004
004-1
「それでは、ボクは退室します……クロスケさん、またあとで」
そう言い残し、珠喜が部屋を出て行く。
今、この部屋に残っているのは、俺と目の前の美丈夫だけ。
「……ふむ、先程は驚かせてすまなかったな。
だが、さして動揺しなかったところは流石といえよう」
「これでも、驚いては居るんだけどな……
けれど、まさかアモンと知り合いとは思わなかったぜ」
「……昔、奴とは肩を並べて行動を共にしていたことがあってな。
最近は顔も見せなくなったが……」
んん?俺の事を知っていたんだし、アモン繋がりかとも思ったけど
そうじゃないのか?
「ははは、その表情はよくわからないといった感じだな。
……これは、72柱の拙者達独特の特性でな。
意思の疎通こそ出来ないが、72柱の同志が得た情報は、ある程度
までならば共有する事ができるのだよ」
「はぁ……なんかとんでもないな、あんたら魔神って。
……ん?ちょっとまて、それってもしかして他の魔神も
知ってるってことか?」
「うむ……と言いたいところだがそこまで万能でもなくてな。
拙者の様に、今はヒトとしての形態を取っているがこの状態だと
情報の共有はできんのだ」
情報の共有ができるのは、あくまでも魔神としての形態を取っている時
のみ、と説明をしてくれた。
「それに、現在72柱のほとんどは眠りに付いているか
何かしらの理由で魔神本来の姿とは異なる形態を取っている。
拙者もまた、先ほどの魔神の形態にはそう長くなれないのが実情なのだよ」
「ふぅん……なぁ、それってもしかして例の御神刀とやらが関係してるのか?」
「……よくわかったな、そのとおりだ。
拙者達一族は、代々"バルバトス"として力と記憶を継承した者は
あの御神刀にその殆どを封じている」
「なんでまた、そんな事を?」
「……一つは、戒め……だな。
アモンと対峙したお主であればわかるだろう、拙者達のような魔神は
現界するには、あまりにも強力すぎるのだ。
その強力な力のまま現界をしていれば、ヒトと確実に軋轢を起こす。
……魔神を含めた、多くの魔種はそれを望んでは居ないのだ」
「軋轢、か……確かに、未だに人間と魔種の諍いって消えてねぇからな。
それでも、昔にくらべりゃ減ったって聞くけどな」
「……それは、諍いの数が減ったのではなく、魔種の総数が減ったから
そう見えるだけ、といったら?」
「……教会による弾圧、か」
数ヶ月前にあった出来事をふと思い出す。
あの司祭、言動こそ突き抜けた狂信者っぷりだったが教会の
教義そのものは、概ねあの司祭の言うとおりだ。
魔種は、人を堕落たらしめるもの。
魔種は、創造主の教えに背くもの。
元々は、南の王国が発祥だがその教えはあっという間に広がり
それまでは表に出て来なかった、魔種に対しての様々な差別や問題が
一気に顕在化した。
その事により魔種の、人間に対しての感情もまた負の感情が増え
その事がさらに、教会の教義の広がりと魔種に対しての問題を増やす。
事態を重くみた各国家が、魔種に対しての保護や、差別の禁止と
抑制を御触れに出すほどにまで。
「その通り、教会による弾圧、酷い時になると教会は
異教徒狩りなどと称して、すこしばかり反抗的な魔種を有無も言わさずに
裁判にかけ、その命を奪っていたのだよ……昔はな」
「ひでぇ話だな……そういや、アモンからここ倭の国は、殆どの人が
潜在的に魔種の血を引いてるって聞いたんだけど?」
「うむ、先ほどの話であったが、教会の弾圧から逃れんと逃亡を繰り返していた
拙者の先祖が率いる一団が、この国に流れ着いた過去があってな」
「あ、そういう事なのか……でも、その血もだいぶ薄まってきてるんだろ?」
「一族以外はな。多少特徴に魔種の外見と似通う部分があるぐらいでヒトと
変わりはせんよ」
「……あんたら一族は、薄まったりはしないのか?」
「先程、少し話しただろう?拙者の一族は代々、力と記憶を継承する。
その為、何代たっても血が薄れることはないのだよ」
「それも、また魔神の特性……ってやつなのか?」
