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BANDIT!  作者: 望田 壱
The blade for who?
20/28

005


 005-1


 道場の朝は早いらしく、こんな時間だというのに既に門下生と

思わしき少年少女が道場に顔を出し、床磨きや周囲の掃除、稽古に使う

竹で作った模擬刀や防具の手入れを行なっている。


 昨夜、珠喜に庭までふっとばされたまま寝ていた俺はその

喧騒で目を覚ました。



「いやぁ、感心感心・・・朝も早いのに、ガキンチョ共は元気だなぁ」


「・・・あっ!おはようございます、クロスケさんっ」


 掃除に精を出す子供らを、道場の脇から眺めていると

気持ちの良い挨拶が聞こえてきた。

 そちらを向くと、稽古着とでも言えばいいのか

淡い紅色の前合わせの上着に、これまた淡い紅色のスカートのような

穿き物を身につけた珠喜がそこに立っていた。


「おう、おはようさん・・・いい拳だったぜ?

 おかげでよく寝れた」


「えっ?・・・あ、ああっ?!そ、その昨夜はすみませんでしたっ!

 ・・・でも、クロスケさんも悪いんですよ?

 あんな事されたら誰だって危険を感じますよ……」


「うわははは!まぁ、冗談にしても悪乗りしすぎたな、ソコは謝る。

 ……ふぅん、けどこうして見ると……」


「な、何がですか?」


「うん、凛々しくていいじゃないか、イケてるぜ珠喜?」


 俺が何を言ったのかを、理解出来なかったのか呆然としていたが

次の瞬間にはその褐色の頬を薄紅に染め


「な、な、何言ってるんですかクロスケさん?!

 ぼ、ボクみたいに女の子で剣を振るってるのにイケてるとか……」


 俯いて、指先を付きあわせつつモジモジし始めた。

何このかわいい生き物。

 アリスが居なくてよかったな、いたらアイツ縄で縛り付けてでも

連れ帰ろうとするぞ、きっと。


 ようやく立ち直ったのか、呼吸を整え表情を引き締める珠喜。

なんでも、これからガキンチョ共に混じって朝の稽古らしくその後に

朝食との事だ。


「そうだ、よかったらクロスケさんも見物していかれますか?」


「いや……俺はこれから城に行こうと思う」


 昨日、朱忌より聞いた旅芸人の話。

 上手いこと潜り込めば危ない橋を渡る事無く城に潜入できるかもしれん。

 そのためには、早めにここを出てその一座に合流する必要がある。


「あ……そ、そうですよね、すみませんでした。

 その、気をつけて下さい、ボクも一緒に行けたらいいのですが……」


「気にすんな、そんな事……それに、アンタの顔はもう向こうも知ってるんだろ?

 一緒に行った所で、警戒されて追い返されるのがオチだ」


 昨日の話からすると、この道場自体が領主側に警戒されててもおかしくはない。

 行動を起こすまでの時間を掛けすぎると俺の顔まで相手側に割れる可能性がある。


「ま、昼までには帰ってくるさ。なんで俺の分の飯、とっといてくんねぇかな?」

 帰ってきて飯が無いとか言われたら泣きそうになるし」


「……はい、それじゃ今日の当番はボクなんで、期待していてくださいね?

 いい魚が入ったみたいなので、腕によりをかけます!」


「あぁ、期待してる……じゃあな?」


 さて、と。

 それじゃあお仕事でもしますかね、っと。




 一座が宿泊しているという宿に向かい、それっぽい集団を探す。

……いた。もう城へと向かうのだろうか、各々が荷物を担いで

出る準備をしていた。


 何処かに潜り込めそうな場所はないだろうかと、こっそり近づき

しばらく物色していると、芸に使う道具を運ぶのだろうか大きめの

荷車があった。


「……コレでいいか」


 俺は荷車に乗り込み、乱雑に置かれた道具の隙間へ身を滑りこませ

そこあった布で姿を隠す……これで、無事入れることを祈るぜ?




「止まれ!!……ん、あぁお前らか……今日も主殿に呼ばれたか?」


「へぇ、ここ何日かはこの街に留まって領主様に芸を披露させて

 いただくつもりです」


「そうか……念のため、荷台を検分するぞ?」



 ……ヤバイな、乗りきれるか?

 外でかわされていた、おそらくは一座の者と城の門兵との会話を

聞いていたが、荷台を調べると言われ俺は少し焦る。

 ……ややあって、俺が身を隠す荷車に近づいている気配。



「をを、フリオ殿!わざわざこのようなとこにまで……何かありましたか?」


「なんもないでー、ちょっと手があいて暇やったしな?

