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書籍化:門番の俺のスキルが【見送る】だけのゴミスキルだったので、真面目に定年まで勤め上げたら、いつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第二章

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『傭兵ボルグと二つの正義』 - 4


「アイオン教会の高位神官であらせられるセラフィナ様が、この国のために、わざわざお越しくださったのだ」


(これが、あの聖女セラフィナ……!)


 そのあまりにも美しい佇まいと、噂に聞く血のように赤い瞳。

 そして、彼女が放つ異様なほどの威圧感。ギデオンは息をのんだ。


「お初にお目にかかります、ギデオン卿」

「これは、ご丁寧に」


 ギデオンが頭を下げると、セラフィナはにっこりと天使のように微笑んだ。


「さて、では準備をしましょう」

「準備……ですか?」

「ええ、神の信徒が愛を受け入れるための準備です」


 セラフィナはそう言うと、てきぱきと道具を並べていく。

 大小さまざまな小刀、ペンチ、針……。どうみても、拷問道具である。

 だが、セラフィナの表情は、まるで料理の準備をしているかのようだった。そのギャップが、ギデオンの背中を寒からしめた。

 

「……伯爵閣下。これはいったい?」


 ヴァレリウスは、顔面蒼白となったギデオンの肩にそっと手を置く。

「なに、ちょっと聞きたいことがあってね。月光草を使ったポーションの製造方法だ。彼女がどうしても口を割らないものだから、こうしてセラフィナ殿にお越しいただいたのだよ」

「ですが、伯爵閣下! このような非人道的なやり方は如何なものかと」

「非人道的? 彼女は罪人だ。罪人に人権はない」


 ギデオンの声に、鋼のような硬さが混じる。

「……罪人であったとしても、このようなやり方は同意しかねます」


 その、あまりにも実直な抗議。それを聞いたセラフィナは、小刀の刃先を指でそっと撫でながら、ギデオンに向き直った。


「――騎士様は、神の御業に疑念を挟むのですか?」


 セラフィナに見据えられたギデオンは、押し付けられるような威圧感を感じた。

 表情は笑顔だが、笑ってはいない。セラフィナの赤い瞳の奥には、底知れない何かがあった。


「罪深き魂が嘘で塗り固めた『錠前』をこじ開け、真実という光を当てる。これは尋問ではありません。救済ですよ」

「……私には、救済とは思えません」

 ギデオンはその重圧に耐えながら、絞り出すように言った。


「やめておきなさい、騎士殿」


 静かな声が、牢の奥から響いた。イズミエールだった。

 ギデオンは殺気の重圧から解放され、どっと汗が全身から噴き出す。


「私に用があるのでしょう? であれば、無駄なおしゃべりは止めてこちらにいらして下さい」


 その、あまりにも堂々とした言葉。セラフィナの天使のような笑みが、より一層、恍惚としたより深い笑みへと変わった。


「ええ、ええ。その気概、素晴らしいですわ。その美しい喉から、どんな鳴き声が聞こえるのか……実に、楽しみ」


 セラフィナは楽しげに小刀を手に取ると、牢の扉へと向かう。

 ギデオンは反射的にその前に立ちはだかった。


「お待ちください、セラフィナ様。法の名の下に、これ以上の蛮行は許可できん」

「法、ですか」


 セラフィナは、心底おかしそうに首を傾げた。


「これは困りましたね」


 セラフィナの姿がかすめた――と思った刹那、小刀の刃先がギデオンの耳朶に触れていた。

 一滴の赤が、ゆっくりと首筋を伝う。


「選びなさい、ギデオン卿」


 耳元で囁くセラフィナの声は、先ほどと同じ天使のような響きを保っている。


「そこを退くか、このままゆっくりと切り刻まれるか?」


 その恍惚とした囁きに、ギデオンは眉一つ動かさなかった。ただ、毅然とした態度で静かに告げる。


「許可、出来ません」


 その、あまりにも変わらぬ答え。

 ふい、と。

 セラフィナの顔から恍惚とした笑みが、まるで仮面が剥がれ落ちるように消えた。彼女は興味を失った子供のようにすっと小刀を収めると、ギデオンから身を離した。


「セ、セラフィナ様!」

 ヴァレリウスが、慌てて声を上げる。


「気が削がれましたわ」

 セラフィナは心底つまらなそうに言うと、ヴァレリウスに冷たい視線を向けた。


「明日までに、この女の口を割らせることができたなら、貴方の意向を尊重してあげましょう。ですが、それができなければ――」


 シュッ、という微かな風切り音。

 ギデオンの頬に、一本の赤い線が走る。

 彼の背後の石壁に、カン!という硬い音を立てて小刀が深々と突き刺さる。


「それでは、ごきげんよう」


 セラフィナはそれだけを言うと、牢屋を後にした。

 ヴァレリウスは忌々しげに舌打ちをすると、ギデオンを一度だけ鋭く睨みつけ、慌ててセラフィナの後を追う。


 後に残されたのは、絶対的な静寂と壁に突き刺さった小刀、そして、頬から血を流すギデオンだけだった。


「……よろしかったのですか、騎士殿?」


 牢の奥から、イズミエールの静かな声がした。

 ギデオンは、何も答えられずに佇んでいた。

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― 新着の感想 ―
まあ、なろう作品の聖女は大抵こんな感じですよね。がんばれギデオン。
これが、聖女のする事か? ギデオン、頑張れ〜! W(`0`)W
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