お見合い③
何も言わず、瑞希は困惑している蒼さんを静かに見つめていた。
すると、蒼さんは立ち上がって瑞希達の母の方を見て言う。
「今回は止めておきます、すみません」
「あら、そう?」
会釈してから蒼さんは鞄を手にして、出て行った。
そこで、やっと美雪先生がハッとして我にかえる。
「私…あっ…」
「蒼さんなら帰りましたよ」
瑞希達の母からの質問を軽く受け流しながら、裕が言った。
「え、えっ?」
「美雪先生フリーズしてたから…」
苦笑混じりに私が言えば、美雪先生はまたキョトンとした。
水を一口飲んでから瑞希が言った。
「帰る」
「は?」
「眠いから帰る」
「マイペース過ぎる!どうせ連れてくの私だよ」
そんなのお構いなしで、早く連れてけとばかりに私の腕を掴む。
あ、これマイペースじゃない。
自己中の域だ!!
「なんだよ、帰るのか」
「美雪先生のお見合い阻止出来たんだし、良いんじゃない?」
「…そうだな」
納得して龍も私の肩を掴む。
桃花も頬を膨らましながら手を繋いで来た。
「今度は置いていかないでくださいね」
「はいよ!」
そして美雪先生や裕も私の肩や腕に触れた。
瑞希・美雪先生の母が首を傾げる。
躊躇いつつ私は言う。
「あ、瞬間移動…です」
「まあ、便利ねー。美雪、瑞希、お母さん帰るから」
「うん、ごめんね…せっかく私の為にお見合い…」
「いいのよ、まだ時期じゃなかったのね」
微笑んで瑞希達のお母さんは言った。
それを最後に私達は学校に戻った。
「どうして、瑞希達は私の所に?理由までは新城君、教えてくれなくて…」
不思議そうに私達を見回しながら美雪先生は聞いてきた。
私が瑞希と顔を見合わせると溜め息を吐かれた。
言っていいと解釈する。
「龍が美雪先生を探してて」
「そうなの?急な用事だった?」
申し訳なさそうに眉を下げて、美雪先生は龍を見た。
瞬間赤くなる龍の顔。
桃花は面白くなさそうにしている。
「いやいや、もういいんで!」
首を左右に振り、龍はそう言った。
美雪先生に会いたかっただけだもんね、と心の中で言ってやる。
ホッとしながら美雪先生は微笑んだ。
「そう?」
「はい!」
「…眠いから私、帰る」
欠伸をしながら瑞希は寮のある方へと歩いて行った。
私は一足先に寮の自分の部屋へ移動した。
「……いいな…」
部屋に入ってきた瑞希の第一声がこれだった。
ズンズンと私が横になっていたベットに近づいてくる。
「行きたい場所にすぐ行けて…」
「うーん…でも頼りすぎると太るんだよ?」
そう、確かに瞬間移動は役に立つし使い勝手も良い。
名前通り行きたい場所に瞬間的に行ける。
ただしその分、自分で動かないので太ってしまう。
能力を使ったからと言ってカロリーを消費したりはしない。
女性からしてみれば、かなりの痛手だ。
「そう……寝る」
「え?」
「おやすみ」
早々にベットにつき、眠りだした瑞希。
私もつられてベットで眠りについた。
翌日。
瑞希に電話がかかってきた…いや、正確には始めは美雪先生への電話だった。
興味本意でまた桃花が龍や私や澪を連れて、職員室にいる美雪先生の会話を盗み聞きしていた。
瑞希はその場にいなかったので仕方なく連れて来なかった。
「あ、松宮さん」
龍の肩がピクリと動いた。
電話の相手は蒼さんだったらしい。
何やら話し込んでいる。
さすがに内容までは分からなかった。
「面白い物でも?」
後ろから聞こえた声に私は体を固くした。
どうしよう、やっぱり盗み聞きは良くなかった。
今更ながら後悔する。
すると、声の主は私達に一歩近づいた。
「姉なんか見て面白い?」
呆れたようなその声に私は顔をあげた。
瑞希と目が合う。
