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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第二部 第四章

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歴史学者エラーラと禁じられた発掘 - 6

 遺跡での調査を終え、地上に戻った頃には、すでに日は没していた。

 森の夜は早い。

 木々の隙間から覗く月明かりだけが、キャンプサイトに張られたテントを青白く照らしている。


 エラーラは、自分用の小さなテントの中で、ランプの灯りを頼りに資料を広げていた。


 手元には、昼間拓本(たくほん)を取った壁画の写しがある。


 勇者レイヴン。

 背中を狙う兵士たち。

 そして、慈愛と悲しみに満ちたダークエルフ、ダリア。


(これが公になれば、王国と教会の歴史は根底から覆る)


 マーティンは「明日、一番にここを発つ」と言っていた。彼はあの後からひどく静かになり、今は自らのテントで証拠品の整理をしているはずだ。

 エラーラが眼鏡を外し、目をこすった時だった。


 ふっ、とランプの炎が揺れた。


 風はない。テントの入り口は閉まっている。


「……動くな」


 耳元で、冷たい声がした。

 同時に、金属の感触がエラーラの喉元に押し当てられる。

 短剣だ。気配は全くなかった。


「声を上げれば切る。……質問にだけ答えろ」


 声の主は、背後に立ったまま、抑揚のない口調で続けた。


「お前は、教会の『掃除屋』か?」


 掃除屋。その単語に、エラーラは息を呑んだ。


「……なんのことですか」

「とぼけるな。不都合な真実が見つかりそうな時、教会はいつだって証拠を消しに来る。お前も、あの壁画を破壊しに来たのだろう」


 刃がわずかに食い込む。

 侵入者は、エラーラたちが今日「見てはいけないもの」を見たことを知っている。


「ち、違います……!」


 エラーラは、声を絞り出した。


「私は歴史学者です。破壊するためじゃない……記録するために来たんです」

「学者? 教会にとって、真実を掘り返す学者ほど邪魔なものはないはずだが」

「だからこそです。私は、あの壁画の『嘘』を見抜きました。……あそこに描かれていたのは、天使なんかじゃなかった」


 背後の気配が、ピクリと反応した。


「……続けろ」

「300年前、勇者の隣にいたのは……『ダリア』という名の、ダークエルフだった」


 一瞬の沈黙。

 やがて、喉元に当てられていた刃が、ゆっくりと引かれた。


「……その名を、どこで」


 侵入者の声から、殺気が消えていた。


「遺跡の記録から読み取ったのか?」

「はい。画家が隠したアナグラムを解読しました。……あなたは、一体」


 侵入者は短剣を鞘に納め、フードを外した。

 ランプの光が、その素顔を照らし出す。


 透き通るような白い肌。そして何より、髪の間から覗く、長く尖った耳。

 それは、数百年前に多く存在していたと言われる、エルフの特徴だ。


「……まさか、あなたは『いにしえのエルフ』……?」


 エラーラは息を飲んだ。


「……レノーアだ」

「レノーア……?」

「すまない。敵と間違えた」


 レノーアと名乗ったエルフは、自嘲気味に呟いた。


「人間の口から、ダリアの名を聞くことがあるとはな」


 彼女の瞳には、懐かしさと、そして深い悲しみが宿っていた。

 それは、歴史という大きな流れの中で、たった一人で記憶を抱え続けてきた者だけが持つ孤独の色だった。


「……礼を言う、学者殿。彼女が生きた証を、見つけてくれて」

「あ、あの……」

「だが、忘れろ。これ以上深入りすれば、お前も消され――」


 レノーアの言葉が途切れた。

 バッと顔を上げ、テントの外を睨む。


「……血の匂いだ」

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― 新着の感想 ―
…『掃除屋』?なんか物騒な連中が出てきそうな… :(;゛゜'ω゜'):
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