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BANDIT!  作者: 望田 壱
The blade for who?
25/28

010


 

 010-1


 月夜に照らされた、夜空の下。

 周囲に建物の残骸らしき瓦礫が散乱する中。


 朱と黒、二つの影が舞う。


「ッハ!セィッ!!オラァっ!!!くたばれぇっ!」


 黒の刃は型も何もなく、荒削りな太刀筋を描く。


「フッ!フンッ!甘いっ!当たらんよっ!!」


 朱の刃は洗練された剣閃で黒を防ぎ、迎え撃つ


 打ち合わされる朱と黒、刃と刃。

 甲高い剣戟の音が響き渡り、二つの影は互いに距離を取る。



「ハァっ、ハァっ……先生さんよ、ここまで付き合ってやったんだ。

 そろそろ観念して珠喜の所に帰ろうぜ?」


「フゥっ、ふぅっ……あの子のとこへは帰らない、何度も言ったよ。

 僕は、君を討ってこの国から、珠喜の前から姿を消す」




 斑鳩の放った一言に、俺はため息をつくしかない。

 これだけ剣を交えて、話をしても相手の意思は固く本当に説得

出来るのかって気持ちになる。


 いっそ、斑鳩が言うようにこの場はもう引いて行かせてやってもいいんじゃないか?

 そんな気持ちになるが、珠喜に連れ帰ってやるといった手前

そんな事をしては格好がつかない。

 じゃあどうするか…………。


「……なぁ、先生さんよ。ようはその宝刀さえなけりゃあいいんだよな?」


「なんだ急に?……まぁ、極論を言ってしまうとそうなんだけどね。

 ……君、宝刀を取り返すのが目的なんじゃないのか?」


「一応な。けれど、あんたを珠喜に会わせるって事だけ考えると

 宝刀は必要ないんだよ」


 こうまで頑なに珠喜と会う事を拒否する以上、むしろ宝刀の存在は

ジャマでしかない。

 いい加減疲れてきたし、もう斑鳩と珠喜を引きあわせたらそれでいいんじゃねぇか?


「ってなことで、その宝刀はへし折ろう。

 そしたら、継承がどうとかそれに詰まってる一族の云々とか気にしなくていいだろ?」


 提案する。ここにきて色々働き過ぎた気もするしもうさっさと終わらせて

地元に帰りたい。

 そしたらアリスにメイドコスプレさせて、夜のご奉仕活動プレイとかするんだ。


「正気か、君……魔神の一族に伝わる宝刀をこの場で折るなんて……

 けれど、確かにそちらの方がただコレを持ってこの地を離れるよりも確実かもしれない」


「だろ?まぁ魔神に伝わる刀だから、折っても勝手に修復するって線もあるが

 少なくとも時間稼ぎにはなんねぇか?」


「フフッ、僕も分家筋とはいえ、あの一族には変わりない……折ってしまえという

 考えが無かったのはそうした家系による弊害か。

 ……わかった、出来るかどうかは解らないがこの宝刀、折って……」



「それは困るな」



「「っ?!」」


 唐突に響いた男の声。

 それは見知らぬ声ではなく、ここ最近聞いたばかりの声だ。


「……朱忌、バルバトスか…………?」


「クッ!!現当主がなぜここに……っ!どこだ、姿を見せろっ!」


 斑鳩が言うように、何故ここで朱忌が出てくるんだ?

 嫌な予感が拭えない……何の目的があってこのタイミングで?


「なに、この城から懐かしくも知らない気配が放出されたからな……

 何かと思い見に来ればやはり……斑鳩、貴様だったか」


 その台詞とともに、俺と斑鳩のちょうど中間、何もない場所に

紅い火柱が立ち上がったかと思うと次の瞬間には朱髪の美丈夫、朱忌が現れる。


「……ほぅ、まさか分家筋にも関わらず一族の力を制御できるとはな。

 御神刀の力か、才能の成せる技か……久しぶりだな、斑鳩」


「白々しいっ……お久しぶりですね、現当主・朱忌!

