対決①
場所は食堂。
そこで私と瑞希は食事を取っていた。
私達の前の席には、顰め面の桃花と裕が座っていた。
隣のテーブルで向かい合わせに座り、美雪先生と龍が話をしながら食事をしていた。
ちなみに言わずもがな、桃花の顰め面の理由はコレである。
「桃花…ずっと睨んでるね」
瑞希にだけ聞こえるように小声で私は言った。続けて私は言った。
「それにしてもここまで睨まれてて気づかないもんなんだね、人って」
「二人が鈍いだけだよ…大体、顔をこっちに向けもしないから…」
溜息まじりにそう言って瑞希は食事を続ける。
私が食べてるのはスパゲッティー、瑞希はハンバーグ定食。
「はーなーれーろー…」
「瑞希…桃花が怖い…」
「誰かが言ってた…女の嫉妬ほど怖い物はない…って」
そう言って瑞希はハンバーグを頬張る。
それを見て、私はハムスターを連想した。
「何なの!あれ…デレデレしちゃって!」
「桃花も松宮といる時、同じ感じだけど…」
「ちょっと瑞希は黙っていようか?」
瑞希を黙らせたところで、私は美雪先生と龍に視線を移した。
あれ?そういえば澪は?と思ってジーッと見てみると……。
「あ……」
「ん?」
私の声を聞いて私の顔を見てから瑞希も同じ方向を見る。
そこには居づらそうにして体を竦める澪の姿があった。
「澪……余ったんだ…」
私は呟くように言った。
ここのテーブルは四人用の大きさだった。
それが何個か隙間なく並んで置かれている。
余っている両端に椅子を置く…と言う事も出来なくはないけれど生憎、私達の座っている席のテーブルは真ん中なので、それは出来なかった。
「可哀想」
「瑞希、思ってても言わないであげて!」
もう…ホント事実なんで…あっなんか涙出てきた。
出てきた涙を拭っていると、ついに桃花が立ち上がった。
しかも、かなり美雪先生を睨みながら……。
「……見なかった事にしよう。ごちそうさまでした」
「まさかの見て見ぬフリ!?」
そうこうしている間にも桃花は美雪先生に迫っていき、瑞希は食堂を出て行こうとする。
そうだ!裕がいるじゃない!
って事で…
「裕、助け…って居ない……居ない!?」
確かにさっきから一度も喋ってなかったけども!
じ…自由過ぎる……。
私が肩を落としていると、桃花が先生の前まで行き、テーブルを力強く叩く。
「おおっ!修羅場!?」
「なんでテンション上がってんの!?さっきまで見なかった事にしよう、とか言ってたのに!」
「それはそれ、これはこれ」
そう言って、瑞希はまた目を輝かせながら三人の様子を見守っていた。
ふと、澪もいたんだっけ?と思い出してテーブルの隅の方へと視線を逸らす。
あっ、まだいるけど………目が死んでる…。
「……大丈夫かな?」
「え?クロ?今はどうでもいい」
「冷たい!瑞希冷たいよ!」
「じゃあ熱湯でもかければ?」
「態度が冷たいの!!っていうか、かけたら火傷するんだからね!?」
そうしている間にも、桃花達の会話は進んでいた。桃花は美雪先生の前に仁王立ちする。
「勝負してくれます?美雪先生」
「勝負?」
美雪先生がキョトンとして首を傾げながら桃花に聞き返す。
桃花はゆっくりと頷いた。
「勝負内容は瑞希に決めてもらいます。私が勝ったら、その……」
隣に龍がいるものだから、とても言いにくそう…。
それでも意を決したように桃花は美雪先生を見据える。
「あんまり、龍と一緒にいないでください」
「何言「分かった。じゃあ私が勝ったら何かご馳走してね」
「美雪先生!?」
龍の言葉を遮って言った美雪先生の言葉に、龍は驚いた表情をする。
関係ないけれど、私の隣で瑞希が“ご馳走”と言う言葉に反応していた。
「じゃあ、今日の放課後に!!」
そう言い放つと、桃花は脇目も振らず食堂を飛び出して行った。
残された私達は唖然として桃花の後ろ姿を黙って見つめていた。
