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いない人①

ポカポカと暖かい光が窓から差し込んでいる。

そして私は机に突っ伏している、そしてこの一言。


「暇ー…」


そう…とにかくやる事がなくて暇なのです。

隣に座っている瑞希はまた文庫本を読んでいて、一言を発した私をチラッと見ただけでまたすぐ読み始める。

でも私は暇なので…。


「暇ー…」


「私にどうしろと…」


溜息を吐いて文庫本を閉じながら瑞希が言った。


「別にー?ただ暇過ぎて暇過ぎて…」


「本でも読めば?」


「そんなの一分でリタイアだよ!」


私は勢いよく体を起こしてから、またフニャフニャと机に突っ伏す。


「じゃあクロの所でも行けば?」


「へ?!なっなんでそこで澪の話に!」


「だって私じゃどうしようもないし…」


そう言って溜息を吐いた後に瑞希が窓を見ると、目を見開いて驚いていた。

首を傾げながら私も窓へと目を向ける。


「………」


「何してるの!?」


瑞希は窓の外を無言で見つめて、私はつい声を出してしまった。

隣にいる瑞希は溜息を吐いて頭を抱え始めた。


「えーと…まずアレは何?」


窓の外の物を指差して瑞希が言った。


「鳥……だね」


「…そんなの分かってるよ。じゃなくて鳥ってあんなに、でかかった?」


鳥のすぐ近くには美雪先生と龍がいた。

どうせ、龍は美雪先生について行っていたのだろう。

そんな二人の身長の倍以上の大きさの鳥が二人の目の前にいた。


「どう見ても突然変異の鳥だよ…ね?」


「あっ二人がやっと逃げ出した」


今まで呆然と立ち尽くしていた二人を指差して瑞希が言った。

それから瑞希が立ち上がって廊下へ出ようとするのを私が止める。


「ちょっと待って!どうしたの?」


「そんなの助けるに決まってる」


振り向いて瑞希は当然の事のように言った。


「で…でも…あんなに大きな鳥じゃ…」


私が弱気に言うと瑞希は溜息を吐いて言った。


「危なくなったら瞬間移動で何とかすればいい」


「そうだけど…でも!」


グズグスしている私の腕を引っ張って、瑞希は廊下へと出た。

それから階段を下りて、庭へと向かう。

当たり前と言うかなんと言うか…やっぱり鳥はでか過ぎでした。


「イヤーーーーー!!」


一目散に逃げ出す私と…


「アレ?なんで由梨ちゃんいるの?」


こんな時でも私がいる事に疑問を持って考え始める美雪先生と…


「そんな事言ってる場合かーー!」


ツッコミつつ全力で逃げる龍。


「おすわり」


そして何故か芸を教え始めた瑞希。


「なんで芸なんか教えてるのさ!!」


「出来るかなー?と…」


「かなー?って!出来る訳ないでしょ!」


瑞希の元まで戻り、今度は私が瑞希の腕を引っ張って走り出す。

当然、鳥も追いかけて来るし!

なんで最近逃げてばっか!?

ゴーレムと言い、この鳥と言い!

確かに暇はイヤだけど…なんだこれ!


