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お見合い①

何度言っても仕方がない。

そんな事は分かっている。

それでも言わずにはいられない。


「暇ー!」


「……」


毎度の事なので瑞希も聞いて来なくなった。

澄ました顔で本を読んでいる。


「つまらないー…」


「じゃあ寮に帰りなよ」


現在は放課後。

やはり見かねるのか瑞希が言った。

しかし、面白い事は決まって校内で起こるのだから帰ってしまっては、もったいない。

ふと、窓の外を見る。

………。


「よっ!」


龍が手を上げて、こちらを見ている。

浮かびながら…。

私は頬杖をついて、言った。


「いいなー、それ便利で」


「まあな!」


「教室まで歩かなくていいしさ」


「けど、窓開けてもらわないと入れないんだよな」


まさかの欠点あり。

もし私に気づかれなかったらどうしてたんだろうか。

……ずっと待ってんのかな…。

私は窓を開けて龍を中に入れた。

涼しげな風が教室の中に入り込む。


「また美雪先生目当て?」


「えっそうなの?」


途端に瑞希が本を閉じて目を輝かせた。

本当にこの人は悪趣味な…。

私は龍に目を向けた。

すると目を泳がせて、否定し出す。


「んなわけないじゃん!なんで美雪さんに?ハッハッハッ」


「いや、いつもがいつもだけに…」


言い訳の苦しい龍をじとーっと見ながら私は言った。

と、瑞希が龍の背中に触れたのが見えた。

触られている本人は言い訳に忙しくて気づいていないけれど。


「ここには来てないけど」


妖しげな笑みを浮かべながら瑞希が言った。

ギクリと顔を引き攣らせて龍は後ろを振り返った。

瑞希は一息吐いて、龍の後ろからこちらに歩いて来る。


「探してあげてもいいよ、私達が」


私の隣に来た瑞希がそう言った。

しかも私と自分を指差しながら【私達】とまで。

んん?もしかしてこの流れは…。


「私もっすか」


「え?」


何言ってんの、この人?みたいな目で見られた。

私は後ずさりをする。


「いやいやいや!私は一言も探すなんて…」


「探してくれないのかよ!ケチだなー」


「うぐっ…探しますよ…探せばいいんでしょ?」


龍にケチなんて言われる筋合いはない。

その悔しさから思わず言ってしまった。

ああ…ダメだこりゃ。


「私は徒歩だけど由梨は瞬間移動出来るんだし…」


「うん…そうだけどさ」


「じゃあ、また後で。集合はここね」


瑞希は教室を指して言い、そのまま歩いて行った。

溜息を吐いてから私も探し始める。

次々に移動して行くけれどなかなか美雪先生と会えない。


「何故だ…」


すれ違っているにしても、これはあまりにも…。

あっもしかしたら瑞希がもう見つけたのかもしれない。

そう思い私は教室前まで移動した。

しかし、そこには瑞希の姿も美雪先生の姿もなく…代わりにいたのは桃花だった。

向こうもこちらに気づいて小さく手を振った。


「桃花、どうしたの?」


「うん…龍見なかった?」


おおう…こっちもこっちで、すれ違ってる。

ここで龍が美雪先生を探してるなんて言ったらまた面倒な事になるので私は頭を振った。


「そう…なんだ…うん、分かったありがとう」


悲しそうな顔をして笑う桃花に私の良心がチクチク痛む。

なんて顔すんの!言いたくなっちゃうじゃないか!

しかし、言ってしまえば今の嘘も意味を成さない…。

私は痛みに耐えながら去って行く桃花の後ろ姿を見つめた。


「さて、私もまた探すかな…」


先程探した場所をランダムに選び、移動していく。

しかし、それでも美雪先生を見つける事は出来なかった。

なんで?ランダムに、しかも瞬間移動しているのに…。

私は完全に手詰まり状態だった。

仕方なしに手ぶらで何の情報を持たないまま教室に移動した。


「あ、瑞希…まあ待ってれば来…ギャァァァァア!?」


後ろから何かに抱きつかれ女子らしからぬ悲鳴をあげる。

すると、抱きついていた人物が離れ、ついでに私の叫び声を聞き付けた龍も来た。


「驚きの叫び声…」


片方の耳を手で押さえながら、瑞希が言った。

なるほど、抱きついてきたのは瑞希だったらしい。

それが分かってホッとする。

顔をしかめながら瑞希は言った。


「しかも何の収穫もなしとか…」


「はぁ?!お前らも?」


「龍も?あちゃー…」


「マジかよ…」


ガックリと肩を落とし、負のオーラを瞬時にまとい始める龍。

私は背中をバシバシと叩いて元気付けた。


「まだ校内にいないと決まった訳じゃ」


「いや、いないけど」


「……はい?」


「だからいないけどって」


真顔で瑞希が言い、続ける。

え?ナニソレ怖い。

淡々と、とんでもない事を言った友人を私は穴が開きそうなほど見つめる。


「なんで?」


「お見合いで、どうしても外せないらしい」


「なんだと?!どこだ!どこでやってる!」


龍は瑞希の肩を掴み体を揺する。

どうしよう、目がマジだ。

止められずにいると、どこからともなく裕がやって来た。


「仮にも女性に何をしてるんですか!」


「おい」


The・紳士登場。

しかし、幼馴染みへの言葉の配慮は持ち合わせてなかったらしい。

どす黒い気を放ちながら瑞希が言う。


「おい、仮にもって?どこからどう見ても女性でしょ」


「え、ああ…いや…」


「それより教えろよ!どこで見合いしてるんだ、美雪先生は」


さっきから龍がお見合いの場所どこだって騒いでるけど…こいつ、行く気か?!

龍の押しがあまりにも、うっとおしかったのか瑞希はため息を吐きながら言った。


「場所までは聞いてない…」


「なんだ…」


また龍が負のオーラをまといそうになった時だった。

裕が少し考えてから、顔をあげて言う。


「テレパシーを使えば分かるかもしれません」


「え?ああ!そういえば裕、テレパシー使えるんだっけ?」


「おおお!裕、感謝する、いや、します!」


テンションの上がった龍は裕の手を握りブンブンと振り上げながら言った。

隣で瑞希が距離をあけている。

…やっぱり苦手なのか…龍の事。

龍が少し落ち着いたところで裕が目を瞑った。

美雪先生と何かやり取りをしているのだろう。

少しすると目を開け、一息吐いた。


「どうだ?」


「〇〇町の和食屋さんだそうです。店名が【和心】」


「よっしゃっ!んじゃあ行くぞ」


そう言って何故か私の肩を掴んだ龍。

続いて瑞希や裕も私の肩や手を掴む。

つまりこれは…。


「連れてけと?」


「「「それ以外に何が?」」」


「ですよねー」


見事なハモり、何より3:1によって私は断れず仕方なしに全員を連れて行く事にした。


「……あれ、私は?見てたんだけど、今までやり取り見てたんだけど」


あ、桃花忘れた。けどまあ…いなかったし…。


「見てたんだけど?!」


桃花の叫びが放課後の校内に響き渡ったのを私は後で知った。


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