それから少しして瑞希が口を開く。
「なんか勝手に勝負内容、私が決める事に……」
「…あんまり勝敗決めにくいのにしないでね?」
「ほら、由梨は決めないから……」
「私も考えるよ!?だから遠い目しないで!」
それから私達はしばらく食堂に留まっていたけれど良いアイディアは浮かばなかった。
チャイムが鳴り、一旦勝負を考えるのは中断になった。
放課後。
再び試行錯誤を繰り返していたのだが…。
「全く…自分で考えればいいものを」
「まあまあ、今は考えようよ?」
頬杖をつき、顔を顰めながら瑞希が不満を零したので私は苦笑する。
顰め面をした瑞希の顔を眺めながら私は言った。
「でも、まさか対決なんてね」
「それよりも姉が対決をするって決めた事に驚いた」
驚いてたのか…表情あんまり変わってなかったから分からなかった…。
とりあえず私は思いついた事を提案する事にした。
「んー…かくれんぼとか?隠れた一人を先に見つけた方が勝ち」
「由梨にしては良いアイディア」
「あ…ありがとう?」
褒めているんだか、いないんだか…。
複雑な気持ちで顔が引き攣る。
そんな私に気づかないようで瑞希は席を立った。
大方、桃花に勝負内容を知らせに行くのだろう。
教室を出て、廊下をしばらく歩き続ける。
ふと、瑞希が思いついたように聞いて来た。
「それで…桃花がどこにいるか知ってる?」
「………」
「知らないんだ…」
呆れたように瑞希は溜息交じりに言った。
何故私が呆れられているのだろう…。
先に探し出したの瑞希なのに。
「ごめん…」
そして何故私は謝っているのだろう。
成り行きという奴なのだろうか?
「仕方がないのでその辺の人に聞く事にしよう!」
何故か少し声を大きくして瑞希は言った。
それから曲がり角を曲がる…と同時に瑞希は話しかけた。
「って事で、桃花知らない?」
(誰に?え…壁?空気?)
…なんて考えているうちに瑞希は話を続ける。
「クロなら分かると思ったんだけど」
「俺に聞くな、知らん」
「えっ!?澪、いたの?」
慌てて私も瑞希を追いかけて曲がり角を曲がる。
そこには澪の肩に手を置く瑞希とうんざりした顔の澪がいた。
瑞希が話しかけていたのは、なるほど澪だったのか。
「うーん…本当に知らないみたいだね」
そう言って瑞希は澪の肩から手を離した。
そういえば、接触感応能力だっけ…。
と、ここである事に気づく。
(思い返せば、それ使ったんなら別に聞かなくても良かったのでは……)
「一人より二人、二人より三人って事でよろしく」
「よろしくって…まさか俺も探すのか?」
「さーて、どこにいるかなー?」
「人の話を聞け!」
……………。
「あっ桃花!」
桃花を見つけたのは食堂だった。
まさか、またここにいるとは思わなかったので後回しにしていたのだけれど…。
「居たね…」
「……うん…」
瑞希の責めるような視線から逃れようと私は顔を逸らしながら桃花に手を振り続けた。
「勝負内容決まった?」
「それを言おうと思って。私達の誰か一人が隠れるから、先にその一人を見つけた方が勝ち」
「なるほど…それで誰が隠れてるの?」
「ああ、誰がいいんだろう?」
腕を組んで私が唸っていると、ふと視線を感じた。
周りを見回すと三人が私をじっと見つめている。
「え…何?」
「由梨…」
私の名前を呼び、瑞希は私の肩に手を置いた。
そして俯かせていた顔を上げて私を見て言った。
「隠れようか」
「…………私が!?なんで?」
「いざって時、瞬間移動で逃げられる」
「いや、かくれんぼなんだから逃げちゃダメだろ」
瑞希の横で澪が呆れながら言った。
私は隣にいる桃花に目を向けた。
「お願い!」
桃花に頭を下げて言われてしまっては仕方がない。
「分かった……」
私は渋々、了承したのだった。