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BANDIT!  作者: 望田 壱
The blade for who?
26/28

011

 

 011-1


「ち、ぃっ?!っくそ、なんだってんだ一体……っ!!」


 昨夜までの珠喜からは想像がつかないほどの豹変。

 別人といっても納得できるくらいに雰囲気のかわった相手が放つ

剣閃を黒の剣で捌き、弾いて躱しながら会話の糸口を探す。


「どうして躱すんですか、どうして避けるんですか、どうして

 あなたは斬られないんですか?」


 昏い碧に変質したその瞳を見開き、能面のような表情で珠喜は

斑鳩が使っていた、紅い刃――御神刀の一振りで俺に迫る。

 なんども、斑鳩を殺ったのは俺じゃないと説明したが言葉は届かず

相手はただ、俺を斬ろうと紅い刃を閃かせる。


「あなたが先生を、ボクの大事な先生を殺したんだ……っ!!

 返してください、あの人を……返して、返して、返してかえしてかえして

 かえしてカエシテカエシテカエシテカエシテッ……返せ!!!!」


 デタラメな動きだった。

 10メートル以上は離れた距離を、一足飛びで詰めて来やがった……っ!!


 ギィ、ン……!!

 ギチ、ギリっ、ガギ、ギチィっ!

 間合いを詰めると同時に、俺の首を狙ったその刃をリベリオンの刀身で防ぐ。

 が、それでも尚相手の刃はすこしずつではあるが防いだリベリオンごと

押し込まれてくる。


「っぐ、くっそ……っ!なん、だその怪力は、ぁっ!!」


「あなたが先生を殺した、ボクから先生を奪ったんだ!お願い、返して

 お願い、斬られて、お願い、死んで、死ねよ!!」


「っち……っクソがぁっ!!」


 ジャリィッ!ギンッ!

 押仕返す力を一瞬だけゆるめ、相手の体勢がわずかに崩れた隙を

見計らい、迫ってきていた刃を外側へ反らすと同時に、その反対側へと

逃げる。


「はぁっはぁっはぁっ、どうして避けるんですか?

 ねぇ、どうして死んでくれないんですか?どうして……先生が死んで、

 あなたが生きてるんですか……ねぇ、ねぇどうして!!」


 無茶苦茶だ。

 言っていることの整合性がとれておらず、支離滅裂になっている。

 仮に、俺が死んだ所で斑鳩が息を吹き返すわけでもないのに、

珠喜はひたすらに俺を斬ろうと、殺そうとその刃で襲い掛かってくる。

 ……言っても無駄なんだろうな、今の相手は何も聞こえては居ないし

何も見えてはいないだろう。


「許さない、あなたを許さない、先生を殺したあなたを許さない

 ボクから先生を奪ったあなたを許さない……生きているあなたが許せないっ!!」


 そう叫んだかと思うと、急に顔を伏せ膝をついた珠喜。

 何だ?……何をする気だ…………?


「――ああ、そうか、そうですよね先生。

 相手は、クロスケさんは黒の剣リベリオンの契約者。

 その力を……不死の力を、先生にあげたら帰ってきてくれますか?――」


 まるで、何かワルイモノにでも化かされた気分だった。

 いつの間に移動したのか、俺の横に嗤っている珠喜が、

斑鳩と同じ構え……刀を鞘に納めた腰だめの"影刀"の予備動作の格好で立っていた


 朱い、剣閃。

 殆ど勘でしかなかった、とっさに状態を逸らしたが


「っちぃぃぃっ!!っぐ、っっっっ?!」


 袈裟懸けに斬り裂かれた俺の身体から吹き出る鮮血。


「っがあぁっ?!クソ、わけわかんねぇ……っ」


 躱したはずの斬撃を、俺はまともに受けていた。

 回避が遅れたわけでも、思ったよりも斬撃の間合いが広かったわけでもない。


 斬られ、避ける。

 抉られ、跳ぶ。

 突かれ、離れる。


 避けているはずの攻撃を受けるという、悪い夢でも見ているかのような状況

を繰り返し、立っているのがやっとという状況にまで陥る。

 再生が追いつかない程の大きなダメージではなく

再生する傍からダメージを与えられ続けても、どうやら不死という

アドバンテージは生かせないらしい。


「あははははは、そうだ、こうしたらよかったんですね先生ぇ!!

