012
012-1
「なんでテメェがその事を知ってるんだ?」
ホール内に響いた、若い男の声。
この声は、わたしが聞きたかった声。
「な、あ・・・え?だ、誰だ?!」
司祭だけでなく、他の人達も声の出処を探す。
・・・わたしは、なんとなくだけど壇上の方を見た。
「・・・王、様・・・?」
壇上では、王様が俯き顔を隠している。
・・・まさか・・・
「なぁ、公爵は王家にも隠し通してきたんだぜ?
・・・それを、アリスの体に浮かんだアザの事まで、どうしてテメェは
知ることが出来たんだ?」
皆、声の出処が王様だと知るや、一斉に視線が集中する。
同時に、上げたその顔は・・・ものすごく、悪どかった。
さて、そろそろネタばらしといくか。
いい加減、この喋り方も演技も面倒くさくなってきたしな。
俺は、指を軽快にパチンっ、と鳴らす。
その仕草を、今使っている擬態魔導の解除キーに設定しておいたので
一瞬だけ周囲がぼやけ、次には自身の素顔を晒す。
「なぁ・・っ?!き、きさ、貴様は誰だ!!陛下は、陛下はどこへ?!」
「ああ、あのジイさんなら今頃そこら辺の飲み屋で、綺麗どころの
ネェちゃんとよろしくやってるんじゃないか?」
そこそこいい場所も教えてやったし、と答える。
「そういう事ではない!!ええい、そこの騎士よ、その無礼な輩を斬れ!
斬ってしまえ!!」
司祭がそう言うので、隣のイケメンな兄ちゃんに視線で
『ああ言ってるけどどうすんの?』と尋ねてみる。
「・・・申し訳ございませんが司祭殿、護皇騎士への命令権は
陛下と、后様のみに御座います。
っていうか馴れ馴れしく命令するな、斬るぞ」
「だ、そうで。
それじゃあ、質問の続きと行こうか?
・・・いや、折角こんな場所にいるんだ、改めて始めようか。
司祭さんよ、テメェに対する査問会とやら、開廷だ」
よりによって、王様に化けてここに入るなんて、普通思いつきもしないわよ。
・・・でも、間違いない、ホンモノのクロスケだ・・・っ
今すぐにでも傍に寄って抱きしめたい衝動に駆られるけどぐっと我慢する。
・・・わたし、自惚れてもいいよね?
こんな危険を冒してまで来てくれたのは、わたしの為なんだよね、クロスケ?
その本人は司祭や大臣、他の貴族からの追求をのらりくらりと躱し
手玉にとって、言い包め、言い負かし、黙らせる。
やってる本人が自信有りげだから勘違いしちゃいそうになるけど。
よぉくその発言を聞いてるとしっちゃかめっちゃかな事しか言ってないしやってない。
けれども、相手はその雰囲気と話術に騙され言葉を失う。
・・・ああいうのってなんて言うんだっけ?
「ペテン師、だな」
「お父様・・・?ってこちらに降りてきて大丈夫なの?」
「こんな状況だ、皆知らないうちに、クロスケ君に乗せられてそちらに意識が
行ってしまっている・・・しかし、まさかこのような手があるとは」
むしろ、どうやって王宮に忍び込み、陛下と接触を図ったのだと
お父様が悩む・・・お父様、クロスケに関してはあまり深く
考えないほうがいいかもしれない。
012-2
「で、いい加減答えてくれませんかねぇぇ?司祭さまー?」
「き、貴様のような下賤な輩に答える必要など無い!!」
「よーし、わかった。じゃあ、俺が当ててやるよ
つっても、あんた分り易すぎてひねりもクソもないんだけどな」
もう少し弄ってやってもいいが、あんま引き伸ばしすぎても
読者が付いてこないだろう、いい加減コイツのツラも見飽きたし。
「まず一つ、あんたが誰も知らないような公爵家の事情を知ることが
出来た理由・・・あんた、一般的に使用が禁止されている
遠視か、透視の魔導それに類似する方法を使っただろ?
・・・知ってるか?他人の情報を覗き見するのは犯罪だぜ?」
「っ・・・な、なんの事かな?私は創造主に使える身、
そのようなはしたない真似などするわけが・・・」
「あんたが管理している教会の関係者から、
『司祭様が来られた日から、毎夜身を清めていると視線を
感じるのです、何か良からぬ存在が』みたいな話を
聞いたんだけどねぇ」
「は、ははは・・・き、気のせいではないかな?
彼女たちは修行の身、思わぬ雑念が入る事も・・・」
「あ、ちなみに今の話、修行僧の兄ちゃんが教えてくれたんだわ。
・・・シスターなんて一言もいってないよな、俺?」
「ぎっ・・・く、ふ、ふん・・・私は、日々彼らが修行を怠けぬよう
管理する義務があるのだ」
「覗き見してたって認めるんだな?司祭さまったらやらしいねぇ?
