VI.集められるものは集めましょう
冒険者ギルドに加入してみてからだいたい三週間。
あれからある程度魔物を倒して、一応高名になってきたので、冒険者ギルドの中でも情報集めようか。
「何について聞きます?」
「まず、『災厄』…いや、特に強い魔物について。あと世界地図とか、国際情勢とかも調べてくれると嬉しい」
「わかりました」
じゃ、アレンくんいってらっしゃ~い。
さて私はどうしようか。文字も読めない、言葉もわからない…待機安定っすわ。
「Y’p,(>×@:$%^\\*+'()}"?!#_!」
…やっぱついていけばよかったかもしれない。
んー……なんかめっちゃ話しかけられてるな。表情と態度から私を煽ってることだけはうっすらわかる。相手さんは私が白ローブ着てフードまで被っているからこっちの表情どころか顔すら見えないだろうけど。
「*;>6#$%&'(')=#0-!!」
だから言葉からわかんないんだって!何、私にどうしろと?わざわざフード脱いで嫌そうな表情をありありと見せてやればいいのか?やるつもりないけど。しかし、この人しつこい。なんでこんなに絡んでくるんだよ……暇なのかな……。
そんなことを考えながら適当にあしらうこと30分ほど。まだやめない。しつっこい!相手からは表情も顔色も伺えないからこっちの台詞を待ってるんだろうけど、私は!こっちの言葉を!話せないの!
ああもう面倒くせえ!
ドーーーン!!
…そうして焼き崩れる目の前の机。唖然としている周囲の人々。そして、ぽかーんと口を開けてこちらを見る例の受付嬢。
目の前の机を、魔法でちゃちゃっと直す。ついでにスコーンと紅茶も出す。
ああすっきりした!お茶が美味しい!
「ちょ、ちょ、ちょ!何やってるんですかご主人!」
あ、終わった?少し待ってね切り替えるから。
「アレンくん!どう?情報集まった?」
「集まりはしたけど今の一瞬でキャパオーバーです!いや…いや、集まりましたけど!」
アレンくんは混乱しながらそう言った。まあそうだよね、普通あんな爆発音聞こえたらびっくりするもん。
とりあえずアレンくんが集めた情報を聞いてみる。
大陸のかたち自体は、私のいた時代と変わってないみたい。ユーラシア大陸、南北アメリカ大陸、アフリカ大陸みたいな感じで。ただ、国名は微妙に違うし、場所も変わっているところが多い。日本なんか、交流が薄すぎて今じゃ「未踏の島国」「奇跡の国」って呼ばれてて、人がいるのかすら不明。
で、今私達がいるのは、だいたい旧英国の南側、というわけで。で、肝心の強い魔物だけど、やっぱりいるらしい。しかも、どれもこれも伝説級の強さで、討伐された記録はないとのこと。その中でも特に強いのは二体。
一体は通称Shellker。旧サハラ砂漠(現在は砂漠範囲がもっと拡大してた)をうろつく化け物で、認識されて生き延びた人間はいない。どうしてその存在が世に伝わっているかというのは、そいつに気づかれることなく生き延びた調査隊の生き残りのおかげだ。
その証言によれば、「赤くて青かった、柔らかいのに硬かった、圧倒的な強さで殺しておきながら泣いていた」とのこと。一見矛盾だらけだ。事実、錯乱しているとして病院に押し込まれたそうだが、彼は自殺してしまったためもう話は聞けない。
もう一体は通称Diam。大量の使い魔を用いて、襲ってきた人を屠り、食らうのだそう。こちらは調査隊を出しても帰ってきた試しがないため、近くの街の冒険者ギルドの目撃情報を寄せ集めてはりあわせて作った記録だそうだ。場所は旧アマゾン川流域。
あれ、おかしいな。一応排除するべき『災厄』は三体だって聞いてたんだけど。作者がミスった?いやいやないない。あいつこういう設定だけはしっかりしてるからね。残りの一体はどこ行った?
それは一旦置いとくにしても、どちらも厄介極まりない。前者の方は情報が多少あるからまだマシだけど、後者に関してはこれしか情報が出回っていないのだ。アレンくんは一応話を聞けそうな人に片っ端から聞いていったようだから、これが冒険者の間での共通認識なんだろう。
しかも二体ともバラバラかよ〜場所めっちゃ離れてんじゃん。どうすっかな〜…。
うん、とりあえずギルドの人たちに謝ろう。