1-1 どうやら、私は用無しらしい。
楽しんでいただければ幸いです。
いっやぁ…笑えない。
往々と広がる緑は絶景で、蒼く澄んだ空は浮かぶ雲が近くて思わず彼女は手を伸ばした。
「いや、死ぬ!死ぬってぇぇ!!」
どこか感傷的だった気分を吹っ切り、ふと我を取り戻した彼女は咆哮の如く声を張り上げた。人が決して日常生活では見ることのない木々の頭。どこまでも広がる森を眺める彼女の体は、何の支えも持たずに宙を浮いていた。
否、浮いてはいない。天高くと放り投げられた彼女は絶景と恐怖に喘ぎながら現在進行形で落ちようとしている。ここから落ちたら…そんな末に迎える己の体を想像できないほど想像力に乏しい人間でもなく、彼女は再び恐怖に喘ぎ声を張り上げた。
助けも望めなければ、自分を助ける術も持たない。
今更ながらに後悔しても遅く、吐き出しどころのない後悔を抱える彼女の体は地面へ吸い込まれようとしていた――――。
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「おせーぞー…ったく、時間かかりすぎだろ。毎回毎回…」
「レディは支度に時間がかかるの!」
「はいはい。わーかったから、荷物積んでさっさと乗れ!」
駆け足で寄ってくる二つの人影にツンケンと噛みつく男、岩崎 拓斗は運転席の窓から身を乗り出し、駆け寄ってきた二人の女、鈴木 凛と高橋 夕季に声を荒げた。暢気な彼女たちはトランクに荷物を積める大柄の男、尾野 真太郎に荷物を預けると車に乗り込んだ。
荷物を全て詰め終えたシンタロウが助手席に乗り込むと、車は目的地へと走り出す。
「そういえば天野兄妹は?」
「パーキングで集合って昨日ラインに載せたからな、俺」
「あれ、そーだっけ」
後に合流予定の天野兄妹、駿希と梓を含め六人は互いの幼少期を知る仲。お互いに成人し、それぞれの道を歩く今でもこうして休日に集まるほどには良好な仲だった。車を走らせ数十分、パーキングで天野兄妹と合流し、少しの休憩を挟んでから六人は再び、目的地であるキャンプ場へと向かった。
「うーっし、ついたぁー!!」
「おーっし、てめぇら荷物持って行くぞー」
停車した車から真っ先にリンが降り立つ。グイッと体を伸ばしながら自然に囲まれたキャンプ場を空気を肺いっぱいに吸い込む。ぞろぞろと全員が車を降り立ち、各々の荷物を手にした瞬間――――
車を中心にして白く光る円環と六芒星。目下からの強い発光に思わず全員が目を瞑り、その場から逃げようとする。そして体の不自由さに気が付く。まるで金縛りにあったかのように手も足も動かせず、何か強い力に声すらも吸い込まれていく。
次にその場に車が通る時、そこに彼らの姿はなかった。
しかし、荷物も車もそこに変わらず存在している。忽然と、姿だけが消えていた。
目を覚ました時、ユウキ両開きの扉が開かれ、扉の向こうから祭服の男女の集団に迎えられた。
「どこだ、っ…」
「なに!?」
「――――お待ちしておりました、勇者御一行様」
集団の中央に立つ壮年の、いかにも高貴そうな男が丁寧にも頭を下げる。それに倣うように、ユウキ
「っ失礼いたしました。ここは、帝国ウィルトッテ。私は正教教会にて教皇に就いておりますディエゴ・ダニエルと申します」
堪らず、右手を挙げながら謎集団へ尋ねたシュンキにディエゴ・ダニエルと答えた男が両手を広げ、歓迎するようにジェスチャーをしてみせた。怪しむべき男、ディエゴは「勇者様、そしてご同胞の皆様」と微笑みかけた。周囲の男女は部屋の中の六人を崇めるように膝をつき、ある者は手を合わせ祈りを捧げ、ある者は好奇の目で六人を見ていた。
「突然のお呼び出し申し訳ない。ですがこちらにもやむを得ない事情がありましたもので…――――」
「――――あ、あのさ!と、とりあえず申し訳ないんですけど…場所変えてもらってもよろしいでしょうか?」
何かを語り始めようとしたディエゴの言葉を遮るように余所行きの口調でタクトが提案した。すると弾かれたようにディエゴが血相を変え、「直ちに案内させます!!」と高らかに声を上げた。
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