刺し違えても倒す♥
初めまして。雨野です。
この話は一応プロローグなんですが、プロローグでこんなに長いって大丈夫なんですかね……。
読みにくかったら申し訳ありません。読みやすく、かつ面白い小説を目指しておりますので日々精進してまいります♥
では、メンヘラくんの冒険譚の始まりをお楽しみください。
「別れよう」
その言葉を聞いたのは初めてではなかった。幾度も聞いた言葉であった。
だのに、俺はその言葉を聞くとまるで何もできなくなってしまう。
「……なんで?俺、なんかしたかなぁ……?あ、謝るから教えてよ……」
若干掠れた声でなんとか言い切った。舌が固くなったような錯覚に陥って、それ以上は喋られなかった。
君まで俺を見捨てないで、好きだから、俺のこと嫌いになったの?言いたいことは色々あった。
「そうじゃないの……律くんは悪くないの。もう会わないから。じゃ……」
言うだけ言って、彼女は走ってどこかに行ってしまった。心持怯えたような顔をしていた。
俺はそれをぼーっと見送ることしか出来なかった。
不意に頬を切った木枯らしが俺を現実に戻した。その木枯らしは彼女が二度と戻ってこないことを意味している。ような気がした。
とにかく俺は彼女がもう俺の目の前に現れないことを何となしに理解して、一種失望のようなものを感じながら歩いた。
俺の恋愛はいつもこう。女の子の方から別れ話を切り出されて、終わり。
原因は分かっている。俺が女の子に依存してしまうから。
治そうとして分かったのは、俺がどうしようもなく依存体質だということだけ。
何をしたら治るかな。俺は普通に女の子と付き合えるかな。なんて考えることが、日に日に難しくなっていった。
「はぁ……」
そう溜息をつくと一気に疲労と惨めさが押し寄せてきた。視界が微かに滲む。
俺なりに愛したつもりだった。伝わらなかったというより、伝わり過ぎたという方が正しいのかもしれない。
原因は俺だけど、高望みかもしれないけど、俺だって普通の恋がしたいよ。
「……?」
違和感を感じて立ち止まる。
後ろを振り向いてみた。
……誰もいない。
気のせいだったかな。そう思いなおして、しかし後ろは気にしながら歩き直した。
「……」
いや……やっぱり気のせいじゃない。俺の後ろに誰かいる、かも。
俺はそう確信して走り出した。なぜか身の危機を感じた。
後ろの誰かも走っているみたい。
もしかしてつけられてる……?なんで?
俺なんかやらかしたっけ……?いや、そんな覚えは全くない。
じゃあ……ストーカー?
「っ……!」
そう思いついたところですべての辻褄が合った。
先刻別れたばかりの彼女は別れた理由を教えてくれなかった。元カノの子等はちゃんと教えてくれたのに、だ。
彼女が優しいから教えてくれなかったと結論付ければそれまでだが、彼女が俺のストーカーに脅されたから何も言わず別れたと仮定したらどうだろう。そうすれば、彼女が去り際に見せた怯えた表情も説明がつく。
え、ストーカーじゃん……。
そんな結論に辿り着き、戦々恐々としていると全く知らない所にいた。
考え込んでいたから知らない方向に行ってしまったんだろう。
どうしよう……?どっちに行けば……。
後方から迫りくる足音に急かされ、ろくな思考ができない。
……とりあえずあっちだ。
そう決めて逃げ込んだ先は薄暗い路地裏で……しかも行き止まりだった。
もしかして、俺……。
死ぬ……?
……冗談じゃない。どうにかして生き残る方法を見つけなければならない。
そう考えて思いつくことと言えば"死"だけだった。
だめ、もう何も……。
──考えられない……。
俺はストーカーらしき人物が前へ前へと迫りくるのを見ることしか出来ない。
もう逃げる体力もない、九死に一生を得られそうなアイディアもない。
でも逃げなきゃ、逃げ──
「──っひゅ、」
お腹になにか、冷たくて細い物の先端が押し当てられ、そこからは早かった。
お腹は身体の中では比較的柔らかい。柔らかい肌は刃物らしきものの侵入を微かに拒んだが、ぷつりと刃が入ってしまえば容易かった。
冷たい異物が皮膚を裂きながら体内へ入っていく。その感覚が不快で、思わず吐きそうになる。
だが俺はそれを既のところで抑え込んだ。吐き気如きに苦しむ場合ではなかった。
──痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い──!
助けてくれる訳がないのに、気付いたら俺はストーカーに向かって手を伸ばしていた。
「あ……あなたが、……あなたがわ、悪いのよ……わた、私の告白を卑下にするから」
告白……?知らない、そんなの。
全力で記憶を遡ってみたが、告白されことなんてない。告白はいつも俺から……。
「……っあ……」
俺は瞬時に理解してしまった。知らなくてよかったことを。
──もしかして、人違いなんじゃないの……?
「……っげほ、……ぅぐ……ねぇ、君、名前、は……」
「何!?覚えてないなんて言う訳!?忘れたなんて言わせな、──」
ストーカーは、俺に近づいて、何かに気付いたようにあ、と短く声を上げた。
「あっ……あぁぁ、う、嘘、私っ……嘘……そんな……いやっ……!」
ストーカーは狼狽えた。今にも叫び出しそうな顔をしていて、目に涙を湛えていた。
俺は今一度手を伸ばした。
「いや…………いやああぁあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ストーカーは堪えきれないといった様子で頭を抱え、目にも止まらぬ速さでどこかへ行ってしまった。
そんな……。
こうして俺は、路地裏に一人取り残された。
ゆっくりと、だけど確実に俺の体は死を迎えていた。細胞一つ一つが死を受け入れている。
なんで、なんでこんな……こんな目に。
俺は思い出した、今までのことを。
家と家族を捨てたお父さん。俺を愛してくれなかったお母さん。かつては好意を確かめ合う仲だった女の子。初めて赤い線を腕に走らせた日。
なんで生まれてきたのかなぁ。なんで最期に良い人生だったって思えないのかなぁ。
どうして俺がこんな目に──。
天罰なのかな。そんなことを思った。
あぁ……すごく眠い……。
いかがでしたか?
面白いと思った方も、面白くないと思った方も読んでいただいて嬉しい限りです。
不定期更新というスタンスでやらせていただきます。
続きが気になるという方はまた読みに来て下されば幸いです。