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行き違いの危機

 アーシアは道に迷いながら城へと向かった。契約した宝珠と龍は何処に居てもお互いの居場所がわかるものだ。ラシードが任務で一人遠方に行ったとしても紅く燃え盛るような火の龍の気を身近に感じることが出来た・・・それが今、アーシアもラシードも正体を隠す為にカサルア特製の珠力や龍力を強力に抑える器具を身に着けている。だからラシードがど

の方向に居るのさえ分からなかった・・・


(こんな感覚・・・久しぶり・・・)


 アーシアは少し不安になってしまった。昔から負けん気が強く強気なのに最近は自分でもおかしいくらい弱気になることがある。それはラシードを好きになればなるだけ広がるような感覚だった。

「それもこれも、ラシードが私を甘やかすからよ!兄様以上なんだからっ!」

 アーシアは足早に歩きながら悪態をついた。色々と言い訳されたが結局置いてきぼりされたことが段々、腹立たしくなって来たのだ。

「昨日だって、結局、あんなことして誤魔化したんだわ!もうっ!悔しい~~!!いつもラシードが主導権握るんだから!こうなったら媚薬でもなんでも飲ませて最後までやってやる!」

 アーシアは自分でそう言って、あっと驚いた。

「最後まで?そうよ・・・私が気弱になっていたら駄目よ。ラシードが自分の思いを語らないのはいつもの事なんだから私がそれを気遣って臆病になんかなっていたら二人共、駄目になってしまう・・・私はラシードを幸せにしたい・・・ラシードの幸せは私の幸せ・・・それはラシードだって同じ・・・馬鹿な私!私はわがままで良いのよ!うん、そうよ!兄様を見習ってベタベタ甘えて我が儘してやるわ!」

 アーシアは自分で自分を叱咤激励しながら何とか州城に到着した。しかしその時はもう既にラシード達が出ていった後だったが、それを知らないアーシアは来訪者を整理する役人に訪ねた。運が良いのか悪いのか訪ねた役人はラカンが金を握らせて融通して貰った人物だった。


「あいつらの妹?へぇ~」

「ご存じですか?忘れ物を届けに来たので何処に行ったのか教えて頂けませんか?」

「忘れものねぇ~」

 役人は反芻しながらアーシアを値踏みするように上から下まで舐めるように見ていた。嫌な気分になったアーシアは他をあたろうと断りを言って立ち去りかけた。

「ちょっと待った!俺が連れて行ってやろう」

「・・・行き先さえ教えて頂けたら自分で行きます」

「この先、一般人は許可無しに通れないんだぜ。さっきもあんたの兄ちゃん達を俺が連れて行ったんだからな」

 役人はラカン達が城を出たのを知っていたし、戻って来るのも知っていた。用件は分からないが戻って来たら城内に通し、イズマルに知らせるようにとの命を受けていたのだ。


(忘れ物を取りに行ったんだな。へへへっ・・・今度の通行料はこの娘で良いだろう。次は、はした金じゃ済まないって言ってたんだしな・・・)


 ニヤニヤしている役人にアーシアは悪寒がし、更に嫌な気分になってきた。しかし断ったらラシード達と合流出来そうにないから困った。

(中に二人いるんだし・・・大丈夫よね・・・でも)

 アーシアは付いて来い、と顎をしゃくる男がどうしても信用出来なかった。

「いいです。兄達が出て来るまで此処で待ちます」

「はぁ~?忘れ物を届けたいんだろう?」

「いいです。忘れ物に気が付いたなら出て来るでしょうし」

 アーシアは忘れ物という話しは嘘だから直ぐに出て来ないだろうと思ったが仕方が無い。今は自分の嫌な予感を信じた。

「親切に言っているんだ!来い!」

「いいです!」

「来い!」

 男は形相を変えてアーシアの腕を掴んだ。

「いやっ――!」

 予感的中だ!アーシアは身の危険を感じ男の手を払いのけようと身をよじった。まだ周りには人が沢山いて何事かと注目したが相手が役人だから遠巻きに見ているだけだった。

「放して!」

「騒ぐな!こっちに来い!」

「嫌!」

 絶対に行くものかとアーシアは足を踏ん張ったが男の力には敵わなかった。ずるずると引き摺られるように広間から連れ出されかけたが、それでも力いっぱい声を張り上げて抵抗した。


「何事だ!」


 別の男の大きな声に役人は飛び上がった。

「あ、紅の龍様・・・あ、あのその、こいつが兄のところに連れて行けと言ったんで・・・」

 紅の龍と聞いたアーシアは驚いて声の主を見た。その男は確かに前髪から覗く片方だけの瞳の色は―――真紅だった。しかし瞳の色が同じでもラシードとは似ても似つかない顔立ちだ。アーシアは思わず思った事を声に出してしまった。

「紅の龍?違う!違うわ!あなたなんか紅の龍じゃない!」

 偽者は顔色を変えると役人からアーシアを奪うように腕を掴みあげた。

「黙れ!」

 アーシアは、はっと我に返った。こんな所で偽者だと問い質してしまっては後々面倒な事になってしまうだろう。頭では分かっていてもラシードの名を騙る男を目の前にすると腹が立ってしまった。

 偽者は当然自分が偽者だと分かっている。アーシアの垢抜けた雰囲気から察して地元では無く天龍都から来たかもしれないと思った。


(本物の紅の龍を知っているのか?不味い!)


