ゲーム
休日の寮内。
共通スペースでは、第一回ゲーム大会が行われていた。
言い出しっぺ、私なんだけどね。
「お…俺が負けただと?」
龍と裕が対決していて今、龍が負けたところだ。
かなり自信があったのか、龍は悔しそうにして項垂れている。
現在、裕が連勝中でゲーム最強伝説が築かれようとしていた。
「裕って、あんなにゲーム強かったんだ」
隣に座って本を読む、ゲームに興味なさそ…いや、ないと断言しても良さそうな瑞希に聞く。
「昔…」
瑞希は何かを思い出すようにして遠い目をしながら昔話を始めた。
『しんじょー外行かないの?』
瑞希、7歳
『新城ね、しんじょーじゃなくて』
裕、7歳
『どうでもいい、なんで遊びに行かないの?』
『だってゲームあるし』
『ふーん…』
『そっちこそ何で外行かないんだよ』
『本を読む事で得られる知識と比べた結果』
『あっそ…』
そこで昔話は終わり、瑞希はまた本に視線を落とした。
とりあえず、言わせてほしい。
………何歳だ!!
「精神年齢何歳だ!!」
叫んだ私の声にビクッとして桃花がこちらを見た。
面倒そうに瑞希もチラッとこちらを見る。
「最初は良いよ?新城が発音出来なくて可愛らしかったよ!」
「照れる」
「真顔ですけど?!問題は、その後だよ、その後。何?本を読む事で得られる…なんとかって!」
「それが?」
眉をしかめて、瑞希が言った。
それから裕を見て聞く。
「なんか、おかしいところあった?」
「さあ?分かりません」
ああ、幼馴染=小さい頃から一緒…。
…つまり、たとえ他の人が感じる違和感があったとしても慣れてしまっていて気づけない!
「いや、明らかにおかしいだろ。7歳で言う事か?」
話を聞いていたらしい澪が会話に入ってきた。
それでも分からない瑞希は首を傾げた。
「とりあえずインドア派でゲームばっかりしていたから新城は強いって事」
「うん、それは分かったよ?ただ年齢不相応だよ!」
「どうでもいいよ…」
眉間に皺を寄せて、うんざりした顔をしてから瑞希は本に没頭し始めた。
私は仕方なく、またゲームをしている裕達の様子を見る事にした。
「強いねー」
感心した様子で桃花が面白そうにゲーム画面を見つめて言った。
それからプレイヤーである裕に視線を移す。
裕が目に見えて緊張しているのが分かった。
その様子に首をかしげていると瑞希に肘で脇腹を突かれた。
「何?」
「やらないの?」
「ゲームの事?うん、今は裕の独走状態だし…龍は絶対に裕に勝つまで譲らないと思うから」
「…じゃあトランプやらない?」
本を閉じた瑞希は何処からかトランプを取り出した。
私は頷いて桃花や澪も誘った。
チラッと裕と龍を見てみれば第八回戦に突入していた。
「ババ抜きする?」
「いいねーそれにしよ!」
私の提案に桃花が頷いて言った。
澪や瑞希は何も言わないので、特になんでもいいのだろう。
こうしてババ抜きは始まった。
それぞれにトランプが配られる。
そして全て配り終え、自分の手札を見た瞬間。
「うっ!」
「どうした?」
「べ、別になんでもない」
澪に聞かれて誤魔化した。
実際は、なんでもなくない。
ババが…自分の手札にあったのだから。
「じゃあ、始めるか」
揃っている自分の手札のペアを全員が捨て終えた頃、澪が言った。
「あっ順番…じゃんけんで決める?」
桃花が私達の顔を見回して聞いて来た。
私、瑞希、澪は同時に頷く。
「分かった、いくよ?じゃーんけーん…」
ぽんっ!と桃花が言ったと同時に全員がそれぞれ手を出した。
「負けた…」
「瑞希…意外とじゃんけん弱いんだ…」
私がそう言うと、おっと…瑞希に睨まれた。
それからまたじゃんけんをして、最終的に決まった順番が…
桃花→私→澪→瑞希。
意外にも桃花はじゃんけんが強かった。
ようやく本題のババ抜きに取り掛かれる。
-数分後-
「……」
「……」
現在、瑞希と澪との一騎打ちとなっている。
一番に抜けたのは桃花、次に私。
まんま、じゃんけんの結果が今のところ勝敗に繋がっているけれど…。
「早く引いてよ」
無言状態が続いていた中、痺れを切らした瑞希が言った。
少し迷いながらも、澪は向かって右のカードを引いた。
「チッ…ほらよ」
どうやらババだったらしく、舌打ちをしてカードを混ぜてから瑞希に差し出す。
様子を窺いながらも瑞希は迷いなく向かって左のカードを引いた。
…を、五回ほど繰り返していた。
なんだろう、このビリ争いは?
「さっきから何やってんだよ」
ゲームを中断して龍が二人の様子を覗き込むように見ながら、聞いた来た。
「最下位決定戦?全然勝負、つかないんだよね」
「んで?次、どっちが引くんだよ」
「瑞希だよ」
私は答えてから瑞希達に視線を戻した。
瑞希が相手の様子を窺いながらカードを引いた。
「あ…」
「や…やった…勝った…!」
バッと勢いよく立ち上がって、瑞希がこちらを見た。
瑞希には珍しく興奮気味に勝った事を喜んでいた。
「見た?私、勝った!」
「うん、見た見た!すごいよ!」
私の下に来た興奮気味の瑞希を宥めながら、私は言った。
ビリから二番目だけど。
瑞希がとても嬉しそうなので、わざわざ水を差すような事を言わなくても良いだろう。
「しん…」
何かを言おうとして何故か言葉を切り、一点を見つめたまま瑞希は固まった。
今…たぶんだけれど裕を呼ぼうとした?
(あ…そっか…)
瑞希の視線を辿り見て、私は納得した。
桃花だ、裕が桃花を見つめているからだ。
桃花は別の事に気を取られているのか気づいていない。
「それにしても…弱っ」
何事もなかったかのように澪の方を見て、瑞希がふてぶてしく言った。
「お前も、ビリから二番目だろ」
瑞希の言葉にカチンと来たのか澪が言い返す。
瞬間的に、あっ言った。言っちゃった。そう思った。
私でも言わないでいた言葉を軽い挑発で澪は言ってしまった。
「ビリのくせに…」
ムッとして瑞希も言い返す。
どちらも変に頑固なので引く気配はない。
収集が、つかなくなる前に何とかしなければ。
「うわぁぁぁぁ!」
「うおっ何?」
急に叫んだ龍を驚いて見ると、頭を抱えてゲーム画面を唖然として見ている。
いつの間にゲームに戻っていたのだろうか。
パッケージがゲーム機の横に空の状態で置かれていた。
どうやらRPGをしていたらしい。
瑞希達の方が騒がしかったので気づかなかった。
「何、どうしたの?」
「おお、由梨。聞いてくれよ、ゲームのデータが飛んだ」
「それは…」
分からないでもない感じだ。
特にやり込んだゲームの場合、そのショックは計り知れないだろう。
「そんな事で…」
「そんな事とはなんだ!そんな事とは!」
呆れながら言った瑞希に掴みかかりそうな勢いで、龍は言い返す。
「例えるなら読みかけの本を無くした感じだよ」
「ああ、あの新しく買い換えるか見つけるまでの間の、やるせない感じ…」
桃花のフォローにより、瑞希を説得する事に成功した。
どうやら、瑞希と澪の方は何とか収まったみたいだ。
「俺のセーブデータァァァァ!」
こうして、私達の休日は過ぎ去っていく。
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