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ちょっとした小話:「冒険者とは言いますが」

「冒険あんまりしてないよなぁ」

「なんですか唐突に」


 店内の一角でフォークをもてあそびながらボソッと呟いた一言は思いの外大きかったらしく、アレンくんに目ざとく…耳ざとく?聞かれてしまった。


「いやさ、私達って一応『冒険者ギルド』に所属してるわけじゃない。その割には護衛とか、学者サマのパシリの調査用の採取ばっかで、未知の開拓とかしてないよな〜って思ってさ。いや最初に話はされてたけど…」

「ああ、なるほど。俺の説明不足でしたか」

「説明不足?」

「この名称には、世界の歴史が絡んでくるんですよ」


 なに、歴史?歴史だと???

 そういや、忘れてたけど作者(アイツ)意外と凝り性だったな。魔法とかふわふわファンタジー系は説明も入れないのに、人の営みに関しては理論をバチバチに盛り込むやつだった。


「この世界では、もともと海の向こうや大陸の端と端までの物流が無かったんです」

「だろうねぇ、はじめからあったらびっくりだよ。せいぜい隣国との交易が〜くらいでしょ」

「はい、でも世界は当然広いわけで、利益の為、ロマンの為に動く人もまた当然居たわけです。危険も顧みず、まだ見ぬ世界へと開拓しようとする人物らを、畏敬の念を込めて『冒険者』と呼んだわけです」

「なるほど?」


 つまりあれか、大航海時代のコロンブスやマゼラン。あれはたしかスパイスか何かを求めて直接貿易しようとしてたんだっけ?

 その土地ごとに名産品とかはあるからね、コロンブスやマゼランは団体だったけど、いつの時代も人の考えることは同じか。


「そして、昔の冒険者たちは、日雇いの仕事もたくさんしていたんです」

「え待ってなんで?」

「その土地のお金がなくちゃ宿も取れないですし、包帯や薬、パンなんかはどうしても消耗品ですから」

「あそっか」


 そっか、そうだよね。働く時間を惜しんで野宿するよりかは、ある程度働いてお金を得て、宿を取るほうがよっぽど効率的で安全だ。野生に魔物なんてのがいるからなおさら。

 現地で消耗品を買うためにも、お金って必要だからね。


「で、あれか。日雇いの仕事っていうと…」

「どうしても肉体労働が多くなるわけです。旅先で、自分を知っている存在がいないからと強盗行為をする輩も居たそうですが、そういう奴は特徴を書いて懸賞金をつければ、他の冒険者が捕らえてきてくれるわけです」

「治安維持の効果もあったんだね」

「そうですね。まあ絵の技術が発展するまでは誤認逮捕も多かったようですが…」

「まあ『泣きぼくろ』『ツリ目』『金髪碧眼』とかだと該当者多そうだもんね…」


「なんの話でしたっけ」

「『冒険者は日雇いの仕事が多かった』」

「ああそうでした」


 一口水を含んで、アレンくんは続ける。


「で、国と国の間でそれなりに道が整備されてくると、今度は冒険者があぶれてくるわけです」

「未知の領域がなくなっちゃったわけだ」

「はい。まぁ正確には少なくなっただけで危険な未開発区域は残っていますが…まあ今はいいでしょう。開拓者としての仕事がなくなると、今度は日雇い・肉体労働の厳しい毎日が続きます。でも、国家としても、警察や騎士団の他にも治安維持組織の効果を持つ冒険者を、わざわざ捨てたくなかった。で、ちょうどいいことに、国家間での取り決めで、大きな組合を作ろうという話が持ち上がったわけです」

「渡りに船ってわけだ」

「はい?はぁ、まあ…それで、世界同盟に多くの国が所属し、冒険者を管理することになったわけです。国境を軽く越えてしまう冒険者を管理するには、一国一国じゃあ限界はわかりきってますから」

「へー」


 なるほど、『冒険者』って名前だけ残ってるのはそういうことか。

 筆がないのに筆箱、下駄がないのに下駄箱、冒険はしないけど冒険者ギルド。なるほどこういうことね。

 国境を軽々と越える特権は未だに残っているけれど冒険はしない。代わりにその特権を使って、交易の護衛として同行したり、危険な場所に片足突っこむ学者サマの護衛をしたりするわけだ。


「ちなみに、連合の大きな枠組みに収まっていればいいので、各国ごとに少しずつ条件が違ったりするんですよ」

「あ、そうなの?」

「そもそもお金のレートが違いますし、国ごとに名称(ことば)も違いますから。冒険者が否定的に見られている国も少なくないようですしね」

「あー…そっか、開拓された側からすれば、冒険者=侵略者ってイメージが払拭されてないのかも」

「まあ何事にも表と裏は存在しますからね。他にも、国境内に収まる範囲であれば、各国に医療ギルドや商人ギルド、多数のギルドを統括する労働ギルドがあったりします。国ごとに条件が違うのは、多くの冒険者ギルドが連合の枠組みと労働ギルドのルールに従っているからですね」

「あーなるほど。労働者組合がしっかりしてるのか」


 思えば、『彼女(作者)』って時間外労働とかまっぴらごめんってタイプだしな。その辺しっかりさせてるのはそのせいか?いや、シンプルに一回ものすごく発展した近未来SF的な世界を体験した世界観だからかも。名誉革命やフランス革命と同じような民衆蜂起はお断りだもんね、王族からしたら。


「ちなみに、為替相場なんかも冒険者ギルドに聞けばわかりますよ。両替はさすがに商人ギルドの傘下でないといけませんが」

「そうなんだ〜」


 ほんと、こういう世界観だけはしっかりしてるよねえ。私もこの世界である程度過ごす以上、もっとしっかり、いろいろと勉強しなくっちゃ。

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