 まだ一般人の居るこの場での問答は出来ないと偽者は悟った。

「怪しい奴!こっちへ来い!」

「嫌!放して!」

 アーシアは抵抗したが肩に担ぎ上げられ広間から連れ出されてしまった。そしてアーシアはセイカのもとへと運ばれた。

「何事なの!」

「そんなに、カリカリするなよ。ちょっとした問題だ」

 偽紅の龍はアーシアを縄で縛りながらセイカに耳打ちした。

「それで後先考えずに拉致して此処まで飛んで来た訳?」

「だって仕方が無いだろう?広間は一般人で溢れていたんだから」

「まさか私に始末しろと言いたいの?」

 始末と聞いたアーシアは、ゾクリと背筋が凍った。

「それに女はあなたの得意分野でしょう!力を蓄えるとかって言っていたじゃない。こんな上玉なら無理矢理して力が半減しても十分じゃないの?私は忙しいのだからこんなことで煩わせないでちょうだい!」

 苛々して言う女の意味がアーシアには分からなかった。


(力?蓄える?無理矢理?半減?何が?―――もしかして、私が宝珠って分かったの?)


「この女は使い物にならない」

「だったら殺しなさい」

「簡単に言うなよ。この女は此処に来ている誰かを追っかけて来たらしいから殺したら騒ぎが大きくなって不味いだろう?そいつらを捜して一緒に殺さないと」

「追っ駆けて来た?誰を?」

 セイカの問いにアーシアは首を振った。

「言ったら一緒に殺すのでしょう!言わないわ!」

 セイカはアーシアが握りしめている書簡の包みを目に留めて取り上げた。

「あっ!」

「土地買収の書類?―――お前が追いかけて来たと言うのはもしかして兄弟?確か名前は・・・ファーとジン。違う?」


(ラシード達はこの人に会っている・・・じゃあ、近くに居るのかしら?)


「そうです!私は妹のリルダです!」

 セイカは、ニタリと微笑んだ。

「そう・・・あなたが・・・」

 サードや翠の龍と交流があるこの妹なら本物の紅の龍を見た事があるのだろうと、セイカは納得した。

「兄達は何処ですか?それにあなたは誰です?」

「私の名前はセイカ。州公代理よ。あなたの兄達は投獄したわ」

「えっ?投獄!」

「そうよ。州公相手に詐欺を働こうとしたから処刑されて当然だわ」

 アーシアは内容を詳しくは聞いていないがラカンの用意した書類は全部本物だと聞いていた。だから易々と発覚するようなものだとは思えなかった。

「嘘ではありません!書類を見てもらえれば分かる筈です!」

「じゃあ、本当にあなたは翠の龍の宝珠と仲が良くて、翠の龍を動かしてもらって湖の埋め立て出来るの?」

「サードと?」

「伝説の〝炎の宝珠〟を呼び捨て?本当に親しそうね」

 アーシアはラカンが何を交渉材料にして言ったのか分からなかったが、今は話を合わせて捕らえられている彼らを救い出さなくてはと焦った。

「そうです!サードとは友達です!」

「だったら今から直ぐに翠の龍を連れて来てちょうだい」

「そうすれば兄達を釈放して貰えますか?」

「条件を呑めばね」

 薄っすらと微笑むセイカにアーシアは再び、ぞっとした。アーシアも感じた・・・この女の毒々しい闇色の雰囲気はゼノアを彷彿させるものだ。

「条件は?」

「この男が紅の龍じゃないと言ったそうね?」

 アーシアは不機嫌な顔をして立っている男を、チラリと見て頷いた。

「そうよ。確かにこの男は紅の龍じゃない。だけどそれを絶対に誰にも口外しないこと。

もしもその約束を破ったならあなたの大事なお兄さんを殺すわ・・・もちろん翠の龍を連れて来られなければ、やはり詐欺だったとして処刑する」


 アーシアはラシード達が投獄されたと言うセイカの嘘を信じて頷いた。簡単に殺されるような彼らでは無い。何か策があって大人しく囚われたのだろうとアーシアは思った。だから本当なら此処に居ない筈の自分が騒げばその計画を壊してしまうかもしれないと考えたのだ。罠としか思えないこの呼び出しにレンが応じたとしても彼なら大丈夫だと言う絶対の信頼があった。

「直ぐに連れて来ます!」

「そう、良かった。次元回廊を用意しているから早く行って至急戻って来なさい。くれぐれも兄達の命が係っているのだから馬鹿な考えはしないことね」

 アーシアはセイカの手の者に回廊へと連れて行かれた。

「どうなっているんだ!翠の龍なんか呼んで何をするつもりだ!」

 内容を知らない偽紅の龍はセイカに詰め寄った。

「煩いわね!だいたい私の忠告を無視してうろつくから話しが面倒になったじゃないの!王になりたいのなら私の言う事を聞きなさい!誰のおかげで大きな顔をしていられるのか忘れた訳?逆らうのならその力を取り上げてやっても良いのよ!」

「わ、分かった、言う通りにする。そんなに怒らないでくれ。お前の言う通りに俺は何でもしただろう?これからも何でもする」

「分かればいいのよ。あの娘の兄達は妹を連れに戻っているわ。妹が入れ違いになったとは知らずにね。捜し回っているうちはいいけれど、もし戻って来たら捕らえて投獄してちょうだい。逆らうようなら殺しても良いわ。もちろん妹に分からないようにね」

「分かった」

 男が去った後、セイカは満足そうに微笑んだ


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