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―SAKURA―  作者: あおい
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1―2

この世界には晶と呼ばれる不思議な力がある。

この晶の力を利用して、人や魔人種は魔法を使っている。


晶は太陽の光により生まれる為、いくら魔法を使っても、世界に存在する晶は一定の量を保ち続けていた。


だが長年にわたり激化する人間と魔人種の戦争により、晶の生産が追い付かなくなり……段々と晶の量は減っていった。


そして世界は、突然バランスを崩した。


それにより世界の端から色がなくなっていき、暗闇が広がっていった。




普通は晶を一度体内に取り込み、体内で自分の魔力へと変換させる事で魔法が使える。


だが特殊な存在として、晶を体内へ取り込む事なく、そのまま自分の魔力として扱える人々がいた。


その力は代々受け継がれていて、200年前にはその存在は世界で一人だけになっていた。


それが私だ。




その力のおかげで色がなくなった原因にも気付けた私は、必死で人間と魔人種を説得した。


だが魔人種は人間の言っている事になど聞く耳を持たず、人間側も今攻撃をやめたら魔人種に侵略されるからと言って、説得には応じなかった。


この時はまだ、色がなくなる恐怖よりも戦争に負ける恐怖の方が上回っていたから。




私は説得を諦め、独自に動き出した。


晶を固めた晶結石と呼ばれるものを作り出し、世界中のあちこちに置いてまわった。


激しい戦争の中、やっと世界中に置けたのは、色がなくなり出してから約一年。

世界のほぼ全土が黒に染まった頃だった。


そしてその頃まだ存在している晶の量では、本当の意味で色を取り戻すには少なすぎた。




そこで私は再び人間と魔人種を説得した。


これからこの世界に存在する晶を全て世界中の晶結石に流し込めば、色を取り戻せる


だが今この世界にある全ての晶を使っても、色を保てるのは200年が限度だ


だから今すぐ戦争をやめ、200年をかけて晶を一定量まで生成してほしい


そうすれば、私は200年後のこの世界で永久に色を取り戻す事ができる――と。




その頃には暗闇に怯えていた人間と魔人種は、私の説得に応じ、永久に戦争を凍結させると約束した。




その約束を信じ、自分が200年間眠り続ける為の魔力だけを残し、残る全ての晶を晶結石に流し込んだ。


そして私は200年の眠りについた―――






「………って感じなんだけど」


長い話を終え、一息ついた。

私が話している間、3人は口を挟むこともなく、黙って聞いていてくれた


「だから最近色がなくなったのは、私が寝坊したせいで…。

でもとりあえず、またこの先200年は大丈夫なくらいの晶は流し込んでおいたから安心して」


……………


……………


「あのー、誰か何かリアクションしてほしいなーなんて」


話終わっても一向に口を開こうとしない3人に、少し気まずくなって言った


「いや…悪い。あまりにも話のスケールが壮大すぎて」


やっと言葉を発してくれたのは、苦笑いを浮かべたオレンジさん。

紺色袴さんと黒いローブの眼鏡さんも、オレンジさんの言葉に同意するように勢いよく頷いた


「まだいまいち理解しきれてないんだが…、俺達は今まで散々魔法を使ってたぞ。それは問題ないのか?」


「大丈夫だよ。それくらいなら晶の生成量の方が断然上回ってるから。

その証拠に、今この世界にある晶の量は、永久に色を取り戻す為に必要な量を充分に満たしてる」


「そうか…」


私の笑顔につられたのか、オレンジさんまで安心したような笑顔になった


「で、お前はこれからどうするんだ?」


「んー…世界中に置いた晶結石の一つ一つに、ちょっとした補給工事をしなきゃいけないんだよね。

その作業は直接晶結石のある場所でやらないといけないから…

ぶらり晶結石・食い倒れツアーに出発ーって所かな」


「茶化すな。要するにお前はこれから一人で世界中旅して回るって事だな?」


軽いノリで言った冗談が、ばっさりと両断された…

オレンジさん、冷たい


「まあそうだよー…時間はたっぷりあるし、のんびり気楽に旅するの」


「おう、のんびり旅するならまずはこの国の王都に寄っていけ」


「えっ、なんで?」


「いいから、これは決定事項だ。ここからそう遠くもないし、この国の王に会っておいて損はないだろ」


そう言って口を片側だけ上げて笑うオレンジさん


私の意見まるで無視ですか?

