対決②
暗くて周りの様子は窺えないが、まだ誰も来ていないようだ。
それが分かって私はホッと息を吐いた。
隠れてからどれくらい経っただろうか?隠れた所から時計が見えないので時間を知る事が出来ない。
こんな事なら見える場所に隠れればと、今になって後悔する。
「ハァ…誰でもいいから見つけてよ…」
「いや、誰でも良くないでしょ。桃花か姉じゃないと」
「その声…瑞希?」
「あんまり声出さないようにしなよ。見つかっても知らないよ」
「じゃあなんで話しかけるの?」
「……けど、良い所に隠れたね」
話を逸らされたとも思ったが、そこはスルーする事にした。
私が隠れたのは科学部の部室だ。もちろん鍵を借りて入った。
開いているロッカーがあったので拝借させてもらっている。
「ここから時計見えないんだけどね…今、何時?」
「開始から5分?だと思う」
「まだ5分?ハァ…誰か見つけてくれないかなー?」
溜息混じりに私が言うと瑞希が、私から見える位置で手を上げていた。
私は苦笑いを浮かべる。
「いやいや、瑞希でなくて。美雪先生と桃花のどっちかの事!自分でさっき言ってたじゃん」
「まあ、頑張りたまえよ。長引きそうなので帰る」
「言うだけ言って帰んの!?ちょっと、瑞希にも責任あるんだよ?」
「さて、何の事でしょう」
「5分前の事なんだから思い出してくれないかな!」
「うそうそ、ここに私がいたら自ずとバレそうなので一旦戻るだけ」
「ああ、そういう事」
「じゃあ」
言葉通り、瑞希は部室を出て教室の方へと歩いて行った。
まさか戻るだけと見せかけて鞄持って帰るのでは?
信用していない訳ではないのだが、瑞希はマイペースというか自分の気持ちに正直なのでやりかねないと思った。
再び部室内に静寂が訪れる。
人一人、話し相手がいないだけでここまで静かとは…。
しかし、その静寂も長くは続かなかった。
大袈裟だが、もうこのまま誰にも見つからず一日が終わってしまうのではと油断していた時だ。
部室のドアが開けられ、誰かが周りのどこにも目もくれず私が入っているロッカーに歩いて来た。
あっと言う間もなくロッカーが開けられる。
「見…つけた!!」
息を弾ませ、髪も半ば乱れている。
どれだけ必死に探したのだろう。
ちょっと申し訳なく感じてしまった。
「えっと…大丈夫?」
「気にしないで…!」
「って…言われても…」
まあ心の中でだけ気にしていようと思い、口をつぐむ。
ここである事を思い返した。
何故、何の迷いもなく私の入っていたロッカーに来たのだろう?
その答えはすぐに分かった。
瑞希が悪びれもなく部室に来たのだ。
「教えたでしょ…いいの?そんな事して」
「教えてないよ。ロッカーってヒントだけ二人に教えたけど」
「それで分かったの?」
目を丸くして私は桃花を見た。
ロッカーと言っても何箇所に何個もある。
そのヒントを貰ったからと言ってすぐには分からないはずだ。
「うん。職員室に行って貸し出されている鍵を教えて貰ったの」
「ああ、なるほどね」
それならば一気にロッカーの場所は絞られてくる。
「けど、私の所に何の迷いもなく来たよね?どうして?」
「最近使われた痕跡の無さそうな物を予想して。外れていたら端から一つずつ開けようと思ってたの」
「おおぅ…」
それは中々のホラーだ。
心臓に悪そうな状況にならずに済んでホッと胸を撫で下ろす。
「それでもダメなら手当たり次第、片っ端から」
桃花はニッコリと素敵な笑顔でとんでもない事を言った。
そこまでするのか…全てのロッカー開けられなくて良かったー!!
「姉に知らせて来るよ」
「あっ待って。なら私も付いてく」
「そう?じゃあ桃花もおいで」
「うん」
私達は部室の鍵を閉めてから三人で美雪先生の元へと行く事になった。
行く途中で私は部室の鍵を職員室に返す。
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美雪先生が見つかったのは食堂だった。
悟っていたのか椅子に座って待っていた。
そういう勘だけは鋭いらしい。
「桃花…」
「何?」
私は立ち止まって桃花を呼び止めた。
桃花は薄桃色の髪をなびかせながら振り向いた。
拳を握り、意を決して私は言った。
「勝った時の……あれ、止めにしない?」
「なっ何言ってるの!?」
少し大きめの瞳をより一層見開き、信じられないといった表情で桃花は私を見た。
「だって、龍が一方的に好意を寄せているってだけで美雪先生相手にもしてないじゃん」
「うっ…それは…」
「見てて可哀想なほどだよね」
隣で瑞希が私の言葉に同意した。
言葉を詰まらせたまま桃花は口を噤んでいる。
自分から言ったとはいえ、相手にされてない龍…可哀想だな…。
私も若干同情する。
「わ…分かった。龍の可哀想さに免じて今回はなしにする…」
「龍にとっては不本意だろうね」
更に私は同情する。
本人がいない所で可哀想と言われているのが更にまた…。
「もちろん、姉さんの言ったのも無効になるから」
「そう」
「?あんまり気にしてないみたいだね」
「ええ、だって…」
美雪先生の視線が桃花に向けられた。
気づいているのに気がついていないフリをしているのか桃花は顔を逸らしていた。
「だって、楽しかったもの」
満面の笑みを浮かべて美雪先生は言った。
明らさまに桃花はばつの悪そうな顔をした。
こんな事を笑顔で言われてしまってはそうなってしまうのも分かる。
「さーて…」
この場の雰囲気を変えようとしたのか瑞希が伸びをして言った。
「もう一回やる?」
「「やらない!!」」
この美雪先生と桃花のハモリには、つい私は吹き出してしまった。
対決...and