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書籍化:門番の俺のスキルが【見送る】だけのゴミスキルだったので、真面目に定年まで勤め上げたら、いつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第二章

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『傭兵ボルグと二つの正義』 - 13

 王都の喧騒が少しずつ、平穏を取り戻し始めた頃。

 東門はヴァレリウス伯爵の命令により固く閉ざされ、物々しい空気に包まれていた。ヨハンは、その門の前でただ静かに空を眺めていた。

 彼の耳にも噂は届いていた。エルリック伯爵が王の勅許を得て、十年前に解体されたあの伝説の騎士団を再結成させたという噂が。


(……そうか。あの男が、ついに……)


 その時だった。

 門の外から、一騎の馬が堂々とこちらへ向かってくるのが見えた。

 衛兵たちが慌てて槍を構える。

「止まれ! 何者だ! 現在、王都の門は全て封鎖されている! 通行は許可できん!」


 騎乗の男はゆっくりと馬を止めると、その胸に輝く盾とグリフォンをあしらった、真新しい紋章を衛兵たちに見せつけた。


「エルリック伯爵家預かり、遊撃騎士団『白銀のグリフォン』が団長、ボルグだ。門の警備状況を確認しに来た」


 そのボルグの様変わりした威厳に、衛兵たちは、ただあっけに取られている。

 ボルグはそんな彼らを一瞥すると、馬を降り門番小屋の前に立つヨハンの前へと歩み寄ってきた。


 ヨハンはその姿を感慨深げに見つめていた。


「……見事な、紋章だな」

「爺さんのせいで、えらい目に遭ったぜ」

「そうか」


 ヨハンは全てを察したように、静かに頷いただけだった。

 ボルグは、懐から革袋に包まれた小さな薬瓶を取り出した。


「リーナから、言伝だ。『ヨハンさんのおかげで、師匠を助けることができました』、ってよ。……礼だそうだ」


 ヨハンは、そのポーションを静かに受け取った。

 その、瞬間だった。

 彼の脳裏に立て続けに、澄んだ音が響き渡った。


《ピーン!》

《対象者リーナの旅路に一つの結末を観測。経験値を【獲得】しました》

《スキル【見送る者】のレベルが54に上がりました》

《新たな能力**『見送った薬師が調合する、解毒剤の効果が、ほんの少しだけ高まる』**を【獲得】しました》


《ピーン!》

《対象者ボルグの旅路に一つの結末を観測。経験値を【獲得】しました》

《スキル【見送る者】のレベルが55に上がりました》

《新たな能力**『見送った傭兵が、守るべき対象への奇襲をほんの少しだけ早く察知できるようになる』**を【獲得】しました》


《ピーン!》

《対象者ギデオンの旅路に一つの結末を観測。経験値を【獲得】しました》

《スキル【見送る者】のレベルが56に上がりました》

《旅人の魂の変革を観測。獲得済みの能力が世界の『理』の一つ、**【真義の理】**へと【昇華】しました》


「……なんだ、爺さん。急に黙り込んで」


 ヨハンは、ゆっくりと顔を上げた。


「……いや。あんたたちの旅が、ようやく、本当の結末を迎えたようだからな」


 その全てを見透かしたような言葉に、ボルグは一瞬面食らったような顔をした。

 ヨハンは騎士団長となったボルグの顔を、真っ直ぐに見据えた。


「……あんたの隣で重い覚悟を決めた、もう一人の男がいるはずだ。 あの、実直な騎士殿はどうしている?」

「……ギデオンのことか。妙なところで鋭い爺さんだ。……あいつはうちの副長だ。不本意ながらな」

「そうか」


 ヨハンは、にっこりとほほ笑み、頷いた。


「……あの騎士殿は、あんたとは違うはかりで正義を量る男だ。その違いが、きっとそなたの役に立つときが来るだろう」

「へっ。あの石頭がか? ……まあ、覚えておくよ」


 ボルグはそれだけを言うと、踵を返した。

 ヨハンはその十年ぶりに再び「団長」となった男の静かな炎を宿した背中を、ただ見送った。

 王都を覆う嵐は、まだ始まったばかりだ。

 だがその嵐の中で、彼が見送った者たちが確かに光となり始めている。

 ヨハンはゆっくりと立ち上がると、門の前を掃き清め始めた。

 次なる旅人を、見送るために。彼の仕事はまだ終わらない。


 一度は折れたその気高きグリフォンの翼が、今度こそ折れることなく大空を羽ばたけるようにと。

 彼はただ、静かに祈った。

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― 新着の感想 ―
これ善悪逆転したら全ての惨劇の裏で糸を引いてる黒幕の更にその後ろで運命を操る黒幕みたいな感じになりそう
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