まあ別にいいんだけどね…


「王都への道中、もっと200年前の世界の話を色々詳しく聞かせろ。今のこの国のことも教えてやるから」


確かに今のこの世界の話は聞いておきたい…。


「あーもうわかりました。まずは王都に向かいます」


諦めたようにガックリとうなだれる私を見て、満足気のオレンジさん


「救世主様、お訊ねしてもよろしいですか?」


今まで黙って私とオレンジさんの会話を聞いていた黒いローブの眼鏡さんが、恐る恐るといった感じで声を発した


「んー、お訊ねはしてもよろしいんだけど、そんなにかしこまられたら嫌だな」


「ですが救世主様に向かって…」


「まず私は救世主様なんて大層な存在じゃないし」


崇められるのとか柄じゃない。

それにそんな名前で呼ばれたら、恥ずかしさで死ねると思うし。


「救世主様は救世主様です。今さら色を取り戻したのが、あなた様のお力ではないとおっしゃるのですか?」


「そーいう事じゃなくて…。

私は私の出来る事をやった。その力がたまたま私にはあっただけなの。

それをそんなに畏まられたら少し寂しいなーって」


黒いローブの眼鏡さんに対して、思わず困ったような笑顔を浮かべてしまった。

ただでさえ200年も前の人間なのに、そんな救世主様なんて遠い存在にされてしまったら、寂しすぎるかなって…


「そこのオレンジさんみたいに、私のことは普通に「お前」とか言っちゃって下さいな」


そう言って、嫌味な笑顔をオレンジさんに向ける


「オレンジさんなんて妙な呼び方するな。俺はジェイフォードだ、ジェイでいい。

そっちの眼鏡がルディで、紺色の袴がサイラスだ」


さっきの私の嫌味はやっぱり完全にスルーされた


「ジェイにルディさん、サイラスさんね」


確認するように3人の名前を呼ぶ私に、オレンジ…ジェイから突っ込みが入った


「おい、何で俺だけ呼び捨てなんだよ」


「えっ…尊敬の有無じゃない?」


「てめえ…、まあいい。で?」


「で?って何が?」


「何が?じゃねーよ。

お前の名前はなんだって聞いてんだよ」


「ああそっか、ごめんごめん。

私は……」



…………私の名前は?




その名を呼んでくれた人達はもういない


私が自分で置いてきた


だったら、私の名前も彼らと一緒に残しておきたい


そうすればその名前を呼ばれる時だけは、置いてきた彼らと一緒にいられる


「私」は一人なんかじゃない




そんな事思っても仕方ない

今私はここにいるんだから


頭ではそうだと分かっていても、本当の名前を告げる事を心が拒否していた




「……さくら」




名前を考えた時、彼の残してくれたあの桜色の景色しか浮かばなかったから




「………さくら、か」


急に黙りこんで、たっぷりと間をあけてしまった事には触れず、ただそう呼んでくれたのが有り難かった


ジェイは意外と優しい人なのかもしれない…なんて




「そうだよ、私はさくら。

ルディさんもサイラスさんも「さくら」って呼び捨てにしちゃってね。ついでに敬語も禁止ーっ」


重く沈んだ気持ちを吹き飛ばすように、無駄に明るい口調で3人に言う


「そんな救世主様に向かって…」


「だーかーらー、さくらだってば」


「ですがっ」


あーもうじれったい…こうなったら。


「ひどい…こんなにお願いしてるのに…、私のお願いは聞いてくれない…の?」


必殺、泣き落とし。

涙声で目にも涙ためて、もちろん上目遣いで相手を見つめる


自分でやってて恥ずかしいけど、これ意外と効果あるんだよね。


「うっ………、そういうわけじゃないですよ?ではお言葉に甘えて、さくらと呼ばせていただきます」


顔を少し赤らめながら困ったように言うルディさん


おー、200年後でも泣き落としは通用したよ


「サイラスさんも呼んでくれる?」


それまで全く声を発さなかったサイラスさんにも聞いてみると、ちゃんと頷いてくれた




「話もまとまったところで、移動するか。ここから近いところに街があるから、今夜はそこで休もうぜ」


「はーい」


立ち上がりながら言うジェイに、私も軽い返事をして続く


すると座ったままのサイラスさんがポツリと一言


「さくら、俺は頭突きは苦手だぞ」


それだけ言うと、立ち上がってスタスタと歩いて行ってしまった


…………は?