んで、司祭さん、あんた・・・まだ修行中の時に公爵と
トラブルを起こしてるよな?」
「・・・それは、私と公爵とで価値観の違いによるものだ。
人同士ではそういったトラブルはつきものだと思いますが?」
「ふむふむ、それであんたはそのトラブルを引きずって、
いつか仕返ししてやろうと、公爵家を覗き見て、アリスの裸も覗いたと」
俺の発言ひとつひとつで、司祭の腹が煮えくり返ってるのがわかる。
こいつ、いままでここまで馬鹿にされたことはないんだろうな。
「・・・私は、創造主の代弁者であると同時に、王家に尽くす忠臣でも
あるのです。
その王家に仇を為す者がいるかもしれないとなると、その相手を監視
するのは当然ではありませんか?」
「をを~、すごいすごい。
創造主さまの代弁者とやらはいうことが違いますなぁ?
・・・そこまですごいんなら、そりゃ地方領主の一つや二つを
正当な理由もなしに潰せるわけだ、はははっ」
ぱちぱちぱち、と軽く拍手を入れながら指摘する。
すると、司祭の顔が明らかに強張り親の敵と言わないばかりに
俺を睨んでくる・・・おー、おっかねぇ。
「な、な・・・何を言っているのでしょうか貴方は?
わたしが、そのような悪辣な真似をするとでも?」
「しただろ?そこにいるやけに恰幅のいい、禿げた大臣とつるんでよ。
あの地方、一領主に任せるには勿体無いほどの金鉱があったもんなぁ」
なぜ、貴様が、どうして、と司祭はブツブツと呟く。
ちらりと横を見ると、禿げた大臣はしきりに汗を拭いながら
ちがう、こんなのはでたらめだと他の貴族の追求の視線から逃れようと
必死だ。
「し、証拠はあるのか貴様!!ただの憶測にすぎないぞこれは!!
貴様、覚悟はできているのだろうな、死罪だ!誰か、この下賤な
輩を捕らえよ!!早く!!」
司祭は取り繕うことも忘れ、怒鳴り散らす・・・けれど、誰も動かない。
俺や、アリス達以外の人間は皆困惑しているのだ。
どちらが正しいのか、どちらに付けば自分の損害は少なくて済むのか。
「そ、そうだ!あの領主は呪いにかかり、一家すべてに不幸が降りかかったと
聞いたぞ!!ふはっ、そうだ、そこの小娘が、魔種が嫁ぐと決まってから
災いを招いたときいた!!わた、私は関係ないぞ!!!」
あ、そう持って行くんだ。ってかもうちょっと考えようぜ?
ほら、アリスも公爵さんも苦笑いじゃないか。
「違うだろ、司祭さんよぉ・・・あんたは、怪しまれないように時間をかけて
少人数ずつ始末しろって言ったはずだぜ?」
「んな!な、なん、なんでっ?!」
「なんでそんなことをお前が知っているのかって、白状しちゃ駄目じゃねぇか。
・・・自分が依頼した相手の顔ぐらい、覚えてようぜ?」
クロスケの言葉に、わたしもまた混乱する。
え、どういうことなの?
わたしが嫁ぐ予定だった領主の一族を、クロスケが・・・ころしたの?
だから、わたしはクロスケと会えた・・・?
「落ち着きなさい、キュアリス。
・・・クロスケ君を信じなさい、しかし彼の言葉を鵜呑みにしては駄目だ」
「あ、お父様・・・う、うん、ありがとう・・・
・・・大丈夫、よね?わたし、クロスケを信じていてもいいんだよね?」
「・・・キュアリス、お前はクロスケ君の元へ行くのだろう?
彼は・・・盗賊だ。
それも、とびきり性格の悪い、な・・・いまからこうだと
苦労するぞ?」
お父様に撫でられ、わたしは落ち着きを取り戻す。
・・・うん、大丈夫。
お父様の言うとおり、クロスケの言葉のすべてを鵜呑みにしちゃ駄目なんだ。
少なくとも、ああして盗賊としての顔をのぞかせてる時のクロスケは。
「い、依頼だと?ふ、ふん!貴様になど、会ったことはない!!
勘違いではないかな?き、貴様のような下衆に何を頼むと言うのか・・・」
「一人につき金貨3枚、方法、場所は問わず。
期間は自分が王都に着任してから、公爵家からの輿入れの集団が都市に入るまで
の間・・・あの時、報酬を踏み倒されちゃかなわねぇから
証文も書かせたよな?ん?
・・・なんだったら、テメェが自筆で書いたサインを読み上げてやろうか?」
懐から、たたまれた羊皮紙を取り出し、司祭の前でひらひらと振ってやる。
咄嗟に、相手は手を伸ばし奪いとろうとするがそうはさせない。
「おっと、どうしたよ?なんだ、これが気になんのか?