聞くと、今代のバルバトスである男……朱忌は何かを
懐かしむ顔を見せるが、すぐに引き締め
「……話がだいぶ逸れてしまったな。
さて、本題に入ろうではないか」
俺の問いかけには、どうやら答えてくれそうにはなかった。
004-2
奪われた御神刀には、代々の力が封印されている。
あの刃は、一族にとって最強の力になると同時に
一族にとって、最大の脅威ともなる。
「幸いにも、記憶を封じた御神刀はこちらの手元にある。
……持ちだされた刀だけでは意味がなく、二振りを揃えて初めて意味の
ある形となるのだよ」
「問題は、その先生って人がどうして持ちだしたかだよな。
何か心当たりとかはねぇの?」
「……彼はこの道場でも随一の使い手でな。
人の身でありながら、この道場の門を叩いた時は正気かと疑ったのだが
それ以上に、その剣の腕といい教えたこと全てを吸収する素質といい
このような事をする人物ではないと思っていたのだが……」
「……何が理由か、検討がつかないって事か。
そういやその先生、倭の国の出身なのか?」
「いや、元々は倭ではなく大陸の……西の方の出身と言っていたな。」
大陸側の人間、か……西の方っていや西方諸国のどっかか?
「そういえば、この道場で剣を習い始めてから暫くして
拙者たちが、相当強い力をもった魔種の一族というのも看過されしまったな
彼には……にも関わらず態度を変えずに接してくれてな」
「はぁ……こう話だけきいてると完璧人間だなソイツは。
そうなると、ますますわかんねぇな……金に目が眩んだってわけでも
無さそうだし……そういや、その御神刀のことで領主サマに
掛け合ったら、門前払い食らったって聞いたけどマジか?」
「……ああ、本当の話だ。
どういうわけか、彼のことを話したらそんな人物は居ないと
言われてな……だが、こちらは遠目ではあるが城の人間と
何かを話している彼の姿を何度も見ているのだ」
……隠している、というよりは接触を避けている、接触させない
様にしているってとこか。
「あ、そういやさ……ここの領主サマってどういう奴なんだ?
なんか話聞いてると、どうもそっちも疑っといたほうがいい気もするんだけど」
「……今の領主、か……正直にいうと余り良い噂はないな。
元々優れた人物ではなかったのだが、ここ近年は特にひどくてな。
昨年などは急に税が上げられ、ぼやきや不満がソコかしこで
囁かれていたよ」
「ふぅん……今はそうじゃないのか?」
「ああ、ひと月ほど前にな……それまで不評だった政策が見直されてな
どうやら、領主の傍に相当な切れ者がいるともっぱらの噂だ。
ただ……なんでも城ではその領主、贅沢の限りを尽くしているみたいでな。
毎日のように城に楽団や旅芸人の一座を呼んでは遊び呆けているらしい」
楽団や、旅芸人ね……これは使えるか?
「……拙者が知っているのはこのくらいだが、役に立てるかね?
わざわざ、倭の国に来てもらって悪いのだが、出来れば
早めにあの御神刀を取り返して貰いたい」
「ふぅ……ま、出来る限りのことはやってやるさ。
……とりあえず、楽団や旅芸人の一座ってのは明日もくるのか?」
「ああ、今も街の宿にいけば会えるんじゃないか?」
「おっけー、それだけわかれば十分だ」
「あ、クロスケさん!……父上との話、どうでしたか?」
充てがわれた部屋に戻ると、そこでは珠喜が正座して
俺の帰りを待っていた。
「あぁ、大まかな事情は聞かせてもらったよ。
……何が狙いかはわからんが、家宝の刀を2本とも
持っていかれてたら、一族そのものがマズかったらしいな」
「は、はい……ボクが、もう少し気を張っていれば
こういうことにはならなかったと思うと、父上には悪くて……」
こうして、俺にも迷惑をかけることなんてなかったのに、と
相手はひどく落ち込む……。
「ん?まぁ気にすんなよ。俺は俺で、最近地味な仕事ばかりしてたんで
気分転換にはちょうどよかったんだ、それに……」
「……それに?」
「いや、実は前から倭の国には行ってみたいと思っててな?
