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とりあえず神殿の中に移動して、今は話し合いの真っ最中……なはずなんだけど
沈黙が痛いです。
神殿の一番奥で地面に直接私が座って、斜め両隣に紺色袴さんと黒いローブの眼鏡さん
私の正面にオレンジさんが座って、ひし形を作ってる感じ
改めて見ると、この3人は物凄くイケメンだって実感する。
紺色袴さんはいかにも戦う男っていう雰囲気で、ワイルドさが半端ない。
黒いローブの眼鏡さんは、典型的な爽やかインテリイケメンって感じ。
そして圧倒的に顔が整っているのはオレンジさん。
誰に聞いても迷わず美形だと認めざるをえないような、そんな顔立ち
なんかムカつく
なんてどうでもいい事を考えている間にも……両隣から漂うあからさまな敵意
オレンジさんはニヤニヤ笑って私を見てるし
……私が話しだすしかないっていう事ね。
「えっと…まず謝ります。いきなり吹っ飛ばしてごめんなさい」
紺色袴さんに頭を下げる
そしたら思いっきり睨み付けられた。ううー
「寝起きで不機嫌だったんだよ。低血圧かなーなんて……ごめんなさい。
で、私が何者かって話なんだけど、この世界に残ってる情報がどれくらいだかわからないから説明が難しいんだよね。
オレンジさんは私が何者かって分かってるんじゃないの?」
だってあの余裕そうな態度は、そうとしか考えられない
助け船を出してもらおうと思って話をふったのに、返ってきた返事は
「さあな」
の一言だった。
嫌味な笑顔つきで
オレンジさんやっぱ性格悪い
「もういいですよ…。じゃあこの世界に「色がなくなる」みたいな言い伝えとかない?」
「言い伝えも何も、実際に色がなくなってるな」
さらっと答えるオレンジさん
って実際になくなってるの?
「えっ…ちょっと待って」
そう言って目を閉じ集中して魔力を辿る
…………………
「本当だ、侵食が始まって2週間ちょっとって所か。私寝坊しちゃったみたいだね」
「なっなにを」
「ルディ、黙ってろ」
「ですがジェイっ…」
まだ反論しようとする黒いローブの眼鏡さんだったけど、オレンジさんに睨まれて不服そうに口を閉じた
「説明するより直接見せた方が早いね。という事で、今から色を取り戻すから。」
何か言いたげな人達を無視して、再び目を閉じ集中する
そして200年程前と同じ要領で、世界中に置いた晶結石に魔力を流し込む
晶結石に力が戻ったのを感じて、魔力を流すのを止めて目を開けた瞬間、目の前がぐらつき、
私は意識を失った
――――――――――――
「んっ…」
「気が付いたか?」
心地よい低いテノールの声にうっすらと目を開けると、目の前に広がるオレンジ色
「気分はどうだ?」
耳もとで囁かれる低音
いやいやいやっ…これはどういう状況よっ。
慌てて体を起こして体勢を確認する
壁にもたれて座っているオレンジさん。その両足の間に座り、オレンジさんに抱きしめられるように座っている私
えーっと…
「とりあえず…なぜこんな体勢なのでしょうか」
「俺がしたかったからだ。問題あるか?」
淡々と聞く私に平然と答えるオレンジさん。その間も私を抱きしめる手の力はゆるまない
……………
「問題は…あるに決まってるでしょうがっ」
そう言って、魔法で全身に雷を流した
「うおっ、痛てーじゃねえか」
雷によってオレンジさんの力が弱まった隙に立ち上がり、距離をとる。そんな私を見て、口を片側だけ上げ笑っていたオレンジさん
「で、気分はどうだ?」
その優しい口調に毒気を抜かれ、一定の距離を保って警戒しつつ、オレンジさんの隣に座った
「目覚めた時の体勢を除けば…体調に問題はなさそう」
「それは良かった」
私の嫌味はさらっと無視された
「いい性格してるね…。それで、私どれくらい気を失ってた?」
「半日程だな。いきなり倒れたから驚いたぞ」
「ごめんなさい…ご迷惑おかけしました。原因はやっぱり魔力の使いすぎ?」
「ああ」
魔力は人によって使える量が決まっている。その量とは先天的に決まっているもので、一般的には実力のある魔導士の子供は魔力の量も多いと言われている。
そして自分の使える魔力量を越えて魔法を使ってしまうと、さっきの私のように気絶してしまうのだ
「そりゃあれだけ使えばオーバーもするよねー」
「分かってるなら使うな」
「だってー…。ところで後の二人は?」
さっきから紺色袴さんと黒いローブの眼鏡さんの姿がない
そして関係ないけど、私の中でこのニックネームが定着しつつある…。
我ながら安直すぎるとは思うけど、ニックネームは分かりやすいに越したことないし。うん。
「あいつらは本当に色が戻ってるのか確かめに行った。もうすぐ戻ってくるだろ」
「あーなるほど。じゃあここで待ってようか」
私がそう言うとオレンジさんは黙り込んだから、ここで待ってるって事なんだと解釈して私も静かに座って待つ事にした
それにしてもオレンジさんと私を残していくとは…
私が気絶したのが悪いんだけど。うーん…
それから数分くらい経って、人が近付いてくる気配を感じた
「あっ、戻ってきたかな」
二人を出迎えようと立ち上がり、神殿の入り口に向かって歩いていった
扉を開けた紺色袴さんが私の姿を見た瞬間、その場で膝をついてまくしたてるように言った
「救世主様に斬り掛かるなど、自分のした行為は決して許されるものではありません。償いきれぬ罪とは承知の上ですが、この命をもってせめてもの償いを」
言い終るやいなや、自分の剣をお腹にあてて自害しようとする
後ろにいた黒いローブの眼鏡さんも同じように膝をついて、短刀をお腹にあてている
「いやいやいやっ、待って下さいっ。そんな罪だなんて思ってないし、そもそも先に手を出したの私だしっ」
慌てて二人を止めようと焦った
「なんと懐の広い…ですが罪は罪。償わねばなりません」
「だから罪なんかじゃないんだってば」
「いえ、決して許される行為ではありません」
頑なに私の言い分を受け入れようとしない。
あーもうっ、話が通じなくてなんかイライラしてきた。
「だから私がいいって言ってるんだからいいんだってばっ、この石頭っ」
「なっ…石頭…」
やば…つい口がすべっちゃった。二人は膝をついたまま呆然と私を見てるし
「ククッ…石頭か…っ。
まあ本人がこう言ってるんだ。それくらいでいいんじゃねえか?ここでお前らに死なれても、こいつが気にするだけだろ」
必死に笑いを堪えながらも、二人を説得してくれたオレンジさん
……そこまで笑わなくても
「はいっ。ということで、この話はおしまい。色々と説明する事があると思うから、中に入ろ?」
無理矢理話を終わらせて、二人の腕を引っ張って立ち上がらせた。
そしてそのまま神殿の奥まで、腕を掴んだまま引きずるように連れてきた
「だが…」
「その話はおしまいだってば。ね?」
まだ何か言いたげな紺色袴さんに、笑顔を向ける
神殿の奥に無理矢理二人を座らせて、私も座った
後からきたオレンジさんもそれに続く
「それでは始めましょーか。
あっ、その前に確認。ちゃんと色は戻ってたんだよね?」
黒いローブの眼鏡さんが頷いたのを見て、安心した
「良かった…。
では改めて、私の知ってる事を説明します。ちょっと長い話になっちゃうけど…」
そう前置きをして私は話し始めた――