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BANDIT!  作者: 望田 壱
BANDIT!
8/28

008

昔から、一番怖いのは人間だってよく言いますよね。

 008-1



 翌朝、アリスと同じベッドで寝ていた俺は、朝食の時間だと起こしに来た

メイドさんに起こされ、寝ぼけまなこで全裸のまま立ち上がったアリスを直視したために

俺の俺が朝からクライマックスになり、それを目撃したアリスに


「もう・・・朝からお盛んなんだからクロスケったらっ」


 などと意味不明な言いがかりを付けられたと同時に押し倒され

気がつけばメイドさんが一度起こしに来てから2時間遅れで食堂に案内された。


 そこにいたのは


「ん?をを、昨日の青年ではないか、少しばかり遅いが朝食でも一緒にどうだ?」


「よぉ、昨日殴られたところはどうだい?をっ、腫れはすっかり引いたみたいだな。

 ささ、キュアお嬢もむさっ苦しい食卓ですがよければ一緒に」


「ヒャア!!朝からアリスたんの生食事キター!!ついてるぅぅ!!

 アリスたんペロペロ!!」



 昨日、公爵とともに俺たち二人を迎えに来てくれた騎士たちがいた。

公爵達はどうしたのかと聞けば、すでに朝食を終えた後であり

公爵は、自室に篭って王都からの郵便や領民たちからの訴えの整理、

公爵夫人はアリアちゃんの教育、アリスの母さんは離れに篭り錬金の実験をしているという。


「おはようございます、レオさん。わたしもご一緒させて頂きますね?

 クオリアさん、むさ苦しいなんてとんでもない、今日もカッコイイですよ?

 シュナイダーさん、自重してください」


 ああ、あれって突っ込んでよかったんだ・・・皆何事も無く進めるから

暗黙の了解なんだと思ってた・・・


「そういえば、クロスケはこの後どうするの?

 お母様達は、好きなだけここに居てもいいとおっしゃってたけれど・・・」


「ん?・・・あぁ、俺はこの後、都市に戻ろうかと思ってる」


「えっ、そ、それじゃわたしも


 「駄目だ、アリスはこのままお屋敷に居るんだ」


 ・・・ど、どうして?一緒にいてくれるって・・・」


 昨夜、おっさんから頼まれた事・・・早いうちに手を付けないとめんどくさい

事になりそうだしな、それに相手の狙いはほぼアリスだと予想できる以上、

一緒に行動するよりはここでおっさんやシルバ爺さん達と居たほうが安全だろう。


「実は、昨日お前の父さんに依頼を受けてな。

 嫁ぐ予定だった地方領主が、なんで取り潰されたかの詳しい調査をしてほしいんだとよ。

 ほら、俺は職業柄そういった諜報活動は得意なんでな?」


 女連れで動きまわると、目立ちすぎて調査にならないんだよ、と説明する。

 シュナイダーが「涙目で膨れるアリスたんか~あ~い~い~キュンっ」とか

 言ってたんで張り倒しといた。


「うぅ~・・・そっか・・・お父様からのお願い、かぁ・・・

 それって・・・わたしの為?」


「ああ、なんでもちゃんと調査をした上で、何も問題なければ今回の婚姻も含めて

 アリスの結婚をなかったコトにするんだとよ。

 んで、それが片付いたらアリスも今回のことで、一人で考えて行動できる事が

 わかったってんで、好きにしていいそうだ」


「えっ、好きに、しても、いい・・・?

 あっ!そ、それってもしかして、クロスケ・・・っ?」


「・・・あぁ、そうしたら、俺のとこに来るか?

