第四の壁を超える
「…まだ、届かないか」
ここはゲームの中の世界。そして、君がいるのは現実世界。どうやら僕と君では生きている次元が違うみたいだ。君の姿は見えないけれど、微かに声が聞こえる。このゲームはマイク機能を使うギミックが存在するから。カメラ機能もあるけれど、使わないから見ることが出来ない。君は僕に好きだと何度も言ってくれた。聞こえていないと思っているのだろうけど、毎日言っていれば流石に気付く。他の言葉は微かにしか聞こえないけれど。僕も君に好きだと伝えたい。ああ、どうして僕の声は君に届かないのだろう。街の人の声は聞こえているというのに。主人公って不便だ。君に想いを伝えるためには僕が現実世界に行く必要があるのだろう。次元が違うからって君に会えないとは限らない。過去に前例がないだけで、不可能と決めつけるには早いはずだ。目の前にある壁を越えようと手を伸ばしてみたり、ジャンプしてみたりするも未だに成果はゼロ。
「でも僕、諦めないからね」
ゲームの液晶画面を割れば外に出られるのだろうか。そもそも、ゲーム内でしか生きられないのかもしれない。僕は本来、魔王を倒す勇者として人間に作られた存在だから。それでも、やるしかない。それ以外の方法が思い付かないのだから。問題はどうやって割るかだ。君はあまり強い武器を好まない。見た目が全てのようだ。その分力のステータスを上げているが、それじゃあ意味が無い。僕の身長では到底届かないから。
さて、どうしようか。
ゲームの電源を切ればその間僕の意識も途絶える。けど君は電源をあまり切らないで放置することが多い。構ってくれないのは悲しいけれど、その分君と会う手段を考える時間ができる。どれだけ考えても中々いい案が出ないのが現状だが。
「お母さんただいまー!」
「おかえりなさい。いい?ゲームは宿題をしてからよ?」
「もー、分かってるよそれくらい!」
君が学校から帰ってきた。君は偉い。いつだってゲームよりも先に宿題をする。BGMを聴きながらやっているから君の現状を何となく把握する事が出来る。最も、把握出来たところで僕は何も出来ないのだが。
ペンの音がピタリと止まった。BGMを聴きながら眠ってしまったのだろう。微かに寝息が聞こえる気がする。
「勇者様、一体いつまでプレイヤー様の事を想い続けるのですか?」
「いつまで、か。考えた事もなかった。ゲームを遊んでくれる限り、僕はあの子の事を想い続けるよ」
「そうですか…。いつかは飽きられ、私達は埃を被ってしまう。それでもですか?」
「だから飽きられる前に会いに行くんだ」
「本当、勇者様は頑固なお方…」
僧侶は呆れたように口を開いた。僧侶の言ってる事は正しい。当たり前だ。
「あれ、2人が話してるなんて珍し〜!僧侶ちゃん、戦士の事はもういいの〜?」
「ま、魔法使い様?!戦士様の事は関係御座いません!!」
「あっはは、わかりやすー!ま、そんな事は今はいいんだけどねー」
じゃあ何なんだ。魔法使いはどこかフッ軽な所があり少し苦手だ。からかわれた時には本気で剣を振り下ろした。
「嫌そうな顔してる勇者さんに朗報でーす!なんと私、転移魔法覚えちゃいましたー!」
「…は?」
意味が分からない。なぜそれが朗報なのだろうか。転移魔法なんてせいぜい、行ったことのある街にすぐ移動出来る程度の力しかないはずなのに。だが、発想は中々面白い。僕にはあの壁を割ることしか頭に無かった。"割る"ではなく"超える"。こっちの方が現実的だろう。問題は魔法使いが傍に居ないと転移の対象に入らないこと。つまり、片道切符だ。行ってしまえば帰って来れない。現実世界で生きれるかも分からないのに魔法使いを巻き込む訳にもいかない。それでも僕は、掛けてみることにした。
☆★☆★☆
時計を見ると針は午後の5時を過ぎた辺りを指していた。どうやら眠ってしまっていたようだ。ふと後ろを振り返ると私は目を見開いた。恐怖で硬直する私に彼は近付いてきて、力強く抱き締めた。
…骨が軋む音が聞こえた。