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閑話~甘い秘密~

 その日、届けられた手紙をアーシアは読み終えると勢いよく部屋を出た。そして向った先はイザヤの執務室の方角だった。だいたいその近辺に目的の人物がいる筈だ。

「あっ、いた!リスト、リ・ス・ト・・・」

 リストは柱の影から自分を呼ぶ小さな声を聞いた。その方角に目を向けるとアーシアが隠れながら手招きしている。

「アーシア、どうした?隠れて・・・」

「しっ、ちょっと相談があるのよ。少し話せる?」

「ああ、今、銀の龍いないし・・・ちょっとだけなら・・・」

 それから二人は人目を避けた場所へ移った。

「それで、話しって?」

「あのね。今ジーナから手紙がきてその内容が大変なのよ。人気の女の子達が食中毒で寝込んだそうなのよ。だけどお店をそれで閉めると信用問題になるらしくって。お店で出したものに彼女達が当たった訳じゃないけれど周りはそう思わないでしょう?かといって食中毒じゃないとしても不味いらしいの。指名率の高い人達が休むとなると店の質を疑われるとか・・・」

 慌てて内容を説明するアーシアをリストは眉をひそめて聞いていた。

「で、まさか、応援に来て欲しいとか言う内容?」

「そうなの」

「なんっ!冗談だろう?」

「冗談じゃないみたい。それに私がいきなり店に出なくなったでしょう?それもちょっと不味かったみたいで。お得意様達が騒いでいるそうなの。だから今回誤魔化すのと一緒に皆が納得するように私の身請け競売の催しをしたいって」


 リストは驚き過ぎて一瞬言葉が出なかった。こういう店で働いている女の子達は店に借金しているものが多い。だからそれを返金するまで辞められないのだが、人気があるとその借金の肩代わり分と、店との契約解除金を払って自分の権利を買ってもらう身請け制度があった。いわゆる店が所有していたものが個人所有になる方法で人身売買に近い。それでも違法で無いのは本人の意思が尊重されるからだろう。店としては人気の女の子を手放すのは惜しいが競売で契約解除金に高嶺が付くことが多く結構儲かるものだ。

「じょ、じょ、冗談!そんなこと出来る訳無いじゃないか!」

「もちろん、競売はお芝居で最後は仲間内で落とすらしいのよ。私、ジーナにはお世話になったから力を貸してあげたいし」

「そんな恩義感じなくていい!あの時通っただけで十分あの店はあんたで儲かっていたんだ。しかも給金も払わないで良かったんだから丸儲けさ!まったくあの業突く張り!抜け目が無い!」

 悪態をつくリストにアーシアはびっくりした。

「そんなにお金になっていたの?」

「あんた自分がどれだけ金になっていたのか知らなかったのかよ?碧の龍なんか個室に連れ込んだからすげー大金払ったぜ!」

「ええ―――っ!本当に?うわぁ~どうしよう。ラカンそんなこと一言も言わなかったから知らなかったわ」

「だから気にするなって」

「ん・・・でも、やっぱり行く。だってみんな親切にしてくれたし後始末ちゃんとしないとね。色々噂になってバレるよりきちんと終わらせた方がいいもの」

 リストは呆れた。

「まあ、あんたがそう思うならそうしたらいい。で、俺は何をしたらいい?」

「私を買ってくれる人になって」

「は、はあ――?ちょっと、待て!なんで俺?」

「だってこの秘密知っているじゃない」

「そ、それなら碧の龍に頼めよ。競売なんか嘘と思っても大金が飛び交うんだぜ。俺なんかそんな金持ったことも見た事も無いから舞い上がって絶対失敗する!金持ちの碧の龍に頼んだ方が絶対いい!」