 これまでみたいな贅沢はさせてやれないけどな?」


 それまで涙目だった表情が、その言葉を聞いた途端華やかな笑顔へと変わる。

 事の成り行きをニヤニヤしながら見守っていた騎士三人は、

パチパチと小さいながらも拍手をしてくれた。


「お嬢様、おめでとうと言っておこう」「やっとあのお転婆が嫁入りかぁ」

「照れて真っ赤になったアリスたんもかわゆす!!結婚子作りエンドキタコレ!!」



 うん、シュナイダー自重しろ。




 008-2


 騒がしい朝食も終え、騎士達を哨戒任務へと見送った俺達はアリスの自室に戻ってくる。


「さて、と・・・俺の荷物はこれだけかな。

 んじゃアリス、行ってくるから大人しく・・・っぐ、ん、んん?!」


 準備を整え、振り返った刹那アリスが俺に抱きつき、唇を重ねてくる。

 初日に俺がした様に、こちらの歯をなぞり、くすぐったさについ隙間を開くと

そこから舌が進入、俺の舌を絡めとり唾液を流しこんでくる。


「んぐっ?!ん、ち、ちょ、ちょっとまったアリス、苦し、い・・?」


「っく、クロスケ、クロスケ、クロ、スケぇ・・・やだよぅ・・・

 もう離れたくないよぅ・・・」


 唇を離したかと思えば、アリスは俺を強く抱きしめながら名を連呼する。

 ・・・いつの間にか、こんなにも依存されていたとはね。

 その腕を振りほどくわけにもいかず、抱きしめ返し背中を撫でてやる。


「ったく・・・頑張って成長したんじゃなかったのかよ?

 まるで、あの月夜の晩みたいになってるぞ、お前」


「うー・・・やっぱりだめ、置いて行かれるとか耐えられない。

 一緒についてっちゃ、だめ?」


「駄目だ、こればかりは本当に。

 ・・・お前の父さんの考えも汲んでやれよ、あの人、お前がこの先

 後腐れなく、自由に生きていけるように今だって必死になって問題解決に

 動いてんだぞ?

 ・・・いつか、胸を張ってお前と、お前の母さんも家族だって言えるように」


 自分の父と母の事を出されるとさすがにバツがわるいのか、それ以上は何も言わなくなる。

 ・・・悪いな、こうでも言わないとアリスは引っ込みそうもないし。


「・・・約束、ちゃんと迎えに来てよ?わたし、待ってるから」


「ああ、約束だ。必ず迎えに行くよ。

 だから、それまでにその泣き癖直しとけよ、お嬢様?」




 暫くして、部屋から出た俺とアリスは正面の玄関へと向かう。

 俺がここを離れる事に対し、納得はしたものの整理がつかないらしく

あの後も、キスとハグを繰り返しどうにか不満顔で治まるぐらいにはなった。


「んじゃ、お前の母さん達にはよろしく言っといてくれ。

 あと、公爵に状況を報告する手紙に、ちゃんとお前宛の手紙も一緒に

 送るから、今度は屋敷抜けだして来るとか無茶な真似すんなよ?」


「わかったってば、大丈夫だよ、クロスケ・・・

 手紙、待ってるから、必ず送ってよ?」


「へいへい、ついでになんか面白いもの見つけたら一緒に送ってやるよ」


「ほんと?できたら心のこもった贈り物がいいかなぁ・・・」


「そうだなぁ、長年彼女ができない男が怒りを込めて縫ったドレスとかでいいか?」


「いやよ?!何その持ってるだけで行き遅れになりそうなアイテム・・・

 ちょっと、その邪悪な笑顔やめなさいよ、本当に勘弁して下さい」


 結局、締まらない一時の別れになりそうだ。

 お互いじゃれあっていたが、最後にもう一度抱きしめ合いキスを交わす。


「・・・それじゃ、行ってくる」


「うん・・・気を付けてね?」


 そうしてアリスと、屋敷に背を向け街道に向かおうとしたが


「・・・え?」


 目の前に、見たことのあるローブ姿。

 

 そして


「なっ・・・っぐ、あ・・・・」


 ぞぶり、と嫌な感触とともに貫かれる自身の身体が

俺が最後にみた光景だった。




 008-2



「ははは、はははははは!!

 よくやってくれました、あはははは!!

 これでこの計画を大幅に前へと進めることが出来る」


 誰もが寝静まる深夜、教会の一室で男が狂気じみた哄笑を続ける。

 ・・・目の前には所々赤黒いシミをつけ、目の光を失った少女。

 

「ふふふ、ふふあははは!

