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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第三章

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『剣聖リアムと呪縛の呼び声』- 7

 ジャレッドの背後に立った影は、彼から短剣を引き抜くと、付着した血を無造作に払い落とした。

 ドサリ、と重い音が響く。

 それが、ジャレッドだったものだとは、すぐには理解できなかった。


「さて」


 闇の中から現れた男――魔族は、退屈そうに次の標的へ視線を流した。

 その輪郭が、揺らぐ。

 認識できた時には、もう一人の仲間の首が、不自然な方向に折れ曲がっていた。

 悲鳴さえ上がらなかった。


 ただ、人体が地面を叩く音だけが連続する。


 僕の身体は、石になったように動かない。視界の端で、カインが傷ついた肩を押さえながらオークの群れを押し留めているのが見えたが、それすらも磨りガラス越しの出来事のように遠い。


 静寂が戻った時、魔族は初めて僕を見た。


 整いすぎた顔立ち。そこには殺意も悪意もなく、ただ路傍の石を見るような冷徹さだけがある。

 記憶の蓋が開く。僕の全てを奪った、あの時の目だ。


「……あ……」


 喉から空気が漏れる。

 魔族は、興味深そうに首を傾げた。


「おや。見覚えのある魔力ですね。……ああ、思い出しました。二年前に巣を掃除した時、逃した虫けらだ」


 その淡々とした声が、僕の生存本能を直接叩いた。


(逃げろ)


 身体が勝手に弾かれた。背を向け、無様に地面を蹴る。


「どこへ?」


 耳元で声がした。

 速い、とかいう次元ではない。

 終わった、と悟る暇さえなかった。


 キィン!


 硬質な金属音。

 僕の首を刈り取るはずだった短剣を、横から割り込んだ刃が弾いていた。


「……よそ見をするな」


 カインだった。

 全身から血を流しながらも、僕と魔族の間に立ち塞がっている。その背中は、いつもより小さく見えた。

 魔族は視線をカインに移すと、値踏みするように目を細めた。


「ほう」


 カインは吠えなかった。

 ただ、無言で踏み込み、最短距離で剣を走らせる。

 魔族は避けない。無造作に左腕を掲げただけだ。

 ガキン、と嫌な音がして、カインの剣が魔族の腕の肉に食い込み、骨で止まった。


「なかなか硬い。これは、少しは楽しめそうだ」


 腕を斬られたというのに、魔族は痛みなど感じていないかのように平然と言った。

 その異常性が、逆に僕の頭を冷やした。


(―――目的があったから、ここまで来れたんだろう)


 カインのいつかの言葉が、脳裏をよぎる。

 震える手で、剣を握り直す。


「カインさん」


 僕が並び立つと、カインは視線も向けずに、口の端だけで笑った。


「……遅いぞ」


「すみません」


 合図はなかった。

 カインがわざと隙を作り、魔族の注意を引く。

 その、刹那。


 僕は練り上げた魔力の全てを、剣身に乗せた。

 光の帯となった刃が、魔族の喉元へと突き進む。


 だが。

 魔族は、まるで散歩の途中で水たまりを避けるかのように、わずかに上体を逸らしただけだった。


「……それが、君の切り札ですか」


 魔族の声には、落胆すら滲んでいた。

 光の刃は空を切り、僕の胴体は無防備に晒される。

 魔族の短剣が、正確に僕の心臓を捉えた。


 ザシュッ。


 肉を裂く、湿った音。

 だが、痛みはない。

 目の前には、僕を庇うように割り込んだ、カインの背中があった。

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