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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第四章

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歴史学者エラーラと禁じられた発掘 - 7

 ――時を同じくして。


 隣のテントでは、マーティンが旅装を整えていた。

 壁画の拓本と、自身の手記を鞄に詰める。

 その手は震えていたが、迷いはなかった。

 これを持ち帰れば、自分は破滅するかもしれない。だが、知ってしまった以上、目を背けることはできなかった。


「……やるしかない」


 彼は自分に言い聞かせるように呟き、鞄の留め具を締めた。


「何をしているのですか? マーティン様」


 不意に、背後から声がかかった。

 クラリスだ。

 いつものおどおどとした様子で、入り口に立っている。


「ああ、クラリスか。……すまないが、予定を早めて出発する。君も準備をしてくれ」

「出発? こんな夜更けにですか?」

「一刻も早く、王都へ戻らねばならんのだ。この……『真実』を届けるために」


 マーティンは鞄を撫でた。

 クラリスは眉を下げ、心配そうに歩み寄る。


「でも……そんなことをなさっては、マーティン様のお立場が……。下手をすれば、異端として処刑されてしまいます」

「覚悟の上だ」


 マーティンは、穏やかな顔で首を横に振った。


「私は今まで、教会の権威を笠に着て生きてきた。だが、今日あの壁画を見て目が覚めたのだ。……私は、聖職者として、最後に一つだけ『正しいこと』をしたい」

「マーティン様……」

「クラリス、君を巻き込んでしまってすまない。だが、ついてきてくれるか」


 クラリスは、潤んだ瞳でマーティンを見上げた。


「……もちろんです。マーティン様は、とても立派な方ですもの」

「ありがとう……」


 マーティンは安堵の息をつき、彼女に背を向けた。

 孤独な戦いになると思っていた。だが、理解者が一人でもいてくれるなら、きっと戦える。

 そう思った、その時だった。



 ――ドスッ。



 鈍く、重い音が響いた。

 熱い衝撃が、背中から胸へと突き抜ける。

 マーティンは目を見開き、自分の胸元を見た。

 そこには、法衣を突き破って、赤く濡れた刃が生えていた。


「が……はっ……」


 鋭い痛み。

 口から血が溢れる。


 彼は膝から崩れ落ち、床を這うようにして振り返った。

 そこに立っていたのは、クラリスだった。

 にっこりと。

 目元を細め、心から楽しそうに微笑んでいる。


「な……ぜ……」

「残念です、マーティン様」


 クラリスは、血に濡れたナイフを引き抜くことなく、落ち着いた声で言った。

 彼女はゆっくりと眼鏡を外し、その唇の端を吊り上げた。


「せっかく、心が通じ合えたと思いましたのに。……貴方のような方が不都合な『真実』を見つけてしまったことが、本当に悔やまれます」


 マーティンの視界が霞む。

 薄れゆく意識の中で、彼は理解した。

 自分が見下し、連れ回していたこの少女こそが、教会の「闇」そのものだったのだと。


 皮肉な話だ。


 真実を見ようとした瞬間に、その真実によって消されるとは。


「ああ……神よ……私はあなたに尽くしてきました。……私の何が……いけなかったのでしょうか」


 マーティンは、震える手で懐の聖書に手を伸ばした。


「いつまでも偽りの中で生きていれば、幸せだったんですよ」


 短剣が引き抜かれ、鮮血が舞う。


 マーティンの手が、聖書に届くことは無かった。

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