チートとして渡された能力が『量子力学』なんだが、これでどうしろと?
俺は冒険者。
ただいまダンジョンを攻略中。
『ヤバイから入っちゃだめよ~』
クソみたいな古代文字の注意書きのある扉。
無理やりこじ開けて中に入ると――
「おお……勇者よ。よくぞ参った」
「……?」
知らない場所へと飛ばされた。
王族らしき人と大臣っぽい人たちがいる。
どうやら俺は死んだようで過去の時代に転生したらしい。
これがうわさに聞く勇者召喚ってやつか。
早速、魔王討伐を命じられる。
『チート能力』である『量子力学』の力を授けてもらえるという。
俺は雑魚モンスターでこの能力を試すことにした。
ぼか! どす! ばき!
致命的なダメージ。
俺は死んだ。
過去の時代のモンスターの強さは段違いだ。
ところがどっこい、俺は生きている。
モンスターは困惑しているっぽい。
正直、俺も困惑している。
なんで死なないの?
それから数回死にながら無事にモンスターを撃破。
もしかしてこれって不死身の能力なのか?
戦い続けて分かったことがある。
どうやら敵は俺の死を認識できないらしい。
賢者から聞いた話だと、俺が死んだ世界と、死ななかった世界の揺らぎがどうたら。
意味が分からないが、つまり最強ってことだろ。
このまま魔王城まで突っ走るぞ。
どか! ばき! ぼき!
なんども死にながら魔王城へ。
幹部級の奴らと戦ったが、死なない俺は絶対負けない。
「くくく……よくぞ来たな勇者よ」
ついに相対した魔王。
俺は剣で切りかかる。
ずばっ!
あっさり首をはねてしまった。
これが魔王?
手ごたえがなさ過ぎ――
ぎぎぎぎ……
突然、魔王の間の扉が閉まる。
「くそっ! 出せっ!」
扉をたたいても無言。
びくともしない。
この部屋には他に出口がないぞ。
しまった……閉じ込められた!
「よし、上手くいったな」
魔王はほっと胸を撫でおろした。
「殺しても死なない勇者、強敵でしたね」
「ああ……しかし対策手段が分かっていれば問題ない。
二度と開かぬよう厳重に封をするのだ」
「「「はっ!」」」
魔王の命に従い、部下たちは部屋の封印を開始する。
勇者の能力は魔族たちで研究がすすめられ、対策案が練られていた。
死を観測されない不死の存在であったが、そもそも観測しなければいいということで、おびき寄せて封印することになったのだ。
偽の魔王につられた勇者は特別に用意した牢獄の中へ自分から入って行った。
扉が開かぬよう完全に閉じ込めたら、最後に注意書きをぺたり。
『ヤバイから入っちゃだめよ~』
これでこの扉を開く者は誰もいないだろう。