表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

プロローグ①

それはいつもの日常だった。

ある生徒は本を読んだり、友達とお喋りをしたり…またある生徒は空を飛んだりしていた。

これはここ【花鳥学園】ではいつもの日常だった。


ドタドタドタ


音を立てながら二人の少女が廊下を走っている。


「何アレ!何アレー!」


「私に聞かないで」


一人の少女は、涙目になりながら何度も後ろを振り向き、もう一人の少女は冷静に振り向かず走っていた。

そんな二人が“あるもの”から逃げる事になったのは少し前の事だった。



オレンジ色の長い髪をなびかせながら山吹(やまぶき)由梨(ゆり)は狐色の瞳で教室から外を眺めていた。

由梨の隣では蘇芳(すおう)瑞希(みずき)が文庫本を読んでいた。

クリーム色の緩くウェーブしている髪に綺麗な緋色の瞳が特徴的だった。

外を眺めたまま由梨は頬杖をつき、溜息を吐いた。

瑞希は一度由梨に視線を向けてから、また文庫本に視線を戻した。

すると、また由梨が溜息を吐いた。

さすがに耐えかねて文庫本を閉じてから瑞希は由梨に視線を向ける。


「さっきから溜息吐いて……どうしたの?」


「どうしたもこうしたも…暇すぎでしょ!?暇でしょ?」


外から瑞希へと顔を向けて、由梨は瑞希を見た。

閉じた文庫本を由梨に見えるように瑞希は持った。


「私には文庫本があるから」


「瑞希には文庫本があるだろうけど、私には何も無いの!」


唇を尖らせて不機嫌そうに由梨は顔を逸らした。

そんな由梨を見て、今度は瑞希が溜息を吐いた。

文庫本を机に置いてから、瑞希は椅子から立ち上がった。

それに気づいて由梨は視線を瑞希に戻してから、首を傾げる。


「お腹すいた……」


そう言ったと同時に瑞希のお腹がタイミング良く鳴った。

丁度お昼時なので絶好のタイミングだった。

マイペースな瑞希に苦笑しながらも由梨は立ち上がった。


「じゃあ、行こうか」


二人は教室を出て、食堂へと向かう為に廊下を歩いていた時だった。

由梨はなんだかいつもと廊下が変な気がしていた。

いつもより生徒が少なくて、少し暗かった。

廊下には二人を含めても、四・五人しかいなかった。

それを気にしながらも、由梨は首を傾げて気のせいだと思う事にした。

すると、隣でお腹を鳴らしていた瑞希がふと、立ち止まって振り返った。

それに気づいて由梨も立ち止まる。


「どうしたの?」


「なんか…いや、やっぱり気のせいかも」


そう言って、瑞希はまた歩き出した。

しかし、由梨と瑞希が感じた事が気のせいではない事が、すぐに分かる事になる。


ドシン…ドシン…


と、鈍く低い音が二人の背後に迫って来ていた。

さすがに、その音に二人も気がついて首を傾げる。

それから、顔を見合わせた。

由梨が試しに振り返ってみると、そこには岩の固まりで出来たゴーレムが二人の方向へと迫ってきていた。

重そうな外見に反して、スピードがなかなか早い。

………つまり、そろそろ二人が逃げなければぶつかってしまう訳で……。

二人はまず、無言のまま走り出した。

そして、先頭へと戻る。


「どうすんの!あれ、どうすんの!」


「由梨、ちょっと落ち着いて黙ってて」


まず由梨を黙らせて、瑞希は逃げながら思考を巡らせた。