 まっててください、ボクが先生を助けてあげます!!」


「っぐ?!珠喜、てめ、ぇ……誰と話してんだ一体……っ」


 聞くと、珠喜は昨夜見せた笑顔を浮かべる……その禍々しさから

微笑ましいなんて言えたものじゃないが。


「わかりませんか?ボクのすぐそばに、先生がいるんです!!

 先生が、ボクにささやいてくれるんです……あははははは!!」


 っくそ、正気じゃねぇどころかぶっ壊れたか?

 ……いや、ちがうな。


「っぐ、なるほどな……御神刀の中に眠ってるらしい、過去の一族の意思か

 なんかが、そうさせてるのか……珠喜、まだ聞こえてるんなら悪いことは

 言わねぇ、いますぐにその刀を捨てろ」


「すてろ……?先生を?先生を捨てろだと!!

 やっぱり、あなたはボクから先生を奪おうとしてるんだ、許せない!!」

 

 珠喜が激昂する。

 どうやらそこは触れてはいけない部分だったらしい。

 けれど、宝刀が先生?何言って――そういう、事か。

 あの刀、斑鳩の意思みたいなもんを取り込んだってクチか。


「そういや、先生さんも魔神の一族の血筋だっつってたな……

 どういう理屈かはしらねぇが、握ってた相手が死の間際にいたんで何かを

 吸い上げた、ってところか……」


 緋色の刀身を珠喜は愛おしそうに撫で、顔に寄せるとチロチロと

その薄い唇から舌先を出し艶かしく舌を這わせる。


「っぁ、は、あぁっ……かわいそうに、あなたは先生が見えてないんですね。

 ほら、いまだって先生は優しくボクに語りかけてくれているんです。

 ……早くあなたの力を、不死の呪いを吸い上げて捧げなさいって……っ!!」


 嗤う。

 朱い姫は嗤う、嬉しいと。

 刃を振るい、斬り、抉り、突き、削ぐ事がただ嬉しいと嗤う。


「ボクはずっと思ってたんです……ボクの剣は、誰のために使うのかと。

 何のために剣を習うのかと。

 先生は、いつか現れる大切な相手のためだと教えてくれたんです……

 今日、その言葉の意味をボクは理解したんです。

 ボクの剣はこうして、先生を助けるために振るわれるべきなんだって!!」


「……それで、先生を助けるために俺を殺す、ってのか?」


 あ、ダメだわこれ。

 話をする云々ってレベルじゃない、意思の疎通が出来ねぇ。


「……おしゃべりが過ぎましたね、あまり先生をまたせても悪いし。

 クロスケさん、そういう事なので早く死んでいただけませんか?

 黒の剣リベリオン、早く使ってくれませんか?