 それにしても、やけに薄汚れているがこれはいったい?」


[・・・傍に、障害になりそうなニンゲンがいたのでな。

 我の判断で、早々に始末させてもらった]


「ほう・・・コレの肉親でしょうか?

 そうだとすれば、ほんの少しばかり私の楽しみが減るのですが」


[否・・・おそらくは、その娘と恋仲であったニンゲンであろう。

 目の前で起きた事象に思考が追いつかず、ただ縋っていたのでな。

 ここまで連れてくる事自体はそう難しいことではなかった]


「クヒっ!クックック、そうでしたか・・・フンっ、まぁ

 どのみち関係者はすべて始末するつもりでしたから問題はないでしょう」


 男は、この後に予定している計画とやらを夢想しているのか

その表情は、およそ教会という場に似つかわしくない表情をしていた。


[・・・それよりも貴様、我を謀ったな?

 その娘とともに居たニンゲン、貴様のいう悪行を行った形跡など

 欠片もなかったではないか・・・娘が、あれほど慕っていたのを見ても明らか]


「ええ、ああでも言わないと貴方は勝手に行動していたでしょうから。

 それがどうかしましたか?

 まさか、裏切りだと糾弾しますか?」


[・・・いや、元より貴様とはあくまで利害が一致したために手を貸したにすぎん。

 ただ、貴様が謀ることさえしなければ、我はあのニンゲンと別の方法で

 決着を付けることが出来た、それだけだ]


 それだけ言うと、上位魔種であるその男は、気配を消した。

 おそらくはもう、この部屋どころか教会にすら居ないだろう。


「・・・ふん、創造主に楯突いた卑しき存在の分際で、態度がでかい・・・」


 そう呟きながら部屋に残された男、司祭は部屋の隅で俯き、ブツブツとつぶやいている少女

・・・アリスへと近づき、力任せにその身体を蹴りつける。


「ぁうっ・・・!!・・・っく、うぅ・・・クロスケ、クロスケぇ・・・」


「はははははは!!貴女が名を呼ぶその方は、貴女のせいでその生命を

 奪われてしまったのですよ、ん?わかってますかぁ???」


「っ!・・・ち、がう・・・そん、な事・・・ちが、う・・・」


「違いませんよ、貴女があの時私の言葉に従い、地方領主へと嫁げば

 その方は死なずに済んだのですよ・・・?」


「だって・・・地方・・・誰も・・・っぐぅ?!」


 司祭は、再度蹴りつけアリスを床へと転がしその横顔を踏みつける。


「ええ、だから私は地方領主へと嫁げと言ったのですよ?

 取り潰しとなった?当然です、私が秘密裏に王家に謀反の疑いありと

 報告しましたからね?

 誰もいない?それも当然です、さすがにおおっぴらにしては

 虚偽の報告とばれてしまう。

 なのでその方面に詳しい方にお願いして、少しづつ・・・少しづつあの

 領主の家族と本人を始末して頂きましたからね?」


 司祭は、アリスを踏みつける事をやめるとしゃがみ込み、その銀髪を無造作に

つかみ顔を上げさせる。


「後は王家に、『処罰の噂を何処かで聞いた領主とその家族は、気づかれないうちに

 逃走を図ったようです』とでも言えばあの世俗に疎い王室はそんな物かと

 気にもとめないでしょうね」


「っあ・・・なん、で・・・な、んでそんな、ひどいこと・・・」


「ひどいとは?私はただ、創造主の教えのままに、創造主がどれほど正しいかを

 証明するために動いているに過ぎません。

 ・・・さて、私は貴女には地方領主に嫁ぎ、公爵家を離れれば最善ですと

 諭しましたね?なぜだかわかりますか・・・?」


「・・・」


「わかりませんか?理解出来ませんか?仕方がないですね、教えてあげましょう。

 地方領主に嫁げと言いました、ええ、その時点で既に創造主の下へ旅だった

 相手にね。

 そのような相手に嫁ぐには?そう、自身もまた命を絶ち、創造主の御下へ

 行けばいいのですよ?」


 当たり前の事だと言わんばかりに、真顔でそう諭す。


「さて・・・この度は貴女はまた、辛い別れを経験されましたね・・・?