そして、思い出した事を隣で涙目になって走っている由梨に言う。


「…確か由梨って“瞬間移動”使えなかったっけ?」


「…………ああっ!!」


由梨はポカーンとした顔から驚いた表情に変えて声を上げた。

そう、由梨は瞬間移動を使う事が出来るのだった。

しかし、突然出現したゴーレムのせいで本人も忘れていた。

瑞希は冷たい眼差しで由梨を見た。


「みっ瑞希だって忘れてたじゃん!」


「でも由梨よりは先に思い出したよ」


「うっ…」


「ほら、さっさとしないと追いつかれる」


急かされて慌てながらも由梨は瞬間移動をした。

………自分だけ。


「おい…」


思わず友人のいた所を見てツッコむ瑞希。

勿論、足は止めていない。

すると、その直ぐ後に瑞希の姿がそこから消えた。

そして、次に瑞希が見たのは由梨の姿だった。


「………すいませんっした!!」


由梨は瑞希の姿が現れた瞬間、いきなり土下座した。

それを見て、瑞希は少し満足げな笑みを浮かべてからしかめっ面に戻る。


「事故で!動揺してて!」


「どれだけ言い訳してるのさ…別にいいよ。助かったし」


「それにしても…さっきの何?」


冷静になって改めて考える由梨。

…と、周りを見回す瑞希。

首を傾げて由梨は聞く。


「どうしたの?」


「いや、私の部屋に移動したんだなって…」


「私の部屋って!私“達”の部屋でしょー!?」


花鳥学園には女子寮と男子寮がある。

分かれているけれど、行き来自由。

家が遠くても近くても、寮に住むかどうかは本人の意思で決まる。

基本、二人か三人部屋。

由梨と瑞希の部屋は東側二階の一番端だ。


「もうー!さっきの何なのー?」


「叫んでも仕方が無い」


「分かってるもん!でも叫ばずには、いられなーい!」


「ゴーレムがいた…って事はそれを出した人も学園内にいるとは考えない訳?」


瑞希がそう言った途端、由梨は叫ぶのを止めて頭を抱えたまま瑞希の方を見た。

それから驚いた顔へと変わる。


「ああっ!」


「もう一度学園に戻った方がいい……?」


「当たり前じゃん!誰が出したか気になるからね」


由梨も乗り気なので瑞希は学園へと戻る事にした。

そして、案の定ゴーレムの所為で所々破壊されていた。

それを見て呆然と立ち尽くす由梨と破壊された壁の欠片を手にとってしゃがみながら考え込む瑞希。


「これは…一体…?」


「早くしないと怪我人……出ない、か」


「怪我人よりもこれから先生に怒られる事を考えた方がいいかもね……」


欠片を床に置き、立って由梨の方を向く。


「じゃあ私は右を、由梨は左を探そう」


「ラジャッ!って何で瑞希が指示してんの?!」


しかし、既に瑞希は走り去って行っていた。

溜息を吐いてから由梨も左へと歩いて行った。

それから暫く由梨が歩いていると、黒髪に黒い瞳をした少年が彼女の目に入った。

何処か、近寄りがたい雰囲気のある少年だった。

そんな事は気にせず、由梨はいつもの調子で少年に声をかけた。


「ヤホー」


「ん?ああ、由梨か」


「私で悪かったね!それでゴーレム見なかった?」


「ゴーレム?なんで?」


「誰かが出したみたいでさー、学園を破壊しながら徘徊してるんだよ」


少年は興味無さそうに「ふーん…」と言っただけだった。

この少年の名前は黒藤(こくどう)(れい)

