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書籍化:門番の俺のスキルが【見送る】だけのゴミスキルだったので、真面目に定年まで勤め上げたら、いつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第二章

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『傭兵ボルグと二つの正義』 - 10

 錆びついた昇降機が、軋む音を立てて最下層へとたどり着いた。

 リーナは息を殺して、闇の中へと一歩踏み出す。

 ひやりと冷たい、湿った空気。遥か上から聞こえていた夜会の喧騒はもう届かない。ここにあるのは、石と鉄と絶望の匂いだけだった。


(……師匠は、どこに)


 アリサから渡された見取り図を頼りに、壁を伝って、独房が並ぶ通路を進んでいく。松明の明かりが、彼女の不安げな顔を頼りなく照らしていた。


 やがて見つける。通路の最も奥、ひときわ頑丈な鉄格子がはめられた一つの独房。

 その中に師はいた。

 汚れた囚人服を着て、壁に静かにもたれかかっている。だがその姿は、少しも衰えてはいなかった。ただ、深く目を閉じているだけ。

「師匠……!」

 リーナが駆け寄ろうとした、その時だった。


「―――見つけたぞ! 曲者め!」


 通路の反対側から二人の騎士が、剣を抜きながら現れた。ギデオンがボルグに足止めされている間に、独房へと向かった者たちだ。


「小娘一人か。舐められたものだな」

「だが、これで手柄は俺たちのものだ。ヴァレリウス伯爵閣下も、お喜びになるだろう」


 騎士たちは下卑た笑みを浮かべると、リーナには目もくれず独房の鍵を開け始めた。


「師匠に、何を……!」

「黙っていろ、小娘。こいつには、これから聖女様による、特別尋問が待っているんでな。少し手荒になる前に、別の場所に移すだけだ」

 鉄格子が軋みながら開かれる。騎士の一人が乱暴にイズミエールの腕を掴んだ。

 その、瞬間だった。


「―――離しなさい、下郎」


 それまで微動だにしなかったイズミエールが、その切れ長の瞳をカッと見開いた。そして騎士の腕に、獣のように鋭く噛みついた。


「ぐわっ! この、アマ!」


 あまりの痛みに、騎士が腕を振り払う。


「リーナ! 逃げなさい!」


 師の絶叫。

 逆上した騎士は痛みと怒りに顔を歪め、腰の剣を抜き放った。


「……てめえ、ただで済むと思うなよ……!」


 その切っ先が、無防備なイズミエールへと振り下ろされる。


「―――やめて!」


 リーナは考えるより先に動いていた。

 師の前に、自らの体を投げ出すようにして割り込む。

 迫りくる鋼の刃。

 死を覚悟した。


 だがその刃がリーナに届くことは、なかった。

 ゴッ! という鈍い音。

 騎士の身体がくの字に折れ曲がり、壁に叩きつけられて意識を失った。


「……ふぅ、間に合ったか」


 背後から聞こえたのは、聞き慣れたぶっきらぼうな声。

 もう一人の騎士が驚愕に目を見開くその顔面に、ボルグの鉄槌のような拳がめり込んでいた。


「さて、と。長話は後だ。ずらかるぞ」


 ボルグは肩の傷を押さえながらも、不敵に笑った。

 リーナはその逞しい背中を見つめ、こらえていた涙が一筋頬を伝うのを止めることができなかった。

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