ナノマシンについて(上級編) その一
2、ナノマシンについて(上級編)
上級編では、ナノマシンの技術についてさらに詳しく考察していきたいと思います。黒葉自身の考えもかなり入ってくるので、さらに現実とかけ離れることがあるのでご注意ください。上級編ですので、難しい話もガンガンするので、「それはムリだー」という方は次回の初級編をお待ちください。
それでは、突っ走っていきましょー。
・ナノマシンの危険性について
初級編にて「分子機械」が「人工的にウイルスを作り出す」手法ということを聞いて、「それ危なくね?」と思った方。それは正しいです。分子機械、特にウイルスを模して造られたナノマシンには、確かにかなりの危険が潜んでいます。
そもそも、人体にそのようなナノサイズの異物を入れること自体が、人体の余計な内分泌系に作用してホルモンバランスを崩す原因になりかねないのです。初級編でも何度か書いている通り、免疫がナノマシンを敵として判断すれば、ナノマシンは普通の病原菌と同じ末路をたどることとなります。
そのために、分子機械型ナノマシンはある程度人間に対して親和性を持つ必要があります。その方法としては、ナノマシンを使う当人の遺伝子情報を隠れ蓑として使うのが一番手っ取り早いと思われ、ナノマシンが人間の生命活動の一部となるような形が理想です。筋肉などの組織にエネルギーを送るようにナノマシンを動かすというわけです。
また、人間は体内に様々な菌を飼っており、共生しているため、それらの菌類にナノマシンを紛れ込ませるのも一つの手です。
しかし、そこには大きな穴があります。
それは、ナノマシンの「がん化」です。
わかりやすさのために「がん化」と表しましたが、要するにナノマシンの突然変異のことを指します。人工のものとはいえ、分子機械型ナノマシンもウイルスの一種です。なので、毎年猛威をふるうインフルエンザウイルスのように突然変異を起こしてその性質が変わってしまうことがありうるのです。例えばナノマシンのレセプター(特定の細胞に入り込んだりするしくみ)が変わってしまったら余計な場所に作用しかねませんし、十分な作用ができなくなります。
それだけでなく、もし、人に親和性のあるナノマシンが人に害のあるものに変異したとしたら。それはどえらいことです。言うまでもない気もしますが、あえて言葉にすると、「免疫系が反応しない毒性を持ったウイルスの誕生」に他なりません。まさにアイアム・レジェンフドのゾンビ化ウイルスとかメタルギアソリッド4のFOXDIE状態です。封じ込められなければ、人類の危機です。
そのような危機を見越して、実際にナノマシンが作られるとしたら、大腸菌のように一部の場所に留まるか、増殖能力を持たずに定期的に摂取されるようなものになるかもしれません。
・分子機械型ナノマシン製造を、もっと詳しく!
ここからは、分子機械型ナノマシンが、メタルギアソリッドに登場するもののように自己分裂機能を持ち、体内の状態をチェックし、体外への相互通信によって生体に干渉する能力を持つためにはどのような仕組を持たなければならないのか、黒葉なりに考察したものを書いていきます。
分子機械型ナノマシンという呼び方は長いので、このようなナノマシンが登場するメタルギアシリーズの監督の名前にちなんで、便宜的に「K型」と呼ぶことにします。(ただ言いたかっただけです。監督ごめんなさい)
K型を実現するためには、無理難題が山のようにあります。
まず自己分裂機能、と書きましたが、恐らくK型は自己分裂しません。先の話題でも書いたとおり、ウイルスのように人間がタンパク質を製造するシステムに割り込んで、自分の複製を作ってもらうのです。
この仕組みを詳しく説明するためには、遺伝子のことを話さなければなりません。遺伝子、DNAといえば、生物が自分の子孫を残すために必要なシステムですが、これが多くの場合、ウイルスには存在しません。その代わりに、脊椎動物がDNAからタンパク質を製造するために情報を受け渡すRNA(核酸)という物質がウイルスの核となっています。
生体内でRNAが使われているのは、タンパク質合成にDNA本体を使うわけにはいかないからです。仮にDNAを使ってしまうと、もうそこで老化が始まり、細胞分裂ができなくなってしまいます。RNAにも二種類あり、それぞれ役割が違うのですが、黒葉の知識不足のためタンパク質製造の詳しいところはわかりません。申し訳ないです。
ウイルスは生物の細胞に入り込むと、自身のRNAから伝達用のRNAを作り、タンパク質を作るシステムに送り込みます。これにより、感染した生物は自分のタンパク質工場から、ウイルスを作り出してしまうのです。K型はこれを利用し、生体内で必要なだけ分裂を行います。
次に、体内の状態をチェックする機能です。これに関しては、体内の内分泌系の変化や、白血球の数、血中酸素量などを読み取ることでできそうですが、どうすればそんなことができるのか黒葉にはさっぱり思いつきませんでした。無念です。断片的に思いついた限りでは、特定の化学物質が触媒となってシス、トランス異性体になるような物質で、異性化する物質の単位時間当たりの変化量によって計測できたりするかなーとは考えました(わかりにくくてごめんなさい)。医学専攻の方カモン!
