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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第三章

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『剣聖リアムと呪縛の呼び声』- 4

 カインに彼の過去を聞いて以来、僕の内面では、彼の言葉が静かな波紋のように広がり続けていた。

 村での生活は変わらない。子供たちは相変わらず僕に懐き、大人たちは僕を仲間として扱ってくれる。だが、僕はまだ、彼らの輪の中に、本当の意味で溶け込めているわけではなかった。


 あの日から数日後、カインは再び僕を広場に誘った。


「もう一度付き合ってくれ。今度は、本気で頼む」


 その真剣な瞳に、僕は断ることができなかった。


 木剣が交差する。

 乾いた音が広場に響いた。

 僕の剣は流麗だ。カインの猛攻をいなし、受け流して弾く。

 士官学校で叩き込まれた剣筋が、僕の意思とは無関係に最適解を導き出していく。


 カインの口元に獰猛な笑みが浮かんだ。


「……やるじゃないか」


 彼は一度、大きく後ろへ跳んで間合いを取る。


「だが、ここから少し本気を出す」


 その言葉を合図に、カインの纏う空気が一変した。

 立ち上ったのはどす黒い、濃密な殺気。

 それはただの威圧ではない。死線を幾度も乗り越えた猛者だけが放つ、純粋な殺意。


 ―――僕の世界から、音が消えた。


 心臓が、耳元で鳴り響く。

 呼吸が、止まる。

 目の前のカインの姿が、あの日のダークエルフと重なった。


(……だめだ、こわい、死ぬ……!)


 カキン、と軽い音。

 僕の手から木剣が滑り落ちた。

 カインは、はっとしたように殺気を消した。


「……すまん。やりすぎたか」


 彼の声は、いつもの穏やかなものに戻っていた。

 だが、僕はその場に膝から崩れ落ちていた。

 立てなかった。全身が、恐怖で震えていた。


 その夜、僕は高熱を出して寝込んだ。

 悪夢にうなされ、何度も叫び声を上げたらしい。

 子供たちが心配そうに僕の部屋を覗き込んでいるのが、朦朧とする意識の片隅に見えた。


 翌日の夕方、ようやく熱が引いた僕がぼんやりと焚火を眺めていると、カインが隣に静かに座った。

 しばらく、二人とも、ただ黙って炎がはぜる音を聞いていた。


 やがて、カインが静かに口を開いた。


「……リアム。お前の悩みを聞かせてくれないか?」

「……悩み、ですか? ……別にお話しすることはありません」


 僕がそう答えると、カインは見透かしたように笑った。


「俺たちは、もう仲間だろう。それとも、そう思っているのは俺だけか?」


 その、あまりにも真っ直ぐな問い。


「いえ! ……そんな」


 僕は、慌てて首を横に振った。

 そうか……昼の立ち合いで見透かされたのか。僕の過去(トラウマ)を。


 焚火の炎を見つめる。

 あの出来事は、僕の犯した罪だ。誰に話すこともなくずっと、自分の中に押しとどめてきた。だが、カインさんには言ってもいいのかもしれない。この人になら。


 僕は一度深く深呼吸し、そして押し込めていた心の蓋を開けるように、静かに話し始めた。


「あれは……もう、二年近くも前の話になります――」

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