 ボクは、あなたの力を先生に渡さないとダメなんです」


「ッハ、あまり俺を相手にナメた口聞いてんじゃねぇぞ……っ!」




 011-2


「うっわぁ……ニンゲン、あそこまで狂えるもんやねんなぁ」


「……恐らく、宝刀の中に眠るそれまでの一族の記憶に影響されてるのね。

 ただでさえ"魔神"として覚醒しかけてるもの、その影響力を考えると

 精神が汚染されてもおかしくはないもの」


 中空に浮かぶ結界内で、何かの準備をしながら少女と糸目の男の会話は

続く。


「いい?フリオ、あの後継にスキが出来たら介入するわよ?」


「わかっとるって……まぁ、問題はそれまであのニイちゃんが持つかどうかやな」


「酷い事言うけれど、持ってもらわないと困るわ……じゃないと、組織

 だけじゃなくて、教会も動きかねないんだから」


「はぁ……姐サン、さっきの話はほんまなん?同一の柱の魔神が複数存在した場合、

 色んなとこでバランスが崩壊するいうんは?」


「ワタシも、古い文献で見たぐらいなのだけれどね……けれど過去に遡って行くと

 その文献に書かれている事と、稀にあった柱の二重存在が確認された時期が

 重なるのよ……」


「信憑性は高いっちゅうことやな……よし、こっちは準備できたで」


「ワタシもよ……あとは、機会を見逃さないようにね」





「さすが不死の力、しぶといですね……これだけ斬ってもまだ

 立っていられるなんて」


 躱しても攻撃が当たる斬撃や、まるで嬲るかのようなあえて急所を外した

斬撃、防いでも浸透してくる衝撃など嬉しくないサービスっぷりに

 俺の身体は悲鳴を上げていた。


「っぐ、く、うぅっ……っ、ぐぁっ……!」


 今もまた、撫でるだけのような感覚が通り過ぎたかと思うと

首元から鮮血が舞う。

 傷を手でふさぎ、止血にもならない止血を試みながら珠喜を睨む。

 今更だが、あの路地で拾わずに放置しときゃよかったな。


 などと、朦朧とした意識でどうでもいい事を考えていると相手が

刃を鞘に収め、構えを解いているのが見えた。


「な、んだぁ……?もう終わりかよ、切り裂きお嬢サマレディ・リッパー

 俺はまだ、参っちゃいねぇぜ……?」


「……強がってはいても、膝が笑っていますよ、クロスケさん?

 ボクは、あなたをただ殺したいわけじゃないんです。

 その剣を使って、不死性の高まったあなたじゃないと意味が無い」


「無茶苦茶言いやがって……はいそうですかって気軽に使えるシロモノでも

 ねぇんだよ……」


 黒の剣と契約をしたその時から、俺はその発動を制限している。

 ……その強化は、戦闘の際には重宝するがそう気軽に使えるモノでも

無いということを薄々感じている。

 使い過ぎると、何か良くないことが起こりそうだと予感していた。 


「こまったなぁ……その剣を使ってもらわないと、先生を助けられないじゃないですか

 ――あぁ、それともあなたの"大事なもの"を斬れば使ってくれそうですね」


 珠喜の放った一言に、俺の中の何かがザワリ、と蠢く


「……調子に乗るんじゃねぇぞ、このメスガキ――っ!!」


「あはははははは!!怒りました、ねぇ怒りましたか?

 そっか、こうすればよかったんですね?

 ……うん、あなたの大事なもの、アリスさんでしたか?

 あの方の首を刎ねて見せてあげたら、もっと本気になりますか?」


 プツリ。


「――『拘束術式解放、強化レベル抑制解除……

  黒の剣リベリオン、起動……汝が贄を、喰らい尽くせ……』――っ!!!」


 言葉の上でだけとはいえ、アイツを、アリスに危害を加えると言った相手に

俺は抑えが効かなかった……危険を承知で、二度目の起動を行う――




「っ?!あのニイちゃん、もう一度黒の剣を起動させよったで?!」


「何やってんのよ、あのバカ!!フリオ、介入するわよ、術式の準備!!」


「わぁっとる!!……っ姐サンちょいまち、アレ見てみぃ!」


「何よ、こっちも急いでっ……って何よあの黒いの?!

 黒の剣が……契約者クロスケの右腕を侵食しているの……?」


 眼下で繰り広げられている光景。

 そこでは、黒の剣を起動させたクロスケが手に持ったソレから

吹き出す黒いナニかに右腕を絡めとられ、蹲っていた。


「……ちゃう、姐さん……オレ目がええから見えるけどアレ……

 黒の剣が、ニイちゃんの右腕を喰らっとるんや……」


「喰わ……っ?!フリオ、結界解除、いくわよ!!」


 言い終わるやいなや、少女は結界の一部をこじ開け飛び降りる


「ちょ、姐サンまちっ!って行ってもうたで……あぁもう、どうなっても

 オレは知らんからなっ!!」


 遅れて、糸目の男も少女の後を追って飛び降りた。

 今はまだ、監視対象でしか無いクロスケの身を案じながら。



 

 011-3


「っぐ、あ……っ、なに、がどうなってやがるんだ……?」


 黒の剣を起動させた瞬間に、握っている右手に感じた激痛でうずくまった俺は

目の前に居るはずの珠喜を警戒し、咄嗟に後退り距離を取る。


「っく、あはははは!!クロスケさん、もしかして制御出来ないんですか?