 ちょうどこの人らが来るのみっけたんで手伝いにきてん」


「そうでしたか、それではそちらの荷車の検分をお願いします」


「まかせときー」



 おそらく気配の主は、フリオと呼ばれた男だろう。

……何処かで聞いたような声だけど、気のせいか?


 そのとこの気配は、なぜか俺が隠れている場所の前で止まる。

 ……気づかれたか?

 だが、相手の気配はそこから一向に動こうともしない。

 気のせいか、すごい見られてる気がする……



「フリオ殿!そちらは大丈夫でしょうか!!」


「……あー、こっちは異常なしやで、通したってもええんとちゃうかな?」


「だ、そうだ、行っていいぞ」


「へぃ、ありがとうございます、では」


「うむ、主殿の機嫌を損なわぬようにな」


 ……はぁ、どうにか切り抜けれたか……あとは適当な所でここから

出ればいいな。





「……あの反応、黒の剣よなぁ……なんで盗賊のニイちゃんが

 ここにおるんや?……なんやようわからんが、コレ面白くなりそうやな」




 005-2


 しばらく、荷車で揺られていたがその振動が止まる。

チラリ、と被っている布の隙間から辺りを伺うと城壁内……

城の裏手あたりに今は居るらしい。


 俺は、周囲に誰も居ないことを確認し荷車から降りる。

 壁づたいに、気配を消しながら移動していくと裏口とでも言えばいいのだろうか

人ひとりが通れるような引き戸を見つけた。


 引き戸に付いている格子の隙間から、引き戸の向こう側を覗く……

中には、細長い棒や椅子等が置かれてある……詰所か何かだろうか?


「おじゃましますよ、っと……」


 物音を立てないように注意しながら、中へと入り込む。

 今の時間は、城の中や外を哨戒中なのか幸いにも人と出くわすことはなかった。


 ……ここまでこれたんなら、あとは見つからずに城の構造と

退路を頭に叩きこめばいいか。


 だが、個人的には先生と呼ばれる人物に会ってみたい気がする。

 ……あそこまで信頼されていた人物が、道場の家宝を持ちだした。

 理由もなしに、そんなことをするとは思えない。

 その理由を、聞いてみたい。



 探索を続けてしばらくすると、つきあたりの通路の先。

曲がり角から人の気配と、話し声が聞こえてきた。

 俺は、盗賊の技能である気配の遮断と存在の希薄化を用い

話が聞き取れる位置まで、そっと近づく。


「聞いたか、例の道場から主殿の元に来た剣士の話」


「……ああ、なんでも自分から地下牢に入ったらしいな」


「何を考えているのやら……その主殿も、最近はほとんどフリオ殿

 の助言をそのまま実行するだけで街からの信頼を得ているからな」


「あぁ、あれじゃあどっちがこの城の主なのかわからんよ」


「全くだ」


 そのまま、話し声は遠のいていく。

 ……ふぅん、先生は地下牢、ねぇ。

 それに、さっき門のとこにいたあの声の主、フリオっていったか?

そいつがここの領主に助言を与えている、か……そっちも気になるな。

 まっ、まずは先に先生に会ってみるか。



 それらしき階段を見つけ、降りていく。

暫くして、わずかにカビ臭い薄暗い通路に出た。


「ここがそうか……?さて、んじゃ探しますかね」


 そのまま道なりに歩いて行く。

 この場所は、今は使われていないらしくところどころ補修の必要な

部分があったり、使わない資材が放置されていたりする。



「……そこにいるのは、誰かな?この城の人間ではないようだが」


 ……っ?!

 見つかったのか?とも思ったが違うらしい。

 証拠に、その声は、いくつか並んでいる牢の一室から聞こえてきた。


「あんた、先生……か?」


「……そう呼ばれるのは久しぶりだな……君は、もしかして

 道場の……?いや、けれど見たことのない顔だね」


「だろうな……その道場に依頼されてな、あんたが持ちだした

 家宝の刀ってのを、返してもらいに来た」


「……そうか、しかしそれはできない相談だな……この刀は

 渡せない」


「……わからないことが在るんだけど、なんであんたこうやって

 牢なんかに入ってるんだ?

 さっき、上で自分から入ったって聞いたけどな」


 俺は、思ったことをそのまま聞いてみる。

 先生は、自嘲気味に苦笑してから


「……そうだね、有名な道場の家宝を盗み出した罪悪感から……

 ではダメかな」


「……話したくはないってわけね。

 まぁ、今日はあくまで下見のつもりで来たんだ、ここで奪うつもりはねぇよ」


「何度来ても同じ事だ、僕はこの刀を渡すつもりはない。

 ……あの子は、珠喜は元気にしてるかな?」


「ん?……そういやあんた、珠喜にすごい懐かれてるらしいな。

 あいつも相当気にしてたぜ?」


「そう、か……珠喜に伝えてくれないかな?

 "僕にはもう構うな、君はそのままの君で居てくれ"、と」


「?……どういう意味だ?」


「伝えてくれるだけでいい、きっとあの子も今は理解できないだろうから」


「はぁ、わかんねぇ……そういや、あんた名前は?」


「?どうして、僕の名を?」


「ん?……名前ぐらいいいだろ?あ、俺クロスケっていうんだ」


「わからないな君は……僕の名は斑鳩。

 ……その通路をそのまま真っすぐに進んで、つきあたりを左に曲がれば

 抜け道がある……そこからなら外に出れるだろう」


「を、ご丁寧なことにどうも、っと。

 それじゃ、またくるぜ?斑鳩先生」


 

 斑鳩に教わったとおり、抜け道を使って表に出る。

 そこは、ちょうど湖畔を挟んで城の裏側に出る場所だった。

 ……抜け道として使用されていた地下洞穴の途中、妙に甘い匂いがするな

とたどったら、俺達冒険者が使う薬剤の原料となる花を見つけた。

 ……たしかこれ、加工しないまま煎じて使うと、中毒になりかねない

成分が入ってなかったか?

 もしかしたら、公爵さんに言われてた禁制の薬に関係あるかもしれない。

 俺は、その甘い匂いが漏れないように腰のポーチから布と袋を取り出し

布で花を包むと、そのまま取り出した袋に入れその口をきつく締める。


 さて、思ったより簡単に事が進みそうだなぁ。

斑鳩先生の説得には骨が折れそうだが……とりあえず、道場に戻るか。




 005-3


 開かれている道場の門を潜り、俺はそのまま隣接されている屋敷へと向かう。


「とりあえず戻ったぜー」


「あっ!!クロスケさん、おかえりなさい!!」


 誰かいるかもと、声をかけると珠喜が急ぎ足で屋敷の奥から

庭先へと出てきた。


「ちょうど今、お昼の準備が終わったんですよ!

 さ、はやくこちらにどうぞっ」


 案内されるがまま、俺は珠喜に手をひかれ連れて行かれる。

そうして着いた部屋には、さきに朱忌が座して待っており俺も

進められた場所に腰を下ろし、飯が出て来るのを待つ。


「……城の様子はどうだった?」


「あぁ、なんていうかふつー。

 チラッと話が聞けたけど、なんか領主サマに助言してる奴が居て

 評判が改善されたのもソイツのおかげだってよ」


「そうか……彼には会えたか?」


「あぁ……なんか自分から地下牢に入ったっつってた。

 ……刀は返せない、とさ」


 俺の話を聞いて、何を思うのか目を瞑る朱忌。

やがて、姦しい雰囲気とともに昼ご飯を運んでくる珠喜。


「お待たせしました、父上もクロスケさんもっ!

 さ、今日のは自信作ですよ?食べてみて下さい!」


 そこまで進めるんならどれ、と箸をつける。

湯気の立っている白米を口に運び、煮魚の切り身を箸で切り分け

コレもまた口へ入れ咀嚼する。


「を、美味いじゃねぇかこれ!」


「あ、本当ですか?その煮付け、母上より習った中でも

 自信作なんですよ!!」


 いいね、この程よい甘さ。

 箸も進むってもんだ。


「……そういえば、クロスケさんってお箸の使い方が上手ですね?

 大陸の方って、ナイフやフォークが多いと聞いていたのですが……」


「あぁ、うちの実家じゃ親父やお袋が箸つかう人だからなぁ。

 ガキの頃からみっちり仕込まれたんだよ。

 まぁ、最近は使う機会もなかったけどそれでもこうしてつかうことは出来るぜ?」


「そうなんですね……あ、食べてる途中にごめんなさいっ!

 さ、ひとまずどんどん食べちゃってくださいね?」


 そうして進められるがままに、飯を平らげる。

 ……あぁ、これだけでも、倭の国にきてよかったかもしんない。


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