オトシモノ①
私の親友、蘇芳瑞希。
彼女は時々、物を落とす。
ハンカチ、ティッシュ、文庫本、教科書、ノート…etc。
多種多様、しかも本人が無くしたと気がつくまでが遅い。
気づいた時には無くした場所の掃除が終わっている…なんて事も多々あった。
そんな瑞希に慣れ始めていて、気をつけていた…はずだった。
「なんで?」
「なんでって言われても」
諦めたような声を出して瑞希は、溜め息を吐いた。溜め息を吐きたいのは寧ろ私の方だ。
しかし、そんな私の思いが瑞希に届くはずもなく・・・。
「無くしたって・・・?」
「いつもの事」
「いつもじゃ困るの!」
同じようなやり取りを何度した事だろう。さすがにいつもと言われ出しては放って置けない。
ああ、放って置けないのは今回に限った事じゃないか。
「どこで無くしたのかも、分からないの?」
「さっぱり」
「・・・それで何を無くしたの?」
思えば何を無くしたのか聞いていなかった。
瑞希もキョトンとした顔で私を見ている。
「・・・靴」
「え・・・?」
視線を足元に移して見れば、確かに靴を履いてなかった。
しかも片方だけ。
「こんな状態で今まで気づかなかったんだ・・・」
思わず唖然としてしまう。
鈍いどころじゃないよ、これ。
「心当たりないの?さっぱり?」
「さっぱり」
「ハァ・・・」
これ以上、聞いていても、らちが明かない。
私は出来るだけ手当たり次第に探す事にした。
「って言っても本当、手当たり次第なんだよね・・・瑞希は宛にならないから」
「は・・はぁ・・・」
苦笑いを浮かべて桃花は頷く。
いないよりはマシかと思い、通りすがった所を捕まえた。
「それで何処をまず探すの?」
「うーん下駄箱か、外かな?明日の天気占う為に靴投げたかも」
「普通拾わない?というか、瑞希なら天気予報の方を見ると思うよ」
「なっ・・・なるほど・・・」
迷信などを信じない、瑞希の事をよく分かっている。
しかし、もしかしたらという事があるかもしれないと説得して下駄箱と外を調べる事にした。
何故、私が探さなければ・・・という愚痴は出かかって飲み込んだ。
それを言ってしまえば桃花こそ、そうだからだ。
「さて・・・探しますか!」
「うん!」
やる気を無理矢利引き出して私達は、早速探しだした。
――数十分後・・・――
「見つからなかった・・・ね」
「・・・うん」
結果は見事に不発。ここは原点に帰ろうと瑞希に話を聞き直す。
「下駄箱?そこはとっくに見た」
「なっ・・・」
「始めから聞いていれば良かったね」
まさかの痛恨のミス。聞いていれば無駄骨にならずに済んだのに。
「あれ?てか瑞希も探してたの?」
「自分の事だし…自分が探さないのはどうかと思って」
「一応自覚はしてるんだ」
「けど、どこ行っちゃったんだろうね?」
周りを見回しながら、心配そうに桃花が言った。
私はふと思い付いて言ってみた。
「誰か拾ってくれたんじゃないかな?」
「なるほど、それなら見つからないのも頷けるね」
「でしょ?けど、問題は誰が拾ってくれたのかだよね」
そこで私達は唸った。不特定多数だから絞り混むのは無理そうだ…。
すると、そこを通りかかった澪が顔をしかめて通り過ぎようとした。
しかし、それを瑞希が許すはずもなくガッシリと腕を掴まれた。
「面倒事に巻き込むな」
「通りがかった時点で巻き込まれる運命なのです…」
「巻き込んでる奴が言うな」
なんだかんだ文句を言いながらも澪は一緒に探してくれるらしい。
これが世に言うツンデレって奴なのかなと思ってみる。
「まず龍に聞いてみたらどうだ?」
「え、なんで?」
「近場から当たってみた方がいいだろ」
「そうだよね、はいレッツゴー!」
「桃花は龍に会いたいだけだよね」
軽い足取りで先へ先へと進む桃花を見ながら、私はまたこの間の勝負のように巻き込まれないかと気が気ではなかった。
向かってみれば案の定、美雪先生とデレデレしながら話をしている龍の姿。
修羅場再来の予感。
「龍、瑞希の靴を知らないかな?」
「靴?なんでだよ」
「無くしたらしくて…知らないみたいだね…」
少しガッカリとした表情をしてから、桃花は龍の腕を引いた。
そして、にっこりと笑ってこう告げる。
「じゃあ龍を連れて行きますからね」
「いってらっしゃい?」
状況の分かってないであろう美雪先生が首をかしげながら、小さく手を振って言った。
桃花は振り返りもせず、龍を連れて先に歩いて行った。
「あんなに急いで…きっと忙しいのね!」
美雪先生の天然っぷりも健在だった。
私達は別れを告げて、その場を後にした。
桃花を追いかけて行くと、龍を問い質している場面に遭遇した。
「どうして美雪先生といたのかなー?」
いつの間にやら敬語が外れ、黒笑を浮かべている。
そんな桃花は私達に気づくと、こちらを向いて提案してきた。
「固まっていても仕方ないから、分かれて探さない?」
「う、うん、そだね!行くよ、澪」
「ああ…」
まず第一に桃花が怖かったのと言った事が一理あったから。
断じて澪と二人になれて嬉しい!なんて思ってなく…もない。
ここからは別行動となって桃花達と瑞希とは少しの間、会えない。
「大体の場所は探したんだろ?他にあるのか」
「それを言われちゃうとねー、成せばなるよ」
「おい」
「あ、けど…校庭がまだ…」
一瞬、脳裏に浮かんだ場所を私は澪に言った。
何の根拠もなかったけれど、私の勘ではそこに何かがあると感じている。
「よし、行ってみるか」
前に向き直り、そう言った澪の横顔を見ながら私も足を進めた。
校庭に着くと、すでに桃花と龍の姿があった。
しかし、校庭の数少ない隠れられそうな場所に身を潜めながら何かを見ているようだった。
澪と顔を見合わせると、顰めっ面をされたので私が聞きに行く。
「二人共、何して「しーっ!!」
二人して口に人差し指を付け、手招きする。
私は屈みながら、二人がしたように澪に手招きをした。
澪も屈みながら来たところで小声で聞いてみる。
「何してるの?」
「あれ、見てみろよ」
龍がそう言って指したのはベンチに座る瑞希と裕だった。
ふと、瑞希の足元を見ると靴を履いていたので裕が見つけてくれたのかなと予想する。
「瑞希達がどうかした?」
「怪しくない?」
状況がよく分からないので私は首を傾げる事しか出来なかった。
何が怪しいと言うのだろう。
すると、桃花が溜め息を吐いて言った。
「二人の関係だよ!靴が見つかったっていうのに、私達に言わずベンチでお喋り…」
お喋りってほど喋っていないように見えるけれど、ややこしそうなので敢えて、つっこまないで置く。
「瑞希が私達に言わないのは、いつも通りだよ」
「確かにな、余計な事は言うのにな」
「まあまあ…だからさ、怪しくないと思うよ」
「そうかな…」
桃花は瑞希達を疑り深く見つめていた。
怪しくはないのに…いや、私自身認めたくないのかもしれない。
先を越されたみたいで何か悔しいから。
私は靴が見つかったならば探す必要もないなと自分を納得させて瑞希達を見た。