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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第三章

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『剣聖リアムと呪縛の呼び声』- 2

――東門の老門番に会う、少し前のことだった。


 王都の冒険者ギルド。その薄暗い酒場の隅で、僕は依頼掲示板を眺めていた。

 探しているのは、いつも同じだ。単独任務ソロクエスト。しかも相手はゴブリンやコボルトなど、最下級の魔物だけ。


 だが掲示板に並ぶのは、オーガ討伐やワイバーン調査といった、腕利きのパーティでなければ無理な高難易度の依頼ばかりだった。


「ちっ……」


 思わず舌打ちが漏れる。

(どこのギルドも同じだな。魔物の動きが活発化しているって話は本当か……)


 ため息をついた、その時だった。


「すみません」


 背後から、まっすぐな声がした。

 振り返ると、まだ少年の面影を残した若い剣士が立っていた。新品の装備に、真っ直ぐな瞳。


「パーティを探していませんか? 僕たちの前衛が一人足りなくて。よければ一緒に――」


 あまりにも真っ直ぐな誘いだった。

 だが僕はすぐに首を振ろうとした。パーティ。仲間。その言葉は、僕の古傷を抉る呪いの響きを持っていた。


 だが、返事をするより早く、横から別の声が割り込んできた。


「おいおい、ルーカス。そいつが誰だか知ってて誘ってんのか?」


 体がびくりと強張る。

 声の主は、かつての学友――ジャレッドだった。

 鋼の鎧に飾り立てた長剣。いつも通り、見た目だけは立派な男。


「え? ジャレッドさん、この方は?」


 ルーカスが困惑した顔で尋ねると、ジャレッドは芝居がかった声で言い放った。


「知らねえのか? こいつがあの有名な――『ゴブリン狩りの偽剣聖』リアム様だよ。学生時代の仲間を皆殺しにしたって噂の臆病者さ」


 その名が響いた瞬間、酒場の空気が凍りついた。


 ルーカスの顔から血の気が引く。困惑と恐怖が入り混じった視線を僕に向け、やがて小さく頭を下げた。

「……すみません。知らなかったとはいえ、失礼を……」


 そう言い残し、逃げるように去っていった。残ったのは冷たい視線と重い沈黙だけ。


 ジャレッドは満足げに一歩近づき、口元を歪めた。

「まだ冒険者なんてやってたのか。てっきり田舎で剣術指南でもしてると思ってたが」


 その言葉が、胸の奥に刺さった。


 ――血に濡れた仲間たちの顔。

 ――ダークエルフの、氷のような嘲笑。


 『……殺す価値もない』


 ――あの時、自分の剣が鉛の塊のように重く感じた。絶望の感覚が、蘇る。


「……っ」


 息が詰まり、思わず一歩後ずさる。

 ジャレッドは鼻で笑い、踵を返した。


「おっと、失礼。どうやら主席様はオーガ狩りはお嫌いらしい。じゃあな」


 笑い声を残して、彼らのパーティはギルドを出ていった。


 僕も外へ出た。

 あてもなく、王都の雑踏をさまよう。


 本当の強さなど、もうない。

 あの魔族に踏み砕かれた。

 残っているのは、ゴブリンを狩るだけの偽りの力と、消えない忌み名だけ。


 ――そして、僕は東門へたどり着いた。

 そこに、一人の老門番が立っていた。


『あんたの剣が、本当に守るべきものを見つけ、あんた自身の魂を守る盾となることを祈っている』


(……盾、だと? 僕の剣が……?)


 僕は、門番に教えられた北の道を黙って歩き出した。

 その言葉の意味はわからない。

 だが、王都に居場所を失った僕にとって、それは唯一の、そして最後の道標のように思えた。

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