「えっ?なんで今頭突きの話が出てくるの?」


意味がわからない。

突然何を言いだすのサイラスさんっ


私が混乱してると、ジェイが苦笑いしながら教えてくれた


「お前に石頭って言われたこと、ずっと気にしてたんだろーよ」


………


さっきの自害するーって騒ぎの時に私がサイラスさんに石頭って言ったから、自分は頭突きが苦手だとわざわざ教えてくれた…ってこと?


なにその天然っ

しかもこのタイミングっ


サイラスさんって実はものすごく頭弱い感じのキャラっ?


見た目あんなにいかつくて、口数も少なくてクールで、天然って……キャラ的にドストライクなんですけどっ。

サイラスさんの素敵キャラにテンションが上がりまくる私


「戦闘モードじゃない時のサイラスは…そういう奴だ」


ジェイは困ったように言うと、サイラスさんの後を追って歩いて行った






「あっ、そういえばさっき何か私に聞こうとしてたよね?」


残ったルディさんに聞いてみた。

さっき救世主様うんぬんで、完全に話題それちゃったから…


「ああはい。最初に出会った時、どうしてわざわざ私達に攻撃を仕掛けたんですか?」


「そのことね。寝起きでイライラしてたから…っていう説明じゃ不満かな?」


「不満ですね。その割には攻撃に感情を感じられませんでした」


「ありゃー。そこまで断言されたら白状すると、理由は2つ。

まず1つ目は、私は200年後のこの世界の事はなにも知らない。戦闘力の水準なんかも。

だから毎日きちんと鍛えられていて、なおかつ上等な洋服を着てるあなた達の力を見れば、だいたいの水準がわかると思った。


2つ目は、初対面の人と会った時その人がどういう人達なのかを知る一番分かりやすい方法が、直接戦ってみる事だから」


実はただ桜の景色を邪魔された腹いせだけじゃなかったのです。


「…やはりあなたを見かけや言動だけで判断したら、痛い目にあいますね。

で、どうでした?戦ってみて」


「ルディさんとサイラスさんは、ジェイの為なら自分の命を捨てる覚悟が出来てる。そういう信頼関係があるんだなって。

だから悪い人達じゃないだろうなーって思ったよ」


だって私とジェイとを結ぶ直線上に、常にルディさんとサイラスさんはいたんだもん。

その位置で戦うのにも慣れてる感じだったし


「…戦闘力の水準の方は?」


「200年前と変わらなくて…実は少し残念だった。たとえ戦争がなくても、きっと物騒な世界なんだろうなーって」


「確かに平和であるとは言い切れませんが…魔人種との戦争の頃よりははるかにましだと思いますよ。なので安心してください」


「すいません、なんか偉そうに」


「いえいえ、でもまあ絶対にさくらを敵にはしたくないとは思ってしまいましたけど」


そう言ってルディさんは笑った。

今までは眼鏡が冷たく光ってたルディさんが初めて笑ってくれたよ。嬉しいかも



「あーじゃあ私からも質問いい?」


実は少しだけ気になってた事があった


「私に答えられる事でしたら喜んで」


「私が本当に色を取り戻したのかまだ分からないあの段階で、どうしてジェイと私の二人をここに置いていったの?あの時は私まだ怪しい人物だったでしょ」


いくら私が気絶してたからって、命をかけても守りたい人と突然現れた危ない奴とを簡単に二人にするような人には思えない


「それは…。あなたにとっても私達が敵か味方かわからないあの状況で、あなたは平気で魔法を使いすぎて気絶した。

そんな無防備な事が出来るのは、私達があなたに危害を加えないと分かっていたからでしょう?

だからこちらも安心したわけです」


「なるほどー」


「それに…ジェイの人を見る目は確かですし」


「ふふっ、それが本音ってとこだね」


付け足したように口にしたその台詞に、思わず笑ってしまった。

だって絶対にそっちが本当の理由だと思ったから


私が無防備だったとかは、後付けの理由にすぎない。

ジェイが私は大丈夫だと判断したから、迷わずそれを信じた…と。

うん、それなら納得



「……さくらってかなり腹黒いですよね」


優しく笑いながら言うルディさん


「なんでそうなるのーっ?ひどいーっ」


「冗談ですよ。だいぶ長話になってしまいましたね、そろそろ私達も行きましょうか」


クスクスと笑いながらも、ルディさんは歩いて行ってしまった


絶対ルディさんだってお腹の中は真っ黒だ…






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