トンネル
職場の先輩が大嫌いだ。
脳筋の体育会系なうざ男。
自称やんちゃの不良崩れで32歳のプリン頭。
せめて毎月一度全部染めろと僕は思う。
心霊現象は苦手な僕を長期休暇の度、心霊スポットへと連れていく・・・僕の予定も都合も聞かず、無理やりにね。
何故僕はこんなアホに目を振り回されなきゃと毎回思う。
でも理由は分かっている・・・僕は弱いからだ。
腕力じゃ勝ってない。
お盆休みなのに無理やり心霊スポット探索をしている。
福井県まで来て・・・
「おい!・・・早く来いバカ!」
先輩は僕を怒鳴る。
「はい・・今行きます・・・高野先輩」
「本当鈍いな・・・てめえは・・」
「すみません」
僕の軽自動車で福井県まで来たにも関わらず、ガソリン代、宿泊代も全部・・・僕持ち。
おまけに先輩が僕を性欲のはけ口にする。
色白で身長も低く、細身、眉毛が長い僕は先輩のおもちゃだ。
何度も殺そうと思った、何度も口でかみ切ろうと思った・・・
でも僕は弱い。
色んなことを考えながら夜中の3時になった。
「ここ・・旧〇陸トンネル、女性の幽霊が出るらしいぜ・・・」
「はい・・・」
「お前は先に入れよ・・な」
「はい・・・」
車を近くに止めて、歩いてきた僕たち。
トンネルの中は暗くない・・・電気が付いている。
それでも怖い・・何故かすごく怖い。
幽霊は出てこないが、夏の蒸し暑さよりひどい暑さを感じている。
先輩が立っているトンネルの入り口の外が暗く、反対側の入り口がなぜか昼間のように明るい。
半分まで来た僕は気づいた。先輩には見えてないらしい。
「高野先輩・・・これはおかしいです・・・トンネルの反対側が明るいです」
僕は叫ぶ。僕の声はこだまのように響く。
「何バカなこと言ってんの、てめえは?」
「来てください・・・トンネルの半分まで来れば、分かります」
「嘘だったらボコボコにするぞ!!」
僕は既に身も心もボコボコにされている。
2時間ほど前、人通りのない道で、車の中でやられて、まだお尻が痛い。
先輩がイライラしながら僕の隣に来た。そして僕の言ったことが本当だったと分かった。
「なんだ・・これは?!」
「分かりません・・」
「お前・・・見に行けよ・・」
「はい・・・」
僕は反対側の入り口まで歩き、トンネルを出た。
本来見えるはずのアスファルトの道がなく、まるでジャングルに入ったようだった。
夏の蒸し暑さと比べ物にならない蒸し暑さを感じた。
「先輩来てください!!信じられない風景です!!」
僕は叫んだ。
そして僕は叫んだと同時、大きな獣の咆哮が聞こえた。
先輩には聞こえなかったようだ。
「わああ・・・暑ッ!!」
「ここは日本じゃないです・・異世界ですかね?どう思います、先輩?」
「うるせぇ!動画を撮って、ユーチューブでアップするぞ!!異世界に来たってな!!・・・てめえも撮れよ!!」
「はい・・・」
地面が揺れる・・・何かとてつもない大きな何かこちらのすぐ近くに来ている。
「なんだ!!?」
「逃げましょう、先輩!!」
「俺は逃げる・・・てめえは動画を撮れ!!」
先ほど聞いた咆哮はすぐ僕たちの隣で聞こえた。
耳が壊れるのではないかと思えるほど大きかった。
先輩はトンネルに戻ろうとしたが、大きな何かの巨大な口が、先輩を襲って、飲み込み、噛み始めた。
先輩の悲鳴・・もとい断末魔とぐちゃぐちゃに体がかみ砕けている音も今でも耳に残っている。
僕はその大きな何かを見た。
僕は特別に博識というわけではないが、その何かの名前は知ってた。
「ティラノサウルス・・・」
その恐竜の大きな暗灰色目が僕を見た。
冷たい目だった。僕はまるで眼中にない、いないかのように。
かみ砕いた先輩の体を飲み込み、僕に背を向けて、ジャングルの中へ戻っていった。
僕は恐怖でしばらくそこに立っていたが、気づいたら1時間が経っていた。
立っていた場所はアスファルト舗装の道だった。
トンネルを通り、車のところまで戻り、僕は関東にある自宅へ戻った。
僕は自由だ。
ホラー・SF要素の短編。