 リストは仰天しながら拒否した。

「ラカン?う~ん、でも目立ち過ぎじゃない?後で変な噂になっても困るし・・・人身売買じゃなくて法的にも認められていると言っても世間的にはね・・・」

「競売は仮面をつけてお互い身分を隠すのが決まりだから大丈夫さ!」

「そうなんだ。じゃあ、ラカンに頼もうかな」

 リストは、ほっと胸を撫で下ろした。そこで競売までの数日、店へ通う護衛をリストは引き受けたのだった。



「ラカン、ラ・カ・ン」

 ラカンは扉の隙間から自分の名を小さく呼ぶ声を耳にした。その方向を見ればアーシアが手招きをしている。

「アーシア?どうかした?」

「しっ、こっちへ来て!」

 扉の隙間からラカンの腕を掴むとその扉に彼がぶつかるのも構わず、人気の無い場所まで引っ張って行った。

「あたた・・・ちょっと、アーシア。急に何?」

「ラカン、これは絶対、絶対、ラシードに秘密よ。守れる?」

 内容も言わずに最初から守れと言うアーシアにラカンは仰天した。

「絶対よ!いい?」

 その迫力に思わず頷く。そしてその内容を聞いて更に仰天してしまった。

「な、な、な、何だって!じょ、冗談!」

「もうっ!リストと同じ驚き方するのねっ!嘘なんだから驚くこと無いでしょう?ラカンは昔みたいに馬鹿息子をしてくれたらいいのよ。得意でしょう?」

「い、いや。待って!やっぱり、その時って・・あ、あ、あの格好するんだろう?そんなのもう一回見たのが分かったら今度こそラシードに抹殺される!」

「もうっ!だから秘密って言っているでしょ!じゃあ、お願いよ。また連絡する。じゃあね」

「ちょっと、待って!アーシア、アーシア」

 アーシアはラカンの制止も聞かず走り去ってしまった。

「秘密って?嘘だろう・・・ははっ」

 ラカンはもう笑うしか無かった。後はラシードにバレないように祈るのみ。



「ちょっとこれ前より凄くないですか?」

 手紙が来てから三日通って今日が最終日で競売の日だった。それ用の衣装は新しいもので今着替え終わったところだ。隠れている部分は一緒なのだが色が凄かった。今まではどちらかと言えば肌に馴染む感じでまるで裸のように見えてそれはそれで凄かった。しかし今回はくっきりとした深紅で肌の色と対象的だから逆に扇情的できわどい感じがするのだ。

「そうかい?そんなものでまだ怖気づくようじゃ、あんたまだまだ修行が足りないんじゃないかい?考え直して修行続けたらいいと思うんだがね。それに今日の競売が芝居とは本当に残念だよ。金になるんだけどねぇ~」

 ジーナの値踏みする目にアーシアはたじろいだ。

「はははっ、そう怯えなさんな。冗談さ!さあ、最後のお勤め頑張ってきな」

 そして悪趣味と言うか趣向を凝らしていると言うのかアーシアは金色の大きな鳥かごの中に入れられた。その中央の高い位置には籠の上から吊るした可愛らしいブランコがあった。それに座っているだけでいいらしく、その間に客達が競り合うとの事だった。

「あはははぁ~話しだけ聞いていたけれど・・・凄い。催しって言うだけあるわね・・・見世物状態な訳ね・・・」

 ガシャンと籠の中に閉じ込められたアーシアはブランコに乗せられたまま真っ暗闇の会場に運ばれた。そして一斉に灯りが点された時は耳が痛いくらいの歓声が上がっていた。既に客達は興奮状態のようだった。アーシアも流石に怖くなってラカンを探した。しかし仮面はもちろんフードを被っている人も多く分からなかった。当然龍力も隠しているから尚更分からない。しかし、アーシアがラカンを探して一周も見ないうちに競売は終わったのか、あっと間に籠は奥へと下がって行った。

「えっ?もう終わったの?」

 出たり入ったりと忙しく移動したからブランコが揺ら揺らしてアーシアは不安な状態のままだった。そこへジーナが真っ青な顔をして走って来た。

「大変だ!アーシア!碧の龍が来て無かったんだよ!」

「えっ!だから中止したの?」

「違う!競売が終わったから引っ込んだんだよ!」

「でも、ラカンがいなかったって・・・ええっ――!じゃあ、私、誰かに買われたの!」

「ああ、相場の百倍ぽんと金出して一瞬で決着付いたらしい。私が出席者を確認している間にさ。とにかく手違いだったって話してくるからあんたは待ってなよ」


 しかしジーナが戻りかけた時にその客が来てしまった。真っ直ぐにアーシアの籠へ近づいている。

「ちょっと、お客様。その子は間違いだったんです!今、ご説明に」

 ジーナは止めようとしたが客は歩みを止めなかった。顔も隠しフードも被っているから何者かは分からなかったが背が高いから男に間違いは無かった。そして籠の中に入って来てしまった。アーシアは揺れるブランコに乗ったまま怖くなって、ぎゅっと鎖を握りしめた。するとその男がアーシアを見上げ、両手を大きく広げたのだ。

 アーシアはその男の瞳を見て、あっと声を上げた。

「ラシード?」

 仮面の中の瞳は真紅だった。見上げた頭からフードが落ちると黒髪が現れ、仮面も捨てられた。アーシアを見上げる男は間違え無くラシードだった。

「アーシア、私の息の根を止めるつもりか?」

「ご、ごめんなさい、ラシード。これには色々訳があって・・・」

「アーシア、おいで」


(やっぱりラシード怒っているわよね・・・)


 アーシアはそう思うとラシードの下に行くのを躊躇った。だからブランコをこぎ出した。

「アーシア、怒ってないから降りておいで」

 前後に揺れるアーシアを目で追いながらラシードは優しく言った。

「秘密にしていたの怒ってない?本当に?」

 ラシードが頷いたので、アーシアはブランコから彼の腕の中へ飛び降りた。ラシードは彼女を抱き止めるとそのまま抱き上げた。

「本当に目を離すとこれだから」

 この店とアーシアの経緯は前回ラカンから聞き出していた。しかしここ数日のラカンの落ち着かない様子と、アーシアの不審な動きが気になっていた。そこでラカンを締め上げ今日の事を白状させたのだ。会場に現れたアーシアを見た時は本当に心臓が止まるかと思った。

「ごめんなさい。ラシード」

 ラシードはアーシアの姿に、さっと視線を流した。

「今、私は自分を褒めているところだ。中にいた男達を瞬殺するのを堪えたのだからな。君のこんな姿を私以外が見るなんて万死に値する」

 アーシアが、ぷっと吹き出した。

「ラシード、可愛い。見られたって減るものじゃないし。嫉妬は駄目って言ったでしょう?」

 めっ、と言ったアーシアがラシードの鼻を弾いた。彼女が腕を動かしたから胸がぷるぷるんと弾んだ。それにラシードの視線が釘付けになった。

「・・・・なるほど。これが、ぷるぷるんな訳だ」

「な、何?」

 アーシアは嫌な予感がして訊ねた。視線の先は・・・胸?