漆黒の髪に黒い瞳が特徴だ。

彼は状況が理解出来ないと言った表情で首を傾げる。


「だーかーらー…」


「あっ…」


「どうしたの?」


由梨が聞く前に彼は由梨の手を取って走り出した。

よく分からず頬を赤く染めながら由梨が首を傾げていると、後ろから物凄い音がした。

驚いて二人は振り返る。

そこには例のゴーレムと、顔をしかめながら走っている瑞希の姿があった。


「へ?!瑞希?」


「蘇芳もいたのか…」


「ゴーレムの迫力凄かったからね…」


二人が話をしているうちにいつの間にか、瑞希は二人の隣にいた。

そして瑞希は二人を見ると思いっきり睨んだ。


「話してる暇があったら……」


「はいはいはいはい!逃げます!逃げる事に専念します!」


「………そういえば由梨は瞬間移動が使えたよな?」


「え?そうだけど…」


そのやり取りを聞いて瑞希はハッとした。

それから何も分かっていない由梨を見た。


「瞬間移動でゴーレムを安全な場所に移動させれば良かったんじゃ…」


「…………しまった!!」


「ほら、さっさと……」


「はぃぃいっ!」


瑞希に物凄い形相で睨まれ、由梨は涙目になりながらゴーレムを移動させた。

途端に静けさが戻る。

そこでやっと一息ついて三人は立ち止まれた。

由梨は息を切らして座り込む。


「や…やっと……ハァ…」


「あのゴーレム。授業で使うはずだったのが逃げたんだってさ」


息も切らさず余裕な様子で瑞希は由梨と…ついでに近くに居た澪にも説明した。

そこで瑞希はふと、疑問に思った。


「ところであのゴーレム…どこに移動させたの?」


「広い所がいいと思って…学園の庭に…」


由梨がそう言ったところで、学園の庭の方から悲鳴が聞こえて来た。

そして由梨は青ざめる。


「ど…どうしよう…」


「先生に聞いてみれば?どこにゴーレム入れてたか…由梨だけ」


「私だけって!瑞希も来てよー」


また涙目になりながら由梨は瑞希に抱きつく。

それをうっとおしそうにして、由梨を澪にパスする。

……パスした?


「さて…行くか」


「ちょっと瑞希ー!パスするってどう言う事!無視しないでよー!」


先へと進む瑞希を由梨はゴチャゴチャ言いながらついて行く。

そんな二人に溜息を吐きながら澪も仕方なくついて行った。



職員室に着き、瑞希が先にドアを開けた。


「せんせー、先生ー、バカ姉ー」


「ちょっと!いくら姉でも今は教師なんだからね!バカって何よ、バカって」


そう言いながら来たのは瑞希の姉・美雪だった。

水色のストレートな長い髪に青い瞳が特徴だ。

そして、美雪は瑞希達のクラスの担任だった。


「それで?何か用があったから来たんでしょ?」


「そうだった!ねぇ美雪先生。ゴーレムってどこに入れてたの?」


「えっ?ああ…確か実験室の…檻だっけ?」


「こっちが聞いてるのに聞かれても…」


由梨が困っている間にも瑞希と澪は廊下を進んでいた。

それにやっと気づいた由梨は美雪に礼をしてから慌てて二人を追いかけた。


「もうっ!なんで二人共、私を置いてくかなー?」


「「遅いから」」


「ハモられると二倍傷つく……」


泣きそうになっている由梨を放って、二人は実験室へと向かった。



そしてドアをノックしてから今度は由梨が先に入る。


「失礼しまーす…ってあれ?誰もいないよ?」


「ゴーレム探してるんだろ?それより、檻ってあれか?」


澪は壊された一つの檻を指差した。

他の檻は無事なようで傷一つ付いていない。


「他の先生が結界を張って保護してるみたいだな」


「だね。でもさでもさ?檻が壊れてるんじゃ入れても脱走しちゃうよ?」


「クロが結界張れるから、後は姉に任せる」


クロとは黒藤に瑞希が付けたあだ名だった。

ちなみにク……澪は“結界”を使う事が出来る。


「そのクロって止めろ。猫じゃあるまいし」


「おーい、姉ー」


「スルーか、スルーするのか」


澪の言葉をスルーして瑞希が美雪を呼ぶと、彼女はすぐにやって来た。

そしてその彼女に瑞希が簡単な説明をした。


「分かったわ、じゃあ…」


美雪は壊れた檻に手をかざした。

すると、ほんの数十秒で檻は元通りに直る。

そこで由梨がゴーレムを檻に入れ、澪が結界を張ると言う抜群のコンビネーションで達成された。


「ふぅ……」


「始めからこうすれば逃げなくても別に良かったんだよね……」


美雪は息を吐きながら汗を拭き、由梨はブルーになっていた。

澪と瑞希はそんな二人を見てから顔を見合わせ、どちらともなく笑みが零れた。


「ああっいいなー!二人だけで笑い合って!」


「何?できてるの?貴方達、そんな関係なの?」


「どんな関係だ」


テンションが上がり興奮気味の二人に容赦なく瑞希のツッコミが入った。

澪は溜息を吐いて外に目を向ける。


「………落ちた…」


「え?澪、落ちたって何が落ちたの?」


「人…」


「ああっ人かー………!…って人?人間?」


ボケている由梨を放って瑞希と美雪も外へと目を向けた。


「何あの人?バカなの?バカなの!?」


「落ち着けバカ姉。落ちたのにまた木に登るあの人はバカだよ。それか何かあるのか……」


「何かって?」


「とりあえず行こうよ!」


由梨が外を指して行った。

そして四人は外へと向かって行ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