でも、司祭さんとは関係ないんだろう?」
「き、狂言だ!バカバカしい!!馬鹿馬鹿しいが、そのような文章が出まわるのは
偽造された物でも私の評価に影響を与えるのだ!!!
今なら許してやる、その紙をよこせぇぇぇ!!」
「いいぜ、ほらよ」
寄越せというので、渡してやった。
司祭は、は?といったような顔をするが、羊皮紙を受け取ったかと思えば
力任せに引き裂き、踏みつけ、踏みにじり、火の魔導で灰にする。
「あ~あ、ひどいねぇ司祭さんよ・・・大切な契約書なのになぁ?」
「ふは、ふはははは!!何の事かな?んん?
君とは一度も会ったことなどないし、何も頼んだ覚えもない!!
さあ、警備兵よ!!今すぐの者を捕らえよ、今すぐに!!」
「・・・ま、これで契約も解除って事でいいんだな?
んじゃ、俺が依頼された内容・・・何一つ達成してなかったのもお咎めなしって事で」
俺は、傍聴席に座っている人物に手を振って合図する。
その人物は、コクリと頷くと立ち上がり、壇上近くまで歩いてくる。
「・・・初めまして、いや・・・お久しぶりでしょうか、司祭殿?」
「ふははは、は、ん?誰ですか、あなた、は・・・・ぁぁあっ?!」
その人物は、被っていた帽子を取ると、品の良い一礼を見せる。
「はい、司祭殿と大臣殿に嵌められ、領主としての位と職を奪われたものです」
012-3
まずい!!なぜだ、なぜこのような事になっている!!
わたしの計画は完璧だったはずだ!!
第三者を雇い、大臣とも共謀して安全を確保し、自らの手を汚さずとも
栄光を手にし、私は創造主の代弁者として約束された未来を歩むはずなのだ!!
「な、、で・・・なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんだよぉおお!!
なんでお前ら私の邪魔をするんだよぉぉぉぉ!!
私の邪魔をするな、私の道を閉ざすな、私の栄光に泥を塗るな、
私の未来を奪うな、私の、私の偉大さを虚仮にするなぁぁぁ!!!」
気に食わない、なんだこれは。
なぜ私が、ここまで追い詰められねばならない。
私は王都直轄の、教会を預かる司祭だぞ?
なぜ、私の思う通りに動かないのだ!!
「貴様ぁぁああ!なぜ!!領主を始末してない!!私は命じたぞ!!
確実に始末しろと!!それを、なぜだ!!」
「ん?ああ、その方がテメェから金ふんだくれそうだったからな」
・・・は?か、金だと?
こいつ、そんな事のためだけに私の思い通りに動かないとでも?
「そういえば、あの時は屋敷に真正面から来たかと思えば
クロスケ殿の第一声が『暗殺にきました』でしたね。
その時点で、もう?」
「ああ、だってわざわざ身分隠して、盗賊ギルドを通して依頼してきたんだぞ?
どう考えたってワケありだし、弱み握ったらいくらでも引っ張れそうじゃないか」
「く、クロスケ・・・その発言はわたしでもその・・・引く・・・」
「おや、これは公爵家のお嬢様ではありませんか、お久しぶりです。
・・・そういえば、こうしてお会いするのは公爵様とお忍びでの旅行の
とき以来ですね」
「あ、はい・・・あの、そういえばわたし、元々は貴方のところに・・・」
「ああ、そういえばそういう話になっていたのですね?
実はその話、先ほどここに連れて来られた時に初めて、クロスケ殿に
聞いたのですよ」
「そうだったんですね・・・あの、改めていうことでもないのですが、その・・・」
「ええ、わかっていますよ・・・クロスケ殿と恋仲なのでしょう?
それに、先ほどの貴女の演説・・・深く心に染み渡りました。
あの言葉を聞いて、私もまた、誇れる恋愛をしたい物です・・・男色家として!」
「き、貴様らぁぁぁ!!私を虚仮にするぬぁああああああ!!」
こいつらは許されるべきではない。
私を、この私をここまで舐めくさった真似をしでかしてくれたのだ。
これは許されるべきではない。
なりふりかまっては居れぬ。
ここでこいつらを野放しにしたら、私はどうにかなってしまう。
そうだ、大臣に私兵を使わせよう。
こいつらを私兵で取り囲み、連れて行けばいいではないか。
大臣に呼びかけようと顔を上げた私の首筋に、触れる冷たいナニカ。
思わずそこに触れ、ヌルリとした感触。
手についたソレは、赤く、紅く、朱かった。
「っひ、ぃ?!」
「そういや、司祭さんよ・・・アリスに色々としてくれたそうじゃねぇか?」