「ぷるぷるんだよ。ラカンに見せたと言う・・・」

 ラシードはそう言いながらアーシアのその胸に触れてきた。

「だ、駄目!ラシード!こんな所で、み、みんなが見ているじゃない!」

 アーシアは焦ってラシードの腕の中で騒いだ。

「みんなって?誰もいないが?」

 アーシアは、はっとして辺りを見渡した。そこは一度ラカンと来たことのあるあの個室だった。アーシアが動転している間にそこに連れ込まれたのだ。そして中央にある大きな寝台に座らされた。

「あっ、いつの間に?ここ、ラカンと来た奥の秘密部屋よね」

 アーシアが、あっと思った時には遅かった。


「ラ・カ・ン、と?此処に?連れ込んだ個室って此処だったのか?あいつこの話しはしなかったな・・・」

「ラ、ラシード、怒ったら駄目よ。ラカンとはもちろん何にも無かったんだから。ここで話をしただけよ。ねっ、ラシード?」

 むっとしていたラシードだったが不気味な程直ぐ機嫌が直った。

「アーシア、君のその格好。とても気に入ったから二人で過ごす夜はいつもそれを着てくれないかな?夜着の代わりに。そうしてくれるならラカンを怒らないし、秘密にしていたのも怒らない」

「そ、そんな言い方ずるいわよ。そ、それにいつも夜着は直ぐ脱がせるじゃない。い、意味が無いでしょ!」

 アーシアは真っ赤になりながら抗議した。夜の主導権を握るのはいつも彼だった。しかも獲物を狙ったかのようなラシードの真紅の瞳に対抗出来るとは思えなかった。

「アーシア、そんな衣装は裸よりそそられるって知ってるか?それに脱がさなくても便利に出来ているし・・・」

 ラシードが囁きながら慣れた手つきで衣装に手をかけてきた。

「ラシードの馬鹿!」

 バチンと頬が鳴った。

「ア、アーシア!」

「この部屋知っていたって事は来たことあるんでしょう!そしてこんな衣装着た女の人ともそういうことしていたのでしょう!」

「そ、それは昔の事で・・・うわっ!」

 枕が次々とラシードめがけて飛んで来た。最後の一個を投げられると思ったラシードが目を瞑った。しかし、ドンとぶつかってきたのは枕では無く、体当たりしてきたアーシアだった。

「ア、アーシア?」

「いやらしいラシードは大嫌い。だけど大好き!」


 驚くラシードに自分からそっと頬に口づけて、さっと離れると手足に付けている鈴がリンと鳴った。そして蜜のように甘く微笑んだ。期待を持たせて、すっとかわす。店で習得した技だ。最後のこの微笑で何人の男達が虜になって翻弄されたか・・・

 ラシードも例外では無かったようだった。その反応を楽しむようにアーシアは蝶のようにラシードの周りで色香を振り撒いた。

「ああ、もう、アーシア!良く分かったからもう二度とそんな格好しないでくれ!」

「ふふふっ、何故?ラシード、好きなんでしょう?」

 アーシアはラシードに捕まらないように、さっと逃げる。その度に殆ど隠れていない胸のふくらみがぷるぷるんと弾む。

「いい加減にしてくれないと私の理性にも限界がある。ここで獣のように襲われたく無かったら頼むから何か着てくれ」

「降参?」

「ああ、降参だ」

「じゃあ、ご褒美!」

 アーシアはさっと近づいてラシードの唇に軽く口づけした。そしてぱっと離れようとした時は遅かった。

「捕まえた」

「もうっ!降参したって言ったのに、騙したのね!」

「騙して無いさ。君には全面降伏だよ。でも他に着るものが無いだろう?それは刺激的すぎるから脱がせようと思ってね」

「ちょっ、ちょっと、ラシード!」

 アーシアの抵抗空しく、手馴れた様子であっという間に脱がされてしまった。こうなったらラシードの手管に逆らえないアーシアは主導権を取られて頭はふわふわ状態。

 ジーナの言う通り、まだまだ修行が足りなかったようだった。だからちょっと真面目に修行続行を考えてしまう今日この頃。いつかラシードを瞬き一つで翻弄する女になりたいと思っているアーシアだったが、もう既にそうなっているとは気がついていない。本人だけが全く自覚の無い彼女にラシードは何時も理性との勝負だった。


イチャイチャの回でしたね。とばっちり受けて可哀そうなのはラカンだけかな(笑)

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