暴れてやるのに・・。」
そう思いながらわたしはしゃがみ込んで手前の住宅の中を覗き込んで見た。
すると10名程のドイツ兵が1階と2階に陣取り、住民と思しき民間人が1階に集められている。
「人質に取られているみたい・・。」
やはりこの住宅街にはまだたくさんの一般の人達がいるみたいだ。
ナチスの奴らはわたしが住宅街を攻撃できないと思ってこんな事をしているらしい。
「許せない! 絶対に許せないわ!」
そしてわたしは住宅街に向かって叫んでみた。
「住民の皆さん、わたしは皆さんを傷つけたくありません!」
「だから、早く避難して下さい!」
何の反応もなさそうなので、わたしは先程の家の天井を右手でシッカリとつかんだ。
そして少し揺らしてみた。すると中のドイツ兵は慌てて外に飛び出そうとした。
その隙にこの家の住人が3人裏口から出て道路を走り始めた。
しかし、その事に気づいた1人のドイツ兵が彼らに向かってマシンガンを撃ち始めた。
❝ババババッ!❞
あっと言う間に3人はバタバタとなぎ倒された。
若い夫婦と小さな女の子のようだった。
一瞬の出来事だったのでわたしには何もできなかった。
「こいつめ~!!」
わたしはマシンガンの兵士をつまみ上げ、親指と人差し指でひねり殺した。
虫けらでも潰したような感覚だったが、少しだけ気持ちがスッとした。
でも、わたしの怒りがだんだん増幅してくる。
ナチの連中を許せない気持ちは頂点に達していた。
外に逃げ出そうとしていた他のドイツ兵は再び家の中に戻って機銃の準備を始めている。
「よくもわたしを怒らせてくれたわね!」
「どうなるか見てなさい!!」
「えい!!」
❝ズッボーン!❞
わたしはこの家めがけて思いっきりブーツで踏みつけてやった。
わたしのロングブーツが一瞬で家を踏み砕き凄まじい煙が立ち上った。
「さあ、次に踏み殺して欲しいのは誰?!」
「もうわたしは容赦しないから覚悟しなさい!」と叫ぶわたし。
今更住民達を救い出すこともできないし、救い出そうとすれば奴らに殺されるだけだ。
それならいっその事ドイツ兵もろとも踏み潰すしかない。
「ひどい事をして、ごめんなさい!!」
わたしは胸が張り裂けそうになりながら歩き出した。
腰に手を当てて膝を高く上げて小刻みに行進するように住宅街を端からメチャメチャに踏み潰し始めるわたし。
❝ズッシーン!ズッシーン!ズッシーン!❞
「住民のみなさん!ごめんなさい!」と叫ぶわたし。
ドイツ兵と一緒に踏み殺しているであろう一般住民達に申し訳ない気持ちでいっぱいになったわたしだった。
でもドイツ兵を見つけると憎しみでいっぱいになって狙いをつけて踏みにじる。
「わたしの力を思い知るがいいわ!!」
「え~い!え~い!え~い!」
❝ズッボ~ン!ズッボ~ン!ズッボ~ン!❞
住民達への罪悪感とナチスへの憎悪がない交ぜになりながら暴れ回るわたし。
悲しい気持ちになるから家の中に住民がいるかどうかはあえて見ないようにした。
そして道路に停まっているドイツ軍の車両も逃さず踏み潰す。
「えい!それ~!」
❝グシャッ!グシュッ!❞
「そうだ、わたしには時間がない!」
「早くコイツらを全滅させなきゃ。」
扉が現れるまであと十数分だ。
なのでわたしは住宅街をもっと効率的に破壊する事にした。
住宅地の各ブロックの端に軸足を置いてもう一方の足で軸足と反対方向に滑らせるようにして家々をなぎ払った。
「それ~!!」「え~い!!」「こんなもの~!!」
❝ズズズズズ~ン!!ボボ~ン!!❞
わたしのロングブーツが家々を跡形もなく粉々に粉砕していく。
こんなに綺麗な住宅街を粉塵で汚れたブーツでメチャメチャに壊すのはまるで精巧なガラス細工の工芸品に石を落とすようなものだ。
とってもすっきりした気分になる。
でもそう思わなければこんな惨い事ができるはずも無かった。
住宅街の3分の1くらいをブーツでメチャクチャにしたわたし、心の底に罪悪感を抱えつつ残りの住宅郡をにらみつけた。
「そろそろ、わたしに降伏した方がいいんじゃないかしら!」
「もうこれ以上わたしにこんな事させないで!!」
だがしかし、武装親衛隊の兵士達による抵抗は全く鳴り止まない。
「こうなったら、こうしてやる!」
そう叫ぶとわたしはまだ残っている手前の住宅地に一旦背を向けた。
そして足元の住宅めがけて座り込んだ。
「よっこいしょっとっ!」
❝ズズ~ン!❞
スキニージーンズを履いたわたしのお尻が5~6軒の家を一瞬で押し潰した。
そして、両足を伸ばして孤を描くように思いっきり滑らせた。
「それ~!!」
❝ズズズッ、ズリズリ~!ババ~ン!❞
ジーパンとロングブーツに包まれたわたしの左右の足が家々を凄まじい爆音と共になぎ払いながら粉々に打ち砕いていく。もちろん抵抗を続けるドイツ兵もろともである。
「まだまだ、残ってる!」
「もっともっと殺さなきゃ!」
座ったまま右足を回転させて20軒ほどの住宅をなぎ払った。
今度は反対側の住宅に手を出す。
一旦立ち上がってからしゃがみ込んだわたし。
目の前の家をロング手袋をはめたわたしの手が容赦なく襲い始める。
「え~い!みんな死ねばいいのよ!」
「それ~!」
❝バシャ~ン!グシャ~ン!❞
わたしは家々を鷲づかみにすると一気に握りつぶした。
艶のあるアイボリー色のロング手袋が家々を粉々に破壊していく。
外に出てきて逃げ惑うドイツ兵は容赦なくひねり潰した。
もうすでに住宅街の半分以上を破壊したわたし。
「もう時間がない!」
そう思った瞬間に緑色の光が目に入った。
「もう帰らなきゃ・・。」
「あと少しだったのに残念だわ!」
「住民の皆さん!暴れちゃってごめんなさい!!」
「わたしもこんな事したくなかったんです!」
「でもナチの奴らを全滅させるのがわたしの使命!」
「だから、ほんとうにごめんなさい!!」
そう叫んだわたしは扉に向かって歩き出した。