Oh…。
「こっこれはこれは瑞希さん…」
「……何してるの?由梨が[さん]付けするのは大体テンパってる時」
「うぐっ!」
「別に何もしてないよー?ねぇ?」
桃花が笑顔を瑞希に向けながら、私の脇腹を肘で突いて言った。
そうそう、と私も桃花に合わせる。
「ふーん…まあ…こうすれば全て分かる事だけど…!」
そう言って瑞希がガッと私の腕を掴んだ。
冷や汗が頬を伝った。
「え…えっと…あの、これはね?」
「盗み聞きとか…もっと他にやる事があると思うけど」
瑞希は完全に呆れきっていた。
すると、ガラリと音を立ててドアが開かれた。
驚いて振り返ると首を傾げた美雪先生が瑞希を見て、あっと声をあげた。
「瑞希に電話」
「私に?」
眉を顰めて瑞希が職員室へと入って行き受話器を受け取る。
「もしもし?………はい、先日はどうも……え?あ…はい…はい…分かりました…では」
随分と淡々とした話し方をして、瑞希は早く話を切り上げて電話を切った。
受話器を美雪先生に返して、瑞希がこちらに戻って来た。
「誰?何の話?」
身を乗り出してグイグイと桃花が質問攻めをする。
それに動じず自分のペースを守りながら瑞希が答える。
「松宮のお兄さん…蒼さん…だっけ?」
「うんうん、それで?」
「この間のお詫びの電話。悪いのはこっちなんだけど」
「あ、それ分かってたんだ?あまりにも澄ましてたから何も思ってないのかと…」
昨日の瑞希のマイペースさ(身勝手さ、とも言う)を見ると、どうにも自分が悪いとは思っていないのではないかと思ってしまう。
「由梨、話の邪魔しないでよ」
なんだか知らないけど怒られた。
口も挟んではいけないのか…すごい睨んでくるから言えないけど。
「それで、他にはないの?」
「さあ…弟によろしく…とは言われた」
その瑞希の言葉に全員の視線が龍に集まった。
龍は目を逸らして気まずそうにしていた。
「機会があったらまたお茶にでもって、これは姉にか」
私達に聞こえる大きさで瑞希が呟いた。
呟いたと言えるのか…ほぼ言ったも同然だし…。
そして、それは間違いなく龍に向けてわざと言った物だった。
相変わらず、少し意地悪だと思う。
「そっそんな事言ってたのか?……あっ別に気にしてるわけじゃないからな」
どう見ても今の言葉は気にしているから言った事としか思えないんだけど…。
と言うか、言い方がちょっとしたツンデレだ。
瑞希が確認するように龍に対して口を開いた。
「本当に?」
「気にしてない!」
「ふーん…じゃあ言って良いんだ?まあ、ダメって言われても言うけど」
「えっ言うの?ここまで龍の事を弄んでおいて言うの!?」
つい口を挟んでしまった。
瑞希は真顔のまま頷く。
特に冗談を言っているようには見えなかった。
……瑞希の場合、真顔で冗談なのか本気なのか分からない冗談を言う事もあるけど。
「行くか行かないかは本人が決める事だし」
「じゃあ何で龍に言ったよ!」
「松宮に言ったつもりはないけど」
「……それは……たしかに」
初めは誰にともなく言っていた言葉だったし。
けど、間違いなく瑞希は龍だけにターゲットを絞っていた。
「んじゃ、言いに行くから」
「待て!待ってくれ!」
「おい、待ってやれよ」
「クロまでそんな事を…これは伝言、仕方ない事」
そう断言して止めようとする龍と澪を引き連れて瑞希は職員室に入っていった。
残されたのは私と桃花のみ。
ふと、隣を見ると桃花が俯いてにやりと笑っていた。
「このまま龍のお兄さんと美雪先生が上手く行けば……」
ぽつりと呟かれた桃花の、その言葉を聞き逃さなかったのは私だけではないだろうか?
いや、絶対私だけだろう。
お見合い...and