次に、体外への相互通信です。こればっかりは、有機分子機械のナノマシン単体では無理なんじゃないかと考えています。ナノマシン同士の相互通信ならば、化学物質を使うことで可能(自然界の菌類も同種間で化学物質によるやりとりをしています)だと考えていますが、外へ電波を発するのは難しいと思います。ナノマシン一個一個が発することのできるエネルギーはそう多くはありませんし、そうして発せられた電波も、体内の水分によって吸収されてしまう可能性が高いです。恐らく、通信タグのような外に通信する専用の装置が必要になるのではないでしょうか。
ナノマシン同士の相互作用。と書きましたが、K型の機能を一種類のナノマシンでカバーするのはやはり無理です。数種類のナノマシンがそれぞれ役割を分担し、相互でバランスを取ることでコジマ型が成り立つのではないかと考えます。
最後に、外からの通信によって生体に干渉する機能です。メタルギアソリッド4に登場したSOPのナノマシンは、この機能により戦場の兵士たちのメンタルをコントロールし、痛みや精神的苦痛を抑え込んでいました。この機能は、(理論だけなら)比較的簡単に考えられそうです。
痛みを抑えたり、脳に作用して感情をコントロールしたりするためには、麻酔のような化学物質を作用させなければなりません。しかし、K型が活躍するのは戦場です。外からの供給は受けられそうにありません。
ここで、ウイルスの一種であるナノマシンの力が発揮されます。つまり、供給できなければ、作ってしまえばいいのです。人体にはタンパク質、その多くが化学反応を助ける酵素を作る仕組みが整っているため、ナノマシンから特定のRNAを送り、麻酔薬を作る酵素をその場で生産することにより、自力で麻酔薬を合成することが(理論上は)可能です(ちなみに酵素とは複雑な構造を持ったタンパク質で構成されており、ご飯をずっと噛んでいると甘くなるのも酵素のおかげです)。また、神経伝達の用いられる化学物質は一部を除いて体内で合成されるため、内分泌系に干渉すればある程度はコントロール可能でしょう。
しかし、自前で麻酔作るとか……メタルギアソリッド4でSOP症候群が全兵士のうち一割に発症したのも頷けますね……。(分からない人、ごめんなさい)
ところで、ナノマシンには活動するための動力が必要です。ここでも、ナノマシンがウイルスのようにタンパク質の塊であることが有効に働きます。
高校程度の生物学に明るい方なら、ATPについては知っていると思います。ATPは、アデノシン三リン酸の略称で、生体内の主な動力源です。名前の通りアデノシン(アデニンとリボースが結合したもの)に三つリン酸がくっついたやつですが、このリン酸が取れるごとにエネルギーを放出します。詳しいことは黒葉の知識不足のためわかりません。
ATPは筋肉の動力源の一つであるのはもちろん、体内の様々な化学合成に使われます。これを利用できるしくみがあれば、ナノマシンを使っている人間が健康である限りナノマシンは動作し続けられるわけです。
以上が、K型ナノマシン製造時に使われる可能性のある技術でした。割と安全性とかを度外視したので、書き終えたところでちょっと怖くなってきました。ナオミよ、なんてものを作ってしまったんだ……。メタルギアソリッド4本編で彼女が後悔しているのもよくわかりますね。
話がちょっと変わりますが、
全世界の科学者の皆様。分子機械の製造は慎重に!