 如何ですか、相手の下へ、行きたいとは思いませんか?」


 問われ、アリスは思い出す。

 胸に穴を開けられ、血を流したまま動かないクロスケ。

 どれだけ呼びかけても目を開けず。

 傷を塞ごうとしても血は止まらず。

 ただ、抱きしめて縋ることしか出来なかった。


「貴女が、相手の下へ逝き、そこでなら誰にも邪魔されず

 共に過ごすことが出来るのでは・・・?」


 ・・・自分が、悪いのか。

 ただ会いたい、共に居たいと願った自分が悪いのか。

 

「わた、し・・・は・・・」


「わかっていますよ、貴女は確かに罪深き存在・・・

 ですが、私の言うとおりにしていただけるのであれば、

 必ずや、貴女の最愛の方の御下へ、送って差し上げましょう」


「・・・わ、たし・・・なに、を・・・したら・・・」


 司祭は、ただ嗤う。

 自分の思うがままに進むことを。


「ええ・・・三日後に王宮で開かれる査問会で

 貴女と、貴女のご両親の事を包み隠さず陛下に教えて差し上げるのです」




 008-3



「をっ、どうしたよ旦那?すごい不機嫌そうだね?」


「・・・貴様には関係ない事」


「まぁまぁ、そういうなって・・・それで、オレの情報通りだったろ?」


「・・・聞いた話とは全く違ってはいたがな」


 あらら、もしかして旦那が機嫌悪いのってオレのせい?

 やだなー、酒がまずくなっちゃうじゃん。


「おっかしいなー、オレは包み隠さずに話したぜ?

 いったい何があったのよ?」


 旦那は、己の手を持ち上げると、グッと握り締める。

 そうして黙祷するようにしばらく目をつむり


「・・・脆弱なニンゲンを、私欲の為に潰してしまった、それだけだ」


「はぁーん、それだけ、ねぇ・・・

 ああ、そういや旦那が連れてきたあの子は?」


「・・・あの吐き気がするニンゲンに渡してきた。

 これで、我がするべき事はもうない」


「さいですか・・・でもいいの、旦那?

 あの子、結局は王宮で開かれる審問会のあと、殺されちゃうんだぜ?」


「我には関係ない事。ニンゲンの下らぬ権力争いなど興味はない」


「つめたいねー・・・あの娘、旦那の孫娘だろ?」


 その言葉に、旦那が目を見開きオレを睨んでくる。


「・・・どういう、事だ?」


「あれ?知らなかったの?あの娘、公爵さんの娘だろ?

 たしかあの屋敷にいるメイドさんの中に、旦那の娘がいて

 その人と、公爵さんの間に出来たのがあの娘だぜ?」


 オレが伝えた情報に、旦那の表情がめまぐるしく変わる。

 あ、旦那でも焦ることってあるのねー。


「なんと・・・なんと・・・っ

 勘当した我が娘が・・・よりによってニンゲンとの子を為しているとは・・・」


「そんな珍しいことでもないんじゃね?

 今は他種族との混血なんて珍しいことでもねぇーっしょ?」


「そういう次元の話ではない・・・しかし、そうであったか・・・」


「を?もしかして旦那、助けに行っちゃう?ヒーローしちゃう??」


「・・・いや、今の話を聞いた所で変わらん。

 ・・・むしろ、あの娘は今ここで終えたほうが幸せだろう・・・」


 あ、そういう結論になるんだ・・・

 ふーん・・・ちょっとつまんないねぇ


「・・・せめてその最後ぐらいは、見届けてやろう。

 何かわかれば、我に教えてくれると助かる・・・」


「はいよ、じゃあ連絡の取れるところにいてくれよな、旦那も」


 そうして、そのまま闇夜に溶けこむように立ち去る旦那の

後ろ姿を見送る。

 上位種ってのも、力が強いだけでなんでもできるってわけじゃないんだねぇ。

起承転結の承までの部分が終わり、転の部分へ入ったかなって感じです。

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