「今ではもう…暇が懐かしく感じるよ……」


「遠い目をしても何も解決しないから」


そう言ってから腕を振り払い自分で走る瑞希。


「アレ?なんで瑞希いるの?」


私にしたのと同じ質問をする美雪先生。


「今はそんな事どうでもいいだろーー!」


こんな状況なので美雪先生に対しても切れ始める龍。


「こんな時…澪がいれば…」


「それだ!」


何気なく呟いた私の一言で瑞希が何か思いついたらしい。


「ここにクロを瞬間移動させて…結界を張ってもらえば何分かは持つよ」


「でも私…澪のいる場所分からないんだけど?」


「教室!廊下を歩いてて、教室にいるの見たから!」


「何組?」


「………」


無言のままスピードを上げて、瑞希は走り去った。


「ちょっとーーー!?もしかして知らなかったの!?」


「じゃあ俺が飛んで何組にいるか見てくる」


「そのまま戻って来ないって事はないよね?」


「………」


目を泳がせてからスピードを上げて、龍は走り去った。


「図星!?」


「全く…二人共ダメねー?やっぱりここは教師である私が見てこないと!」


「行ったはいいけど何を言おうとしたか必死過ぎて忘れたとか…ないですよね?」


「……あるかも……」


そう呟いて美雪先生までもがスピードを上げて走り去った。


「私の周りにろくな人いない訳!?」


「いるだろ?ここに」


「え?」


隣から声がして、私はそちらへと顔を向けた。

そこにはいるはずのない澪の姿。


「……幻?」


「な訳ないだろ。外でこれだけ騒いでれば気づく」


「だよねー」


澪は溜息を吐いてやれやれと首を左右に振る。


「どうする気だ?あの鳥」


「どうするって……瑞希ー!どうするのー!」


私の前を走る瑞希に向かって私は叫んだ。

するとペースを落として瑞希が私の隣へと来る。

なんか澪と瑞希の二人に挟まれてるって変な感じ…。


「近寄った時、鳥の足に何かあるのを見つけた。たぶん、誰かに飼われてる鳥なのかも」


「えっ!ただ芸を教えようとしてただけなのかと思ってた……」


「蘇芳…お前そんな事してたのか?」


「今はそんな事言ってる場合じゃないと思うけど…」


そう言って瑞希は振り返った。

確かに…今はそんな事言ってる場合じゃない…。


「あのさー?飼われてる鳥だとしたら人に慣れてる訳じゃない?逃げなくていいんじゃないの?」


美雪先生のこの一言で私達全員の足が止まる。


「「「「確かに…」」」」


「でしょ?」


何故か誇らしげな美雪先生。

そしてそんな私達を見て足を止め、首を傾げる鳥。


「ピィ?」


「可愛い!!」


その首を傾げる仕草に私はつい言った。

よく見るとオレンジ色をした羽に黒目のビー玉のようにキラキラ光る瞳。

サイズが違うだけで普通の鳥とそんなに変わりはなかった。


「可愛い!!」


「それもう二度目だよ、由梨」


「だって可愛いものは可愛い」


そうだねと美雪先生が頷いて、それを見て龍も頷く。

可愛い鳥は顔を澪に近づけて頬ずりをしていた。

途端に私の中でその鳥が敵となった。


「可愛くない…」


「ヤキモチ妬かない、鳥なんだから」


瑞希に窘められ、私は顔を背けた。


「貴方どこの子?」


「姉さん、鳥だから。喋れないから」


「ピィ!」


鳥は美雪先生の問いに答えるように片足を出した。

そこには

【名前・ピィちゃん】


「そのまんまか」


冷たい眼差しで澪はその…足輪を見つめた。


「澪、そこはスルーしてあげようよ」


「ん?飼い主の名前も書いてあるみたいだ」


龍が指を差して言った。

【飼い主・中川(なかがわ)桃花(ももか)


「………知ってる人の名前があるんだけど…そう見えるのは私の目がおかしいから?」


目を擦りながら瑞希が私に尋ねる。


「瑞希の目がおかしかったら私の目もおかしいよ。だって知ってるもん」


「「………」」


そして無言になる私達、二人。


「桃花ちゃんって…瑞希と由梨ちゃんの友達でしょ?あの…可愛い子」


美雪先生が必死になって、この状況を理解しようとして言った。

皆それぞれ動揺しているようでしばらくの間、誰も動かなかった。

すると、当の本人である桃花がこちらへとやって来た。


「あれ?ピィちゃん……と皆?」


「もーもーかー?」


「は…はい?」


私の気迫に押されて桃花は後ずさりをする。


「なんで、こんな所にペットがいるのかなー?」


後ずさりする桃花に近づきながら私は聞く。

なるべく、怒りを抑えて。


「え…えと…なんででしょう?」


「そうだねー?なんでだろうねー?飼い主が分からないのに私が分かる訳ないでしょーが!」


「ですよね!すみません!」


突然怒鳴った私に涙目になりながら謝る桃花。

そして切れている私を宥める澪と瑞希。


「落ち着いてよ。何も桃花が悪い訳じゃないんだし…」


宥めるのが苦手な瑞希が言った。


「どう言う事?」


イライラしながらも、私はとりあえず話を聞く事にした。


「桃花が分からないって言ってる…って事はだよ?鳥が桃花に会いに来たと考えるのが妥当じゃないかと」


「言われてみれば……」


「だから桃花も悪くないし、鳥も悪くないんだよ」


なかなか瑞希の言葉には説得力があった。


「言われれば言われる程…その通りだと思う…ごめんね?桃花」


「ううん、いいの」


目を丸くして驚いたように私を見た後、桃花は笑って許してくれた。


「つい怖かったあまり切れちゃった…完全に八つ当たりだったよ……ホントごめん」


もう一度謝った私に桃花は微笑んだ。

それから申し訳無さそうにする。


「こちらこそごめんなさい…知らなかったとは言え、怖い思いさせて……」


「桃花……あっ…ちょっと…なんか涙出てきそうになるんだけど」


「フフッ…」


手を口元に当て、桃花は小さく笑う。

私が涙を堪えていると、桃花がキョロキョロし始めた。


「今日もいないの?」


「ん?ああ、そうみたい…」


桃花と同じように私もキョロキョロと見回した。

私・瑞希・澪・龍・桃花・美雪先生…ここに後一人…いない人がいる。


「どこに行ったのかな…?」


心配そうに桃花が言う。

それを私が元気付けの意味も込めて言った。


「そのうち、素知らぬ顔して来るよ」


「突然いなくなるんだよね、あの人」


隣で瑞希が何の気なしに言った。

なんだか漠然とした気分だけど…まあいいか…と自分で自己完結する。


「ピィ?」


ここにいない彼は瑞希に負けず劣らずマイペースで神出鬼没。

まあ…本人に自覚はないと思うけど…。

私は、そんな彼がいない事に…少しの寂しさを覚えた―――――――……



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