 わざわざ貴方自身がこうして出向いてまでこの宝刀を取り戻しに来るとは……」


 朱忌が姿を見せた瞬間、現れた相手を睨みつける斑鳩。

 だが、睨まれている当人の朱忌はその視線を気にすることもなく斑鳩の姿を

確認し、そう呟いた。


「だが、一族の力を引き出したにしては些か弱い気もするが……そうか。

 魔人化、というやつか……所詮分家、か」


「貴様……っ!!僕を舐めるなぁっ!!」


 元々良く思ってはいない相手にそう揶揄され冷静さを欠いたのか

止める隙もなく斑鳩は、朱忌に斬りかかった。

 ……だが、先ほどまで俺を苦しめていた朱い剣閃を朱忌は


「中々良い太刀筋だ……しかし、これでは拙者の娘の足元にも

 及ばないな」


 あっさりと、まるでそこに来るとわかっていたかのようにその刃を

ピタリ、と止める……左手の親指と、人指し指の二本で摘むように。


「なっ?!……っく、ッシィッ!!」


 斑鳩は刃を止められた体勢から、朱忌の顔面へと蹴りを放つ。 

 その蹴りも、朱忌はヒョイと顔をわずかに逸らしただけで躱してしまう。

 斑鳩は、その隙を突いて摘まれた刃を引きぬき間合いを離した。


「やれやれ、どうやら拙者は斑鳩には嫌われているらしいな。

 ……と、済まなかったなクロスケ殿、お主を放っておいてしまった」


「口出し出来るような状況じゃなかったからな……んで、アンタは何しに

 来たんだ?」


「何、お主たちの話を聞かせてもらっていたが、どうも御神刀を折る

 などと聞き捨てならない内容だったからこうしてしゃしゃり出てきただけだ」


「……それだけか?」


「あぁ……あとは、そうだな…………――"力"の回収かな?」

 


「…………えっ?」


 何が起きたのか、理解が追いつかない。

 その時の俺はきっと、そんな表情をしていただろう。

 それは、斑鳩も同じだったようで。


 朱忌の行動を警戒していた斑鳩は、宝刀を持ったその手ごと

袈裟懸けに斬り裂かれ、その真紅の髪と同じ色の液体を吹き出した――――。




 010-2


「――っ、斑鳩っ!!」


 俺は咄嗟に朱忌の横を通りぬけ、倒れようとする斑鳩の元へ走り寄る。

 ……なんだ今のは、見えないどころじゃない、何をしたのかすらわからなかった。

 いや、何かしたのか?


 すんでの所で斑鳩を抱きとめ、傷の状況を把握する。

 ……ダメ、だ。出血がひどすぎて詳細は解らないが、これは致命傷だ。


 朱忌の方を見ると、その手には紅い刀身の刀を持っている。

 おそらくは、御神刀のもう一振り。


 満足そうにその刀身を眺め、こちらを一瞥すると何も言わず去ろうとする。


「っ待て、朱忌!!てめぇ、どういうつもりだ!!」


「……どうもこうも、拙者は本来この場に居ない者なんでな。

 それに、もうすぐ主演が到着するのだ……拙者は、邪魔なだけであろう?」


 それだけ言うと、朱忌は足を踏み出すと同時に煙のようにその姿が薄れていく。

 主演?どういうこった、アイツ何を……



「せ、んせい……?」


 背後から上がったその声で、俺は去ったヤツの言葉を理解する。

 ……そういうことか、クソっ!