 契約者なのに?あははははははは!!

 ……なら、いっそうその力を先生に捧げないと。

 あなた程度の人が不死の恩恵を得て、先生が死ぬなんておかしすぎる。

 さぁ、いますぐ楽にしてさしあげますね!!」


 珠喜は、今なら容易く俺を斬れるとふんだのか警戒もせずに近づいて

抜き身の刃を振り掲げた。


「っぐ、調子に……のるんじゃ、ねぇぇ!!」


 激痛のあまり感覚のない右腕を、俺は力任せに振り回し相手に叩きつけた。

 ……牽制のつもりだったのだが、その右腕はどうにかなってしまっているらしく

虚をついて珠喜の、がら空きの身体にぶち当たった!!


「なっ?!っぐううぅぅぅっ、か、は……な、んで」


 まさか反撃が来るとは、そしてその攻撃が当たるとは思っていなかったらしく

片膝をついた珠喜の顔が驚愕に染まる。

 ……なんだろうか、珠喜に右腕が当たった瞬間に何かが流れ込んだ感覚が

あった。


「な、んだ……っぐあぁぁぁっ?!」


 右腕の激痛がより一層ひどくなり、黒く包まれたその内側では

『ミキリ、ペキ、パキッ、グチュ、ミチッ』と、あまり良くない音が聞こえる。

 ……いや、ごまかすのはよそう。コイツは、黒の剣は


「右腕を……喰ってる、のか……っぐぅぅぅっ?!」


 そう認識してしまうとその激痛は喰われている痛みとして捉えてしまい、

おぞましい感覚が背中に疾走る。


「っく、ぅ……油断しちゃいましたよ、まさかそんな状況で反撃をするだなんて。

 それに……あなた、ボクからその右手で魔力を奪いましたよね。

 あはは、すごい、なぁ……それさえあれば先生は絶対助かりますね……

 その右腕ごと、黒の剣……貰いますね?」


 嗤いを浮かべた珠喜は、先ほどとおなじように抜き身の刃をぶら下げながら

近づいてくる。

 ……だめだ、今は力が入らねぇ、くっそ……



『今よ、フリオ!!』


「はいはいっと!

 『戒めよ、千の縛鎖となりてその者を封じよ』っ!!」


 半ば諦めかけていた俺の前に、何者かが立ちふさがったかと思うと

詠唱だろうか、その言葉とともに近づいていた珠喜を魔導の鎖で縛り付けた。


「誰ですか、あなたは?こんな物でボクが――」


「姐サン、こっちはおっけーやで!!」


 珠喜の動きを魔導で止めたソイツが誰かに呼びかける。

すると、その隣に何処かで見たことの在る後ろ姿が降り立ち


「オイタが過ぎたわね、バルバトスの後継者さん?

 ――『扉よ、旅人を遥か地平の彼方へ誘え』、貴女少し見苦しいわよ?」


「なっ、ボクの邪魔をす…………――」


 珠喜が何かを言い切る前に、降り立ってきた少女が行使したのだろうか

しばられて身動きの取れない珠喜の足元に魔法陣が現れたかと思うと

 その姿は掻き消えてしまう。


「ふぅ、ええタイミングやったな姐サン。

 ……んで、何処に飛ばしたん?」


「さぁ?急な事だったし座標なんて設定してないもの。

 けれど、魔神だしそう簡単に死ぬことはないでしょう?

 ――さてと、問題はこっちよね……大丈夫?契約者さん?」


 おそらくは、俺を助けてくれたのだろうか。

 その少女は、ゆっくりとこちらを振り返る……その顔は


「お、前……甘味屋で食い逃げしたガキじゃねぇ……か……」


 どうやらそこで限界だったらしく、俺は右腕の激痛と疲労感から意識を失った。


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