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1-3

その晩、ユウキの部屋の扉が軽く叩かれた。その音に反応したユウキの声に扉が開く。廊下から護衛と思われる二人の鎧の男を連れたクアエラだった。清水のように透き通った声がユウキの名を呼び、翠眼が見据えた。



「夜分遅くに失礼いたします」


「あ、はあ…」



突然の訪問に頭が追い付かないうちに乗り込まれ、部屋の隅へと追いやられたユウキは何事かと身を固めてクアエラを見つめた。その視線に応えるようにユウキを真正面から見つめ返した彼女。



「ユウキ様」


「っはい…」


「いえ。敬称をつけることすらあなたにとってみては身に余る言葉ですね」



唐突に何か、と突っ込むより先に失礼な物言いに口を噤む。そして、言い放った。

には、この城を出ていただきます」


「――――はいっ?」


「我々、人族には人族の誇りというものがあります。この世界の命運をかけた聖戦に、あなたのような人が相応しいでしょうか。否、相応しくない。……よって、あなたには下城していただきます」



淡々と小難しい言葉で突き刺しながらも、結局は「お前に用は無いから城から出ていけ」ということだろう、とユウキはどこか達観的に思う。その瞬間、ユウキの中にあった違和感がパッと解けたような気がした。

彼女たちにとっても予想外だったのだろう。勇者一行、と召喚しておきながらも赤の適性を発するユウキの存在は。



「用無しはこの国に必要ありませんからね。できることなら国外追放にでもしたいところですが…そうしないのは私の慈悲だとお受け取りください」


「へ…?」


「あなたの存在は、勇者様方の足を引っ張りかねない。この国の発展にも不要です」


「ふ、よう…」


「安心なさい。彼ら五人は私がしかと面倒を見ますから」



その言葉に不信感を覚えなかったわけではなかった。しかし、面と向かって「不要」と言われたことに少なからず心を抉られてしまったユウキは半ば自嘲的に頷いた。そして彼女に、「明朝、迎えを用意しますのでそれまでに準備を」と淡白に言い放ち、護衛を連れてそそくさと立ち去って行った。音を立てて閉められた扉を眺めながら、手紙を残すことくらいは許されるだろうか…と思い机に向かった。



――――――――――――

――――



「当面の生活費として渡すように言われている」


「あ、生活費…ありがとうございます…」



クアエラの言う通り、明朝にユウキの部屋の扉が静かに叩かれた。帝国騎士団の一人である男は、昨晩クアエラと共に入ってきた男たちとはまた違う鎧を身に着けていた。彼は律儀にも城の敷地外、城下町を眼前に控えた場所までユウキを案内した。

別れ際、懐から出された麻袋はずっしりと重かった。まさかのお金に有難い気持ちを抱きながらも、口止め料も含まれているんだろうな…と思ってしまう思考は、自分がされた仕打ちを考えれば順当な思考だとユウキは思い直した。



「――――それと…これは勝手なお節介だが」



そう口火を切った兵士の彼は、「ギルドにライセンス登録するといい」と今後のユウキの生活を案じて寄り添ったアドバイスをしてくれた。少し詳しく聞き、何度も頭を下げたユウキは名残惜しくも彼と別れ、城下町へと足を踏み入れた。


まるで海外旅行気分で異国の風景を楽しむかのように街を闊歩していたユウキの目に、ふと探していた文字が入ってきた。



「あ…冒険者ギルド…」



やっと見つけた建物。ギルドだけでないが、見慣れない文字でありながらも、看板や路頭に並ぶ文字は違和感なく読解できた。話せているかは甚だ疑問ではあるが、さっきの兵士にしても、クアエラたディエゴにしても会話に不自由を感じなかったところを見ると出来ているのだろうなとよくわからない自信に包まれた。

まさに天涯孤独となったユウキ。これで言語も通じないとなれば、野垂れ死ぬこと間違いなしの未来が待っていたことだろうと身震いする。


意を決して立ち入ったギルド内は閑散としていた。まだ朝早いからか、使い古したような鎧を身に着けた屈強な男たちが四、五人、掲示された紙の前で立ち会っていた。

正面に広がるカウンター。そこには、何となく男臭い場所を想像していたユウキの予想に反して綺麗な女が常駐していた。しかも驚いたことに、その女の耳にはリアルな茶色の耳が生えている。


(これがケモミミ、というやつか。)


新鮮な容姿にじっと動かなくなったユウキを不思議に思ったのか、その耳付きの女はユウキに向かって優しく微笑むと手招きして傍へと呼んだ。



「おはようございます。本日はどうなさいましたか?」


「あ、えっと…登録、をしたくて」


「冒険者のライセンス登録で宜しいでしょうか?」


「あ、はい」



メリッサ、と記載された名札が視界に入る。兵士の彼と交わした言葉を頼りに会話を進めれば、バインダーに挟まった一枚の紙とペンを渡された。



「こちらにお名前と、種族、年齢、適性職のご記入をお願いします」


「適性職、というのは?」


「適性職というのは、その方に合った職業のことを言います。簡単な診断であれば此方でできますから、やってみますか?」


「あ…」



純粋な瞳で尋ねられるも、ユウキの頭の中にはクアエラの「不要」という言葉がしかとこびりついていた。めまいを覚えそうなのを我慢し、深く息を吸うと「お願いします」と口を開いた。



「――――ユウキさんの適性職は…おっ、ビーストテイマーですね!」


「ビーストテイマー?」



裁縫針ほどの大きさの針でチクッと指先を刺し、既製の魔方陣の上に垂らす。案外と適性職の測定方法は簡単らしく、結果を待つ間メリッサと少しばかり話に花を咲かせているうちに仲良くなったユウキ。その表情にはすっかりと笑顔が戻っていた。



「その名の通り!動物をテイムして、戦わせるジョブですね」


「テイム、」


「少しの魔力を使って、動物と主従関係を結ぶんです。犬や鳥などをテイムして、薬草採取や探し物、護衛などをしてる方が多いですね」


「ほぉ…」



田舎出身で、出稼ぎのために帝都まで出てきた。と思い付きのカバーストーリーを話せば、同情してくれたメリッサは親切にユウキに情報を教えてくれた。最初は十代に思われていたらしく、日本人特有の童顔にこの時ばかりは感謝したのは言うまでもない。



「面白そう…」



実際に身に起こっている出来事とは言え、まだ他人事感が抜けないユウキは、ゲーム感覚で呟いた。あっちでいうところのペットだろうか、などと考えながらメリッサからギルドでの依頼の受け方や注意すべきことなどを丁寧に教わった。

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