 ゆっくりと、背後を振り返るとそこに立っているのは珠喜。

 その表情は凍りつき、目は光を失っている。

 俺の姿は目に入っていないらしく、俺に抱きかかえられている

血まみれの斑鳩だけを目指し、歩み寄ってくる。


「せ、んせい、どうしたんですか……?なぜ、赤いのですか?」


 その声に、まだ意識はあるのか斑鳩は、珠喜の居る方へ

手首から先がない腕を伸ばす。


「しゅ……き……っゴホ、グブっ……」


 ゴボリ、と斑鳩の口から溢れる鮮血。


 斑鳩の元へ辿り着いた珠喜は、伸ばされた手をそっと胸に抱く。


「せんせ、い?手が、ないです……ぼくを撫でてくれた、やさしい手が……」


「ゴホ、グゥ、っ…………は、は……すまな……珠喜……ぼくは、きみに、

 きみと、約束――」


 何かを言いかけ、けれど何も言えないまま斑鳩の体から力が抜ける。

 その表情は、苦悶のまま、もう何も見ていない目が見開かれている。

 俺は、せめてもと目元に手を当て瞳を閉じさせた。


「せんせい?どうして、寝ているんですか?ほら、かえりましょう。

 ぼく、せんせいを迎えに来たんです。一緒に、かえりましょう」


 抱きかかえていた斑鳩の亡骸を、俺はそっと地面に横たわらせた。

 珠喜は、もう返事のできないその亡骸をゆすりなんども呼びかけている。


「……珠喜、先生さんをあんま困らせてやんなよ、ほら……っ?!」


 これ以上ここに留まると珠喜の何かが壊れる、そう思い俺は

無理やりにでも引き離そうと近づいたその瞬間。


「――あなたですか、あなたですね……せんせいをこんなにしたのは」


 カクン、と機械的に振り向いた珠喜に表情はなく見開かれたその瞳は。


「珠喜……お前、その瞳は……っ」


 深い、深い碧の色に昏く輝いていた。




「……っ、ぅ、ん……あ、れ……ワタシ、眠って?」


「姐サン、起きたんかいな」


 少女が頭を振りながら身を起こすと同時に掛けられた声。

 そちらを見ると帽子をかぶった糸目の男、フリオが結界の眼下を

厳しい顔つきで見ていた。


「フリオ、アンタ……って?!そうよ、あの二人はどうなったの?!」


「……オレが起きた時にはもう、斑鳩はんは死んでて今は、

 バルバトスの後継と契約者のニイちゃんが睨みおうとる状態やったわ」


「何、それ……どういう経緯でそうなったのよ?」


「オレに聞かれてもわからんて……わからんけど、何かされたらしいな。

 姐サン、寝てもうた直前の記憶ある?」


「フリオ、アンタ寝てたの?!眠ってたって……あ、れ?」


「ふぅ……姐サンもやられてもうてるか……厄介やな、何処の

 誰かしらんけど、オレらを眠らせてる間に状況を引っ掻き回してった

 みたいやな」


「なんですって?!フリオ、結界は?他に被害箇所は?!」


「安心しぃ、オレと姐サンは記憶消されて転がされとったぐらいや。

 斑鳩はんは……もうアカンな、死んだ人間は戻されへんし。

 問題は……バルバトスの後継やな。

 斑鳩はんが死んでもうたせいで、壊れかけとる。

 挙句、どういうわけかしらんけどその場におったニイちゃんが

 殺ったもんとして話しとるわ」


 フリオの状況説明を聞いた少女は、苦渋の表情を浮かべる。


「やられたわ……確実にってわけじゃないけど、首謀者はバルバトスの現当主ね」


「……え、マジで言うてんのそれ?」


「ええ、マジよ……魔神の継承は基本儀式を通して継承させるのだけれど

 それとは別に、後継者の中に眠る力をたたき起こして目覚めさせ、

 後継者とする方法もあるわ……今じゃ外道過ぎてどの魔神も

 避けてる方法だけれどね」


「あんま趣味のよさそうな話、じゃないなぁ」


「趣味悪すぎよ。

 ――後継者と尤も親しかった者の命を目の前で生贄として捧げ、

 その生贄の命を奪った者を後継者自身に殺害させるなんて」


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