ナノマシンについて(初級編)
様々な作品に登場するナノマシンですが、そのほとんどが人間の体内で活動しています。その概念を初めて取り上げたのは米国の物理学者リチャード・ファインマン。命名したのは東京理科大学の谷口紀男氏であります(理科大すげー)。
主な役割はこちら。
①人間の体内の状態をチェックし、どこかに送信する。
②発信機。
③自己増殖して怪我を治す。
④個人認証システムとか。
⑤人間の臓機能の肩代わりをする。
このいずれもが人間の体内、主に血中で活動します。そのため、ナノマシンは人間の毛細血管で詰まったりしないよう、ナノメートルサイズでなければなりません。毛細血管がだいたい5~10マイクロメートルなので、発信機になるだけだったら500ナノメートルぐらい小さければよいでしょうか。(1マイクロメートルが1ミリメートルの1000分の1。1ナノメートルがそのさらに1000分の1)。
ノロウイルスが25~35ナノメートルなので、ここまで小さくすれば細胞とかにも入れそうです。
とはいえ、そんなに小さい機械を作ることは、ほぼ不可能といっても過言ではありません。通常の機械の部品は、多くの場合より大きな材料から削り出したり切り出したりして作るものですが、500ナノメートルともなるとヤスリで削った削りくずよりも小さいです(そのため最新のICなどはまた別の製造方法が用いられているのですが、それは上級編で触れます)。
というか小さくすぎて肉眼では見えません。
職人「目に見えねえんじゃ完成したか分かりようがねえよ」
そこで、現在注目されているナノマシン製作の概念として「分子機械」というものがあります。かなりざっくりした言い方になりますが、要するに「人工的にウイルスを合成する」という手法です。
それ危なくね? と思った方もいるでしょう。しかし、その話は割と難しい分野に入ってくるので、上級編にて説明します。
ウイルスといえば、人間の体内に入り込み、様々な症状を引き起こす人類にとっての天敵のようなものですが、利用できればかなり有用です。
少し脱線しますが、ウイルスがなぜ生物に寄生しなければならないか、という話をします。もともとウイルスは、自分たちだけで仲間を増やすことができないのです。そこで、他の生物の体に入り込み、生物のタンパク質を製造するシステムに割り込んで、自分の複製を作ってもらうのです。この間、自分たちが生きやすいようにその辺の環境を変えたり、エネルギーを得るためにその辺のものを食い散らかしたりするため、感染した生物に悪影響を及ぼします。これが危険なので、感染した生物のほうも免疫などで追い出そうとします。ノロウイルスに感染すると猛烈に吐くのは、だいたいこのためです。
もし、このウイルスが病気の代わりに体内で通信用の電波を発したり、健康状態をチェックしたりすると、それは様々なSFに登場するナノマシンそのものです。
しかし、そのためには「特定の電波を発生させる化学反応」を起こさなければならず、これがまた難しいのです。そもそもそんな異物を体が受け入れるわけもなく、拒絶反応も大きな課題の一つとなります。
医者「電波とか放ったら人体に熱とか溜まるだろ……それに免疫が黙ってねえよ」
化学屋「そもそもそんな出力の高い電波出せねえよ……人体が吸収するし……」
生物学者「複数のナノマシンの相互ネットワークとかで……」
黒葉「つまりいろんな分野の技術が結集しないと無理」
「分子機械」がマシーン的なナノマシンよりも有利な点は、ウイルスがタンパク質の塊であるために、化学合成によって作ることができるということと、ウイルスに近いために人体からエネルギーを取り出して使うことができるということです。また自己増殖できれば、半永久的に活動が可能です。
もし、現実に「分子機械」型のナノマシンが実用化されたら、世界はどうなるのか。いきなりですが、正直に言って不明です(ズゴー)。
狙った場所に薬となる化学物質を届けられる分子機械ができたら、病気の治療がより的確になりますし、ガン細胞を化学的に直接攻撃することも可能となります。もしそれが外界と相互通信可能だったら、より多くの病気を治すことも可能です。
分子機械によって、人体の器官のさらに深いところを調査することができるようになるでしょう。脳などはその最たるものです。
メタルギアソリッドみたいに、狙った人物を殺害するウイルスも、ナノマシンの一種です。
と、このようにナノマシンは説明したらきりがないほど様々なことを引き起こしかねないのです。可能性が多すぎて予測不能です。
みなさんも、ナノマシンによって何が起こるのか、考えてみるといいのではないでしょうか。もしかしたら、そこからユニークな世界観が生まれるかもしれませんよ。