ほら、こっちの菓子ってすげぇ美味い物が多いって聞いてなぁ」
「プッ……あははは、クロスケさんってそういえば甘い食べ物が
好きなんですか」
「ああ、大好きだね。好きすぎて時間があれば自分で作るほどだな」
「そんなに……あ、そうだ!そういえばたしかこの辺りに……」
言いながら珠喜は、俺に背中を向けて備え付けの家具の
引き出しを漁り出す。
……今俺の目に写っているのは、薄い肌着のような倭服で
包まれた、尻。
「…………」
「う~ん……どこだったかなぁ……ここに仕舞っておいたはずなんだけれど」
……やばい、触りたい。
こう、男女関係なくこの尻触ってみたい。
思い立ったが即行動、と俺はフリフリと誘ってんのかとでもいうような
珠喜の尻に盗賊としての技術を駆使し、音も立てず近づく。
そして
「う~ん……っうひゃあぁぁ?!な、なに?なに?!」
むにり。
うをを?!やわらけぇ?!なんだこの尻!!
アリスの安産型の尻とは違う、一見小ぶりだけど吸い付くような
この感触?!
「あ、やっ……っ?!ちょ、ちょっとクロスケさ、ふあぁ?!
そ、んな……もま、揉まないでくださいっ……んぅ?!」
あ、だめだこれ。
これは止められん、病みつきになるはコレ。
おっぱいマイスターであり、尻マニアである俺が言うのだから間違いない。
ああ……理想郷はここにあったんだ……
「うあぁっ?!ちょ、クロスケさんっ?!そん、な……ひぅっ?!
手、手を?!着物の裾から手を入れないでっ?!
あ、やぁっ?!うそ、直接?!うあ、ダメ、ダメですって?!
っく、ぅあ……っ?!ボク、ぼく……っ!!!!」
「いやぁ、いい尻してたぜ、アンタ?自信もっていいぞ?」
「ううぅぅ……なんて事するんですかクロスケさんっ!!
無防備な相手のお……おしりをあんなに触るだなんてっ!!」
「触る?違うな……揉んだんだ!!」
「おっしゃってる意味がわかりません!!
そんな自慢げな顔しないでください!胸を張らないで下さい!!」
「だって、目の前で誘うようにフリフリしてる尻があるんだぞ?!
そこで揉まなかったら尻神様に失礼だろ?!」
「うそっ?!ボク被害者なのにキレられた?!
……うぅ、それにしても女の子のおしりをあんなに
揉むとか、犯罪ですよクロスケさん……」
「……え?珠喜……お前、女なの、か?」
「……は?どういうことですか?」
「え?いやだってアンタ、おっぱいないじゃん?」
「この人、ボクが気にしてることを……っ!!」
「いやぁ、男だと思ってたから尻くらい揉んでも冗談で済むかなって」
「……その割には、途中から随分熱のこもった指使いでしたが……?」
「いや、なんかさ……正直途中から"男にも、穴はあるんだよな……"
みたいな気分でした」
そういった途端、珠喜は自分の尻を隠すように抑え
俺から距離をとる。
「く、クロスケさんっ?!じょ、冗談ですよね?」
「……くっくっく、俺も男だ……おっぱいがないとはいえ
これだけの美少女の尻を前に賢者でいられるほどできちゃいねぇ」
むろん、何もするつもりはないが。
けどこの初々しい反応!!いいな!!
……最近アリスってば慣れすぎて、こっちの要望全部飲むもんなぁ。
っていうかアイツのアレは懐が広すぎる。
「ふへへへへ!さぁ、覚悟しろぉぉ!!」
プツン。
なんか、どこかで何かが切れる音がした……あれ?
「い、いやああぁぁぁ?!」
メコリっ
ガードするまもなく横っ面に良いモノをもらった俺は
閉じられていた戸(襖、というらしい)を突き破り、外の
庭に叩きつけられても勢いは止まらず、生えていた大木にぶつかり
意識が薄れていく中
「……ぐふぅっ、いいパンチ、もってんじゃねぇか」
とだけつぶやき